第13話〜一年前の記憶
さらに数日が経ち、吹雪は去っていった。
それを報せたのは街の中央にある、大きな時計塔の先に吊り下げられた大きな鐘。
これは1日に3回鳴り響き、吹雪の際などには鳴る回数が変わる。
そして街中であれば連動して室内に取り付けられた鈴が鳴る魔導具でもある。
なので、熱や音を遮断する構造の建物の中であっても時間を知ることができ、吹雪の終わりも知ることができた。
吹雪が去れば人々は一斉に街中に溢れ出る。
何日も屋内に閉じ籠っていた身体を伸ばし、何より太陽の日差しを求めて外に出る。
その行為に職業など関係なく、トモも久々に街へと足を踏み出した。
「あ、お兄さん」
いつもの格好で通りを歩きながら、消耗品の補充を行っていた。
すると後ろから声をかけられる。
トモが振り向くと、そこには10歳ほどの少女がいた。
最近伸ばし始めたのだという髪を後ろで三つ編みにまとめ、お使いの途中なのか果物などの入ったかごを持っている。
「お兄さん、久しぶりです」
少女は食糧や必需品を届けてくれた夫婦の娘だ。
年の近い兄も、いた。
一年ほど前、ちょうど吹雪がやって来る時期だった。
トモは街に現れる殺人鬼の暗殺依頼を受けていた。
対象はすでに12名の住民を殺害していた。
それぞれが一家を皆殺し。
三つの家族が冷たい亡骸となって発見された。
手口は大胆かつ残忍。
深夜に家に忍び込み、まず子供を、そして妻、夫の順番で殺していったという。
街の衛兵や冒険者にも討伐依頼が出され、そしてトモにも依頼書が届いた。
依頼は難航した。
吹雪の季節が迫っており、住民も慌ただしく、殺人鬼も姿を隠していたから。
そして吹雪がやって来る前夜。
あの夫婦のもとに殺人鬼が訪れた。
トモが現場に居合わせたのはほとんど偶然だった。
どの建物も固く扉を閉めているのに、一つだけ開いているのを見つけたのだ。
そして漏れ聞こえる悲鳴を聞いて駆け付けた時には少女の兄は殺され、残された妹の命も風前の灯火だった。
結果として少女は傷一つ負わずに生き残った。
抵抗した両親も多少傷を負ったものの命に別状はなかった。
ただ一つの命は氷のように冷たくなり、永遠に眠ってしまった。
そして目の前でそれを見てしまった少女も心に深い傷を負ってしまった。
夫婦は残された娘にすがるように愛情を注ぎ、少女もまたこの一年で外を出歩けるようになった。
元の少女はかつて活発で明るい少女だったそうだ。
少女の心は傷付き、燃えるような灯火は今では小さく静かなものになってしまった。
少女は近況を話すとやはりお使いの途中だったらしく去っていった。
思っていたより回復が早い。
もう一人でお使いにこれるようになったなんて。
しかし事件の後も何度か顔を会わせる機会があったが、まだどこかきごちなさを感じる。
夫婦には食糧などを届けてもらった恩もある。
今度家族のもとを訪ねようと思った。
その時は懐で小さくなっているユキを紹介しよう。
もしかしたら年相応の笑顔が見えるかもしれない。
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