第17話〜その胸の内に
「またね~♡トモちゃん、ユキちゃ~ん!」
大和撫子のごとく慎ましやかに逞しい腕を振るマゼンダに見送られて、トモは店をあとにした。
ユキは燃え尽きたように真っ白に染まっていた。
いや、もともと白くはあったが、色彩が失われたと錯覚してしまいそうなほど色々と抜け落ちている。
艶やかだった毛並みはしんなりと萎びたようだった。
マゼンダは悪い人間ではない。
むしろトモのような者にも分け隔てなく接してくれる、懐の深く広い立派な人格者なのだ。
第一印象と存在感が並みでないだけで。
マゼンダはかつて遠くの国で冒険者とウエイトレスを兼任して生活していたらしいのだが、今は静かな土地で自分の店を持ちたいという夢を叶えてこの街で生活している。
トモにはよく分からないが、色々なしがらみもあったらしい。
そして「紫外線はお肌の敵なのよ~」とか「雪景色は女を3倍美しくするのよ!」とか「うるさいとストレスが貯まって美容に悪いのよ~」などと、トモには理解できなかったが多くの敵と悪意?から逃げてきたのだそうだ。
トモには、よく理解できなかったが。
新調した防具類は後日受け取りに行くことになった。
マゼンダは一人と一匹を送り出すと、可愛らしい装飾のなされた椅子に腰掛け、作業台の上に置かれた防具たちを見た。
これらは全てマゼンダ自身が一から造り上げた作品だ。
1つ1つに手間暇と愛情をかけ、我が子のように大事に扱い、冒険の旅へと送り出す。
マゼンダはこれまでに生み育てたきた我が子達のことは全部覚えている。
トモが過去に置いていった、使えなくなった防具類。
それらは破損などが酷くて修繕のしようがなく、今は倉庫の中で大切に保管されている。
マゼンダは防具類を大切に扱わない者に自分の店の商品(我が子たち)は売らない。
しかし、我が身の命さえも道具として扱うトモを見て、この子には私の防具たちが必要だと感じた。
職人としての修行を終えてから何人かそう感じる人物がいた。
マゼンダはその直感に従うようにしている。
トモは最近、防具を含めた身の回りのものを大切にしている。
この防具たちも丁寧に、大切に扱われていたことが一目見ただけで分かった。
同時にどれだけ拭おうとも染み着いて離れないほどに、血と死臭が染み込んでしまっていることも分かる。
これらは全てトモ以外の人間の血。
防具類には表面的な傷はあっても、内側には一切の穴も血痕も付着していない。
あくまで返り血だけ。
それも最小限に抑えられていてこの量だ。
いったいトモは前回この店に訪れてから何人、始末してきたのだろうか。
トモとの付き合いも長い。
トモが普段何の仕事をしているか、これまでにどんなことをしてきたか。
直接聞いたわけではないが、把握している。
なぜ、あんな仕事をしなければならないのかも。
マゼンダは防具(我が子)たちをそっと撫でて嘆息した。
何もない、いっそのこと無垢と言っていいほど純粋だったあの子が。
今では誰よりも心優しいあの子が。
誰よりも命を大切に扱うあの子が。
マゼンダの子供とも言える防具たちを大切にしてくれているあの子が。
なぜ……。
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