第23話〜ユキのトラウマ

ユキは絶体絶命のピンチに陥っていた。


命の危険を全身で感じ取っていた。


全身の毛が逆立ち、野生の勘は最大レベルで警鐘を鳴らす。


これは大好きなトモに拾われる直前まで感じていた、命の危機おも上回っているかもしれなかった。


危機感の根源は目の前にいる。


目の前の、人ともオーガとも言えない、とにかく本能レベルで逃走心を掻き立てられる存在。


トモはそれをマゼンダと呼んでいた。




時は少々巻き戻る。




「あら?」


目があった。


マゼンダが鞄の口から外を見ようとしていたユキに気付いたのだ。


トモがユキが窮屈にならないように選び抜いた鞄だったが、やはり自由に動き回れるほどの大きさはなく、むしろ動いた時に中でもみくちゃにならないようにという配慮故に狭い。


じっと大人しくしているのは苦にならないし、ユキとしては僅かに伝わってくるトモの鼓動と温もりに安心感がある。


しかしたまには外の景色を見たくなる時もあるのだ。


トモの移動する揺れが収まり、どうやら目的地に到着したことが分かった。


鞄の外に出るつもりはなかったが、外の空気を吸うために鞄の口の方に頭を向けた。




そしてそこから見えるオーガのような二つの瞳と目があった。




「あらあらあら~?あら~!かぁわいいわねぇ!」


?!


ユキは身の危険を感じて全身の毛を逆立てた。


アレは恐ろしいものだ。


しかし全身がモコモコとした可愛らしい外見になってしまったことでマゼンダの瞳が血走る。


まずい。


直感めいたものを感じて、ユキは死を覚悟した。


本気で死を覚悟した。


トモがユキを鞄ごと抱いて遠ざける。


ユキの身の安全は守られた。


ユキは親愛の眼差しをトモに向ける。


トモに対する親愛ゲージはMAXを振り切った。


「あらん、隠すことないじゃない」


しかし再び目の前にマゼンダの顔がドアップで迫って来た。


落差がひどかった。


マゼンダのごつごつとした逞しい両手が迫ってくる。


ユキの意識はそこで途絶えた。


後のことは一切記憶にない。


ただユキにはおぞましいトラウマが刻み込まれたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る