第8話〜雪が降る前に

朝から空を分厚い雲が覆っていた。


心なしか街を出歩く人々の表情も暗い。


おそらく夕方ごろから雪が降る。


明日には吹雪になって外に出れなくなるかもしれない。


依頼を果たす頃にはまだ降らないといいが。




アルドはその日、昼間から連れと酒場で飲んだくれていた。


午前中に依頼を完済し、ギルドの新人とおぼしき職員に半ば脅すようにしてぼろぼろの毛皮を押し付け、さらには追加で金を要求してそれが通ったからだ。


いつも問題のある冒険者の相手をしているベテランは休みだった。


ギルドから直接酒場に向かい、もうかれこれ一時間ほど酒を飲み、つまみを食い散らかしている。




調べて分かったのは依頼者は複数の連名であり、ギルド職員や飲食店、その他アルドによって迷惑を被った者たちによるものだった。


アルドはCランク冒険者の肩書きと暴力を振りかざし、毎回無銭飲食を行い、武器や防具などをつけで半ば無理やり持っていくなどしていた。


ランクの降格処分や資格の剥奪をしようにもギルド職員の中には恐喝されて脅されている者もいるし、さらにはオルドに賄賂として違法薬物を受け取っている者もいた。


ギルドは表沙汰にできず、街の人々は直接的な暴力に怯えて表だってオルドを排除することはできない。


そこで仲介人を通して依頼されたのがトモだったというわけだ。




「おら!つまみがなくなったぞ!早く持ってこい!」


「酒もだ!さっさとしやがれ!」


あまりの騒がしさに最初からいた客はどんどんと店を後にしていった。


そして店の隅でオルドの様子を見ていたトモも店を出る。


外に出るとそろそろ日が暮れ始めていた。


物乞いや孤児などはもう姿を消している。


通りはやや早足で進む人々で慌ただしく、他の店は早くも戸締まりを始めている所もあった。


もうすぐ雪が降る。


降りだす前に備えなければ、この時期の街は地獄だ。


「おら、つまみはまだか!」


店の外までオルドの怒鳴り声が響いてきた。


そういえば、オルドは去年の今頃より少し後になってからこの街にやってきたのだったか。


パーティーメンバーも同様で、誰一人としてこの街のこの時期を経験した者はいない。


トモは静かに、せわしなく早足で移動する人々に紛れた。


酒盛りをした後のオルドの行動は予想がついている。


パーティーメンバーの誰一人として連れず、貧民街の方にある娼館に向かうだろう。


おそらく店は閉まっているだろうし、貧民街の住民も早々と姿を隠しているだろうが。




予想通りにオルドは貧民街へと続く道を通り、トモの投げた小石に激昂して横道に入り込んだ。


それを見ていた者は誰一人としていなかった。


すでに通りに人影はなく、それぞれの家に帰った後だった。

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