第31話〜下水少女
雪よりも固く冷たい蒼い気配。
氷柱のように鋭い視線は熱く。
吹雪のように猛烈な目は烈火。
その姿はまるで雹の精霊に肉体が与えられたかのようだった。
人でも無く、獣人でもなく、ある意味両方の特徴を奇跡的に再現したように美しい少女だった。
ラピスラズリのように澄んだ瞳はまっすぐトモを見据えていた。
少女は可憐な口を開き、
「よくも!私をあんな……汚水に閉じ込めてくれたわね!」
そんな外見的な美しさなど関係ない、むしろ年相応な口調でトモに向かって少女は殺気立った。
そこはかとなく残念な空気を感じたトモである。
しかし初対面のはずの相手にこうまで殺気を向けられる理由は……。
あ。
トモはようやく地下水路で穴に落とした少女のことを思い出した。
なぜか頭が霞みがかったように思考が覚束ないが、よくよく見れば耳と尻尾を無くせば余裕の笑みを浮かべたまま穴に落ちて行った少女である。
納得の激昂である。
普通に考えたら後ろから刺されても文句は言えない。
これは悪気はなかったとはいえトモが完全に悪い。
手間をかけずに最小の被害で場を抑えるのに最適だったため後悔はしていないが。
「神獣は君が保護していると聞いて油断していたよ。まさか私に不意打ちを食らわせるとはね」
ちょうどそのタイミングで氷の檻から脱出してきた男。
どうやら勘違いしているようだった。
そして訂正する間も無く呟く。
神獣、と。
「まぁ過程はどうあれ目的は達成できそうだし、むしろ問題ありませんね。先に手を出してきたのはそちら。正当防衛というものです。これで交渉はこちらが有利に進みますね」
そういえばこの男、名前なんて言うのだろうか。
男、男と繰り返すのもそろそろ面倒になってきたな。
トモはそんな事を思った。
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