第27話〜ランドルフ=イゴール

ランドルフ=イゴール。


抜け目ない男だ。


そして、そこそこ、いい眼を持っている。


【スキル】や【魔眼】の類ではない。


裏で生き抜いて行く上で必要不可欠な、強者を見抜く鋭い観察眼。


むしろこの場合は危険を嗅ぎ分ける嗅覚と言うべきか?


もはや本能に近いのだろう、後ろで控えているアッシュの派手な装いには眼を向けることなく、こちらの奥まで見抜こうとしてくる。


まぁあからさま過ぎて逆に踊らせやすい。


情報を小出しにしているようだが、後ろにいる護衛達ほどでないにせよ【神獣】という単語に反応を見せた。


そしてさらにその僅かな反応すらも隠れ蓑にした、もっと大きなものの存在を瞳の奥に浮かべたな?


所詮は二流。


¨犯罪者どもの流刑地¨で育った小悪党ではこんなものだろう。


こいつの、というよりこの街の上層部に太々しく居座る奴らが、必死に隠し通してきたもの。


隠し通せていると勘違いしている存在。


こちらの組織ではある意味【神獣】よりも重要視しているもの。


それをひた隠しにし、あまつさえこちらの手に渡ることを阻止しようとしている。


しかし。


「……なめられたものだな」


甘すぎるよ、小悪党。




「……今、何かおっしゃいましたかな?」


空気に溶けてしまいそうなほど小さな囁きを拾い、ランドルフは目の前の男に問いかけた。


黒目黒髪以外に特徴らしさもない、一見すると成人しているのかも怪しい外見をした男。


どこまでも余裕の表情と態度を崩さない、油断ならない相手。


アレを呼び寄せたまさにそのタイミングで、唐突に面会を要求してきた遠方の組織の重鎮。


偶然なのか、狙ってなのか。


万が一に備えて全ての出入り口は部下に見張らせ、アレがやって来たならば明日に延期する旨を書いた命令書を渡すよう指示も出してある。


アレはやって来ない。


おそらく目の前の男もカマをかけているのだろう。


あえて流しているダミー情報はうまく効果を発揮しているはず…。


コン、コン、コン。


「……誰だ?」


不意にこの部屋の唯一の扉からノックの音が響いた。


この部屋の壁は特殊な加工がされており、完全防音の処置がなされている。


扉に関しても外からの音は通るが、こちらからの音は決して外には漏れない。


【伝達】の術式の刻まれた、この指輪の持ち主が魔力を流しながら指輪に向かって話しかけなければ…。


「ん、あぁ?」


指輪はどこだ?


「おや、こんなところに指輪が落ちてましたよ?」


白々しく演技臭い口調で、目の前の男がランドルフがつけていたはずの指輪を手の平で転がしていた。


「な、てめぇ…!」


一瞬何がどうしたのか分からなくなった。


いつの間に盗りやがった!


そんな叫びが出かかったが、それよりも前に再びノックの音が響いた。


今はランドルフたちが密会しているのは部下たちも把握している。


何かが起こったのか?


「おや、この指輪は君のかい?ほら」


男は呆気なく指輪を返して来た。


どういうつもりだ?


いや、それよりも何か問題があったのかもしれない。


ランドルフの手勢は今ほとんどがこの区画に集まっている。


もし外で何かがあったなら…。


「入れ!」


ランドルフは指輪を嵌め、魔力を流しながら扉の向こうへと声を伝達する。


すると間も無く扉が開き…、


「なぁ!?」


とっくに部下を通した命令書により帰宅しているはずのトモが、部屋に入って来た。


「おやおや、これはどういうことだろうね、ランドルフさん」

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