第34話〜『万物の図書館』
通路は依然として氷に覆われ、鎖とベルトが蠢き、礫が空間を埋めるように飛べば拘束具がそれを防ぐ。
神獣の少女を相手取って互角以上の状況を作り出している十戒も人間離れしているが、これだけ濃密な魔法を使い続けている少女もまた相当な脅威だ。
ちなみに、ちなみにだが。
最初のこの4人の立ち位置を覚えているだろうか。
一本の通路上にトモの視点から言って左から隊長と呼ばれる胡散臭い男に、それを庇うように前に出てきた十戒。
そしてトモを挟むように右側に神獣の少女。
通路の高さはそこそこ、横幅は4人が並んで歩けば埋まる程度。
隊長と十戒側からしてみればトモはどうやら捕獲対象。
少女からしてみればトモは殺戮対象。
当然のごとく逃げ道はない。
普通に考えればトモを無視して十戒と少女が争う前に十戒とトモ、もしくはトモと少女が戦うのが先な訳だが。
さて、ここで問題です。
トモは今どこにいるでしょうか?
正解は『異空間』である。
「ようこそようこそ『万物の図書館』へ。歓迎するぞ?ここなら静かに話ができる」
戦いが始まった直後、トモは本気で気配を紛れさせた。
消すのではなく紛れる。
空気のように当たり前にそこにある世界に己を同調させる。
十戒や少女は互いに意識が向いた瞬間からトモの存在を忘れてしまったように戦い続けていた。
トモは普通に歩きながら、十戒の横を通り、隊長の横も通り過ぎ、そしていつの間にか別の空間にいた。
「まったく、あの空気で何事もなかったみたいに立ち去ろうとするなよ。最初から見失わないよう視てなかったらどうするつもりだよ」
先ほどまでの氷漬けの通路ではなく、全く別の空間、いや室内だった。
図書館?
そうとしか表現できない。
しかし広すぎる。
見渡す限りに続く書架、見上げれば果てまで続くのではないかと思えるほど高くまで続く本棚。
何万冊どころの話ではない。
世界中の本がここにあると言われても信じてしまえるほどの規模だ。
「驚いたか?ここはこの本の中に創られた空間でな。これを貸してくれたお方曰く、あらゆる世界の叡智がここに集まっている、らしいぜ?」
いや、どうでもいいからそろそろ名前を名乗れ。
誰がとは言わないがいつまでもあの男や隊長なんて書き方してると苦情がくるだろう。
……?
トモは一瞬頭に浮かんだ何かを思い出そうとするが、泡のように弾けて消えてしまったかのごとく思い出せない。
おそらくどうでもいいことだろう。
「ん?そういえば自己紹介がまだだったな。俺の名はアキサメ。魔王軍第一部隊の隊長をやっている」
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