第9話〜雪よりも厳しくて重いもの
雪が降り始めた。
燃えるように冷たい雪だ。
冷たくて、容赦がなくて、重い。
急いで帰ろう。
この雪の中では人は長く生きられない。
一時的に、この街は死ぬ。
ねぐらに帰ると、扉の前には大きな木箱が置かれていた。
どうやら馴染みの夫婦がまた食糧や必需品を届けてくれたらしい。
以前依頼の途中、対象に襲われていた所を助けてから、彼等はこうして世話を焼いてくれる。
ついでだったから、感謝される謂れはないのに。
二人いた子供のうち、片方は間に合わなかったのに。
時に感謝は雪よりも厳しくて重い。
トモは入念にコートに付いた雪を落とし、二重の扉を閉めて外気が入らないようにする。
そして懐で眠るユキを起こさないようにそっと抱いてベッドに置いて、毛布をかけてやる。
場所によってはユキをそのまま連れていくことはできない。
ましてや依頼の最中はどうしようもない。
しかしトモから離れることのできないユキを置いていくこともできなかった。
なので懐に動きを阻害しない程度に固定した鞄にユキをいれることにした。
ユキがまだ生まれてから間がなく、身体が小さいからこそできることだ。
成長してくればこの手は使えない。
願わくばいづれ一人立ちできるようにとトモは願った。
熱を放出する魔道具に魔石を嵌め込む。
狭い空間に柔らかな温かい空気が拡がった。
しばらくは外に出ることはできない。
備えはあったが、木箱の中身があるので今回は余裕がありそうだ。
服を着替え、トモはベッドに横になり、毛布をかぶってユキを抱いて丸くなる。
依頼の後はいつも食事は食べないようにしていた。
空腹で横になるといつも以上に身体が冷え込む。
だが抱いたユキのおかげで、今夜は凍えずに済みそうだった。
命の灯は雪よりも脆く儚い。
しかし温かいのだと知った。
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