第12話〜常冬の始まり

昔々、この街が出来てからそんなに経っていない頃。


まだこの街に春が訪れていた頃の話だ。


一年のほとんどを雪と氷に包まれるこの街が、ほんの短い間だけ暖かくなる時期があった。


雪は解け、氷柱は水に、街の周辺は湖へと姿を変えた。


もっとも街の住民は住むところを失わないように、地下に水路を張り巡らせ、地上に溢れでないよう施設を造ったのでそれ以降街の周辺は湖へと姿を変えることもなくなったそうだが。




辺り一帯は短い間だが緑を見ることができたと言う。


しかし一年のほとんどが雪に覆われるこの辺り一帯を気に入り、住み着いた魔獣がいた。


それは伝説にも語られる氷の魔獣。


標高の高い山々に囲まれ、凍てつくこの地を気に入った魔獣はここら一帯を縄張りにしてしまった。


魔獣の力は凄まじく、漏れ出る魔力が辺りの環境に影響を与え、常冬の様相へと変化してしまった。


当然これまでも極寒の地と言っても過言ではなかったこの土地は、さらに厳しい寒さに襲われることになる。


人々は逃げ出すこともできず、一人、また一人と氷になっていった。


このままでは街の住民は皆死に絶えてしまう。


意を決した人々は魔獣の元へと向かった。


そして長い長い戦いの末、魔獣とある取り決めをするに至る。


そう、伝説にも吟われたかの魔獣は人間の言葉を理解していたのだ。


必死に生きようともがく人々を見て、魔獣は住処を街の近くから山の奥深くへと移動することにした。


そうすれば寒さも抑えられ、人が生きていける程度にはなるだろうと魔獣は言った。


しかし住処を変える代わりに、この地に訪れる春をもらい受けると言った。


それ以来街に春が訪れることはなくなった。


そしてその時期になると魔獣は街へと足を運び、人々の街を練り歩くようになった。


それがこの吹雪の原因であり正体。


街の人々は吹雪と共に訪れる魔獣を刺激しないよう、凍えてしまわぬよう閉じ籠るようになった。


以来本当の意味でこの街は常冬の街となったのだ。

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