第20話〜冒険者パーティーII
「おい兄ちゃん、もう帰っちまうのかよ?まだ夜はこれからだぜ?こっち来て一緒に飲まねえか?」
五人組の中の一人、大柄で前衛職と思われる青年がトモに声をかけてきた。
まだ入ってきてからそれほど時間は経っていないが、すでにテーブルには空になったジョッキがいくつも見られる。
どうやら酒が回りやすいらしく、すでに出来上がっているようだ。
見た目に似合わず、酒に弱いのか。
酒に弱い冒険者ほどタチの悪いものはない。
他の四人はまだほろ酔い程度にしか酔っ払ってはいないようだ。
単純に目に付いたから声を掛けてきただけだろう。
酒飲みの多いこの街ではよくあることだ。
トモはあまり騒がしくするのは好きではないし、酒は静かに飲む方が性に合ってる。
それに鞄のユキが怯えてしまうかもしれない。
「………。」
なので丁重にお断りする。
すると男は、
「あん?俺らとじゃ酒が飲めねえってか?」
と立ち上がりトモに向かってきてしまった。
どうやらこの男、からみ酒の気があるらしい。
どうしたものか。
酒の回りの早い男のからみ酒ほど面倒なものはない。
それが冒険者ならば尚更だ。
冒険者は皆が皆無法者というわけではないが、手の早い者が多いのは事実だ。
「何だんまりきめてやがるよ!せっかく誘ってやってるのによ!」
仕方がない。
トモは一瞬だけ、姿勢もそのままに殺気を込めてみる。
「……っ!止めないか、マーク!」
「そ、そうそう、ほら料理がきたわよ?」
「それにほら、今日は依頼達成のお祝いなんだしさ」
「お、おう。……ちっ、おい新しい酒をくれ!」
マークと呼ばれた男は酔っていたせいか殺気に気付かなかったようだが、仲間たちはそれなりに気配に敏感らしい。
慌てた様子でマークを止めにかかった。
荒ぶりかけた青年、マークは仲間達になだめられて舌打ちしつつも席に戻っていった。
手慣れた様子からして、よくあることらしい。
マーク自身も口調ほど荒っぽくはないのか、あっさりとした反応だった。
仲間達からは申し訳なさそうな、しかし軽い怯えの含まれた目線で頭を下げられる。
酒場で絡まれるのはたまにあることだし、今回は特に実害もないので軽く手を振って店を後にした。
軽くとはいえ込めた殺気に、あの年で気づけるならば彼らのパーティーは将来有望だろう。
トモに気づけたのだから、マークも酔ってなければ相当実力は高いのだろう。
しかし普段は気配を薄くしているので気付かれることもあまりないのだが、どうやらユキに意識が向いていて注意が散漫になっていたらしい。
まだまだ未熟、ということか。
何はともあれさっさと帰ってユキの相手をしなくてはいけない。
トモは振り返ることなく真っ直ぐねぐらに帰った。
だから気付かなかった。
絡まれてから終始無言でトモの、いや、その胸元の辺りだけを見つめていた少女の存在に。
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