第24話〜罠

暗がりが続く地下水路に、小さな足音が反響する。


灯りはない。


しかし迷いなく足音は此方へと向かってくる。


等間隔に設置されたヒカリゴケを利用した非常灯の薄明かりも、足元すら覚束無い程度の明かりでしかない。


こんなほとんど闇の中と変わらないような状況で迷いなく進むことができるのは、訓練された者か、はたまた魔道具を使っているのか。


可能性としては五感の優れた獣人や、闇をも見通す魔眼の所有者ということもあり得るか。


トモは冷静に、可能性のあることならば全て挙げていく。


万が一にも想定外のことで虚をつかれないために。




ついに足音はこの空間の入り口へとやって来た。


トモの眼には華奢な体躯の少女が真っ直ぐにこちらを見ながら入ってくるのが見える。


「ふふ、やっと追いつい……え?」


悠然と歩を進める少女からは強者としての余裕が見える。


そして何の躊躇いもなくこの空間に踏み込んで来たところで、足元の穴へと吸い込まれるように落ちていった。


間も無く響き渡る水音。


残されたのは無言のトモと、下を通る下水道へと繋がる穴、そしてそれを塞いでいた地面と同色の布切れ。


トモはこの地下空間のことを誰よりも知り尽くしている。


そして稀に犯罪者やお尋ね者が地下へと姿を隠しているのを討伐することもある。


この街の地下はトモの庭も同然であり、そして万が一に備えた罠なども仕掛けられているのである。


トモは壁に立てかけておいた石板を穴の上に置き、穴を掘る際に出た瓦礫を錘の代わりにその上に置く。


そして何となく合掌。


この穴が繋がる下水道はまだ浄化される前の下水が貯まる貯水池に繋がっており、吹雪が終わってからまだ半月も経っていない今はまだ相当な深さがある。


出口は下水の入ってくる管か、底にある穴しかない。


天井までは数メートルはある上にこうして塞いでしまったからには簡単には脱出することは出来ないだろう。


トモは踵を返して通路へと向かった。


思ったよりも時間を使ってしまったので、さっさと戻ってユキにご飯を作らなければならない。


そして今夜に備えて仮眠を取らなくては。


トモは振り返ることなくその場を立ち去った。


くぐもった悲鳴のような声が聞こえたかもしれないが、気のせいである。

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