第10話〜ブリキ人形に魂を

寒さを防ぐために、この街の建物の壁は何層も重なった作りになっている。


そのため外の音はほとんど聞こえてこない。


ただただ無音が空間を満たしている。


トモとユキとの間にも音はない。


しかし、その無音は居心地の悪くなるものではなく、心地よく落ち着くものだ。


吹雪はまだ止みそうにない。




嵌め込まれた分厚いガラス越しに真っ白な世界が覗く。


ふと、思う。


街の住民はどう過ごしているのだろう。


家族のいる者はゆっくりと語らい合うのだろうか。


あの夫婦はきっと身を寄せあってこの吹雪が終わるのを待っていることだろう。


真ん中に残された子供を挟むように座っている姿が目に浮かぶようだ。


一人身の者は何をして時間を潰すのだろう。


昔馴染みは今年も一人だろうか。


昔から孤独を好むたちだったので、今頃いつもより満たされているかもしれない。




とりとめのない思考が渦巻く。


去年のこの時期、トモは何をして過ごしていただろうか。


……思い出せなかった。


本を読んでいた気もするし、導具の手入れをしていた気もする。


少なくとも、一人だったことだけは確かだった。


一人で、独りだった。


少なくとも、他者のことを考えて没頭することなどなかった。


今は懐に命の灯火がある。


今にも消えてしまいそうだった小さな灯が、必死に生きようとしているのを感じる。


去年までのトモは魂のないブリキの人形だった。


魂を吹き込んだのは小さな獣だった。

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