第30話〜三者邂逅
男の言葉にトモは首を振って答えた。
答えはNOだ。
この男は胡散臭い。
それに先ほどから妙な言動で…。
あれ?
男は何と言っていた?
色々と言われたはずだが、トモの記憶からは不自然なほどスルリと消えてしまっている。
無意識にか、なぜか左手が胸元の高さまで上がって、そして下がった。
「うーん、厄介だなぁ。せっかく準備して、手回しして、建前を用意して、君たちを迎えに来たんだけれど。檻の中の罪人を甘く見過ぎてたかな。どれだけ深く複雑な【 】を施したんだか」
何を言っているのか分からない。
ここまで頭に入ってこないのも初めての経験だった。
しかし一つだけ確実なことがある。
敵だ、始末しなければ。
トモはあくまで自然体のまま黒塗りのナイフを、そして艶消しした複数の針を袖口で構える。
ふと沸いた思考は靄がかかったような、理解を拒んでいた脳に染み渡る。
まるで思考を何かに誘導
「みぃ~つぅ~けぇ~たぁ~わぁーよぉーーー!!!」
トモが指先の動きだけで針を投げようとしと瞬間だった。
地下施設3-57地点に怨念の混もった声が響いた。
同時に、決して狭くはない通路全体が凍りついた。
まるでいきなり氷雪地帯に放り出されたように、氷の樹木が床も、壁も、天井も覆い尽くしている。
トモは氷の監獄にただ一人だけ取り残されていた。
まるで氷の蔦が避けて通ったように、トモの周りだけが取り残されている。
いや、この氷の世界にはトモの他にももう一人いた。
一人というか、一匹だろうか?
通路の先、声が聞こえた先には白銀の毛並みの女性がいた。
「獣人?いや、氷雪系の魔法を使う獣人はこの大陸にはいない。まさか神獣か!」
氷の路を進んでくるその女性にトモが目を奪われていると、氷の壁を突き破ってあの男が現れた。
どうやらトモと違ってこの男は氷の蔦に囚われていたらしい。
もっとも傷一つなく、口調こそ驚いているが愉しげに口元を緩めている男からは余裕すら窺える。
「……、…くも」
獣人?の女性は何かを呟きながらどんどん近づいて来ている。
「よくも、よくもよくもよくもよくもよくもよくも!」
よく見ればまだ少女と言っていいくらいの見た目だ。
冒険者のような格好をしていて、白銀の髪を背中まで伸ばし、本来耳のある場所よりやや高い位置に獣の耳が乗っかっている。
そして腰のあたりからは同じ毛並みの尻尾。
特徴だけ言えば獣人だが、先ほど男が言っていたように氷雪系の魔法を使える獣人はこの大陸にはいない。
獣人は身体強化系の魔法を扱うことはできるが、放出系の魔法は一部を除き使えない。
つまり、そんなことができるのは神獣と呼ばれる獣しかいないのだ。
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