第11話〜吹雪と共に訪れるモノ
吹雪が止むまで、時間はいくらでもある。
トモは椅子に腰掛け、膝の上にユキを乗せて道具の手入れを始めた。
毎回仕事の前と後には丁寧に手入れをしていたつもりだったが、やはり分解して隅々まで見てみれば細かい汚れや傷が目につく。
小さな粒や埃、そして微かに残る血と脂の跡。
それらを毛先の細かいブラシや使い古した布でやさしく磨き、それとは別の布に僅かに油を染み込ませて金属部分に薄く広げるように擦る。
一つ一つ丁寧に分解しては結合していき、刃物に関しては砥石を使って丁寧に研いでいく。
時々ブラシや布の端にじゃれるユキをなだめ、手のひらの体温が伝わるようにそっと撫でる。
ユキは鳴かないが気持ち良さそうに目を細める。
そしてお返しとばかりに手や指先を舐めてくる。
ふと不安に駆られる。
ユキは自然にかえることができるだろうか?
穏やかな時間が流れていた。
吹雪が訪れてからもう数日が経過している。
不意に膝の上で寝ていたユキがぴくりと動いて扉の方へ頭を向けた。
緊張しているのか、いつもはしなやかで柔らかいユキの体は強張ったように固くなり、服越しに震えていることを伝えてきた。
そして同時にトモの身体にも緊張がはしる。
視線は自然とユキと同じ方へと向かう。
扉のすぐ横にある、外を窺うための小さなガラスだ。
小指の爪ほどの大きさのガラスが一瞬だけ陰った。
一筋だけ入り込んでいた光の筋が何かに遮られた。
それはまるで扉のすぐ前を大きな何かが通り過ぎたようだった。
「…………ッ」
しばらくしてトモの身体の緊張が解けた時、不意に小さな声のようなものがすぐそばから聴こえた。
ユキが初めて鳴いた瞬間だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます