第16話〜マゼンダ防具店

吹雪が去ったことで街には活気が戻っている。


一段と寒さは厳しくなったが、それでもこの街で生まれ育った人々にとっては毎年のことだ。


トモは人々の活気に混じるように歩みを進める。


懐にはユキ、そして今回は珍しく大きめのリュックに色々と詰め込んでいた。





大通りから外れ、しばらく進んだ場所にその店はあった。


「あら、いらっしゃい。珍しいわね、貴方がお店に顔を出すなんて。今日はどんなご用件かしら?」


艶やかな声音、扇情的な仕草。


色気混じりの雰囲気。


「あら、ずいぶん派手にヤったのね……。若いからって無理は身体に毒よ?」


剃り上げられた頭皮、磨き上げられた見事な筋肉。


「これは新しくした方がいいわね。若い子、入ってるわよ」


ナチュラルメイクに長い睫毛。


「この子なんてどうかしら?ちょっと癖があるけど、貴方との相性はいいんじゃないかしら」


ここは知る人ぞ知る店、【マゼンダ防具店】。


今日は前回の依頼で破損してしまった手甲の代わりを見繕ってもらいにきた。


他にも修繕の必要な道具がいくつか。


マゼンダはごつごつとした逞しい手でトモの身体をまさぐる。


そこにいやらしさはない。


仕事にプライドを持つ職人プロの目をしている。


「あらあら、ちょっと大きくなった?少し防具とかベルトとか、きつくなったんじゃない?調整するから脱いでもらえるかしら」


言われた通り防具を外すと、マゼンダの真っ直ぐな眼力、いや視線がトモの全身を嘗め回すよう、いや真摯に観察していた。


「やっぱりちょっと成長してるわね。留め具とか傷み始めてるところもあるし、いくつか新調したほうがいいわ。それに【ステータス】もだいぶ上がってるみたいだし、もう少し防具と武器の【ランク】をあげた方がいいわ」


マゼンダの【鑑定】スキルは練度が高い。


【隠蔽】のスキルを持つトモのステータスもある程度は覗くことができるほどだ。


もっとも、他人のステータスを覗くのは結構なマナー違反にあたる。


貴族や王族に勝手に鑑定をかければその場で切り捨てられても文句は言えない。


戦うことを生業としている冒険者や技術を修めた鍛冶師、基本的にほとんどの職種の相手に鑑定をかけるのはご法度だ。


マゼンダとトモはそこそこ長い付き合いなので問題はない。


マゼンダも普段は勝手に鑑定など使わないし、そもそも鑑定が使えることは教えない。


それだけ付き合いが長く、信頼関係を築いているということだ。


それ以上の関係ではない。


「あら?」


マゼンダがユキの入っている鞄に気付いた。


そしてそこから覗く二つの瞳と目があった。


「あらあらあら~?あら~!かぁわいいわねぇ!」


鞄が開けられ、ユキの姿があらわになる。


?!


ユキは身の危険を感じたのか全身の毛を逆立てた。


しかし見た目がモコモコとしてより可愛らしい外見になってしまったことで、マゼンダの瞳が血走る。


まずい。


直感めいたものを信じてトモはユキを鞄ごと抱いて後ろを向く。


そこにはすでにマゼンダがいた。


¨狙った獲物は逃がさない¨がキャッチフレーズだとのちにマゼンダは語った。

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