第7話〜街の地下
トモは仲介人から受け取った依頼書を開いた。
字は意図して整えられたもので、最低限の内容のみが記されている。
ちなみに今トモがいる場所は、街の地下を通っている下水道の横にある点検用の通路だ。
この街の地下には広大な下水処理施設が存在する。
それはこの街が造られた当初、年に一月ほど訪れる雪解けの季節に街がほぼ水没してしまったことに起因して造られたのだと言われている。
一年のほとんどを雪と氷に包まれる街も、昔は短期的にでも凍えぬ時期があったのだ。
しかし今はとある理由で雪解けの時期は無くなり、今では地下に施設と迷路のような地下水路と通路があることを知る者はほとんどいない。
閑話休題。
依頼書にはアルドという男をある地点に誘導し、そこで処分するようにとあった。
場所は貧民街近くの廃施設跡。
対象のアルドという男の情報も簡単に書かれている。
しかしトモはすでにそれ以上の情報を持っていた。
この街でトモに回ってくる依頼には傾向がある。
そのため、事前にある程度候補者の情報を集めていたのだ。
アルドはその中でも特に可能性の高い人物だった。
Cランクの冒険者であり、【黒狼の牙】というパーティーのリーダーをしている。
普段の素行の悪さとギルド職員への恐喝行為、無銭飲食や暴行行為などが確認されていて、中堅所のCランクに上がれたのも賄賂と恐喝行為によるものと発覚。
さらには貧民街に流れた違法薬物などにも手を出しているようだ。
指定日時は五日後の夕暮れ時。
あとは成功報酬と万が一失敗した時のペナルティについて。
もっともそれについてはどうでもいい。
成功すれば当面は何事もなく生活できるだけの糧が手にはいる。
失敗すれば消されるだけだ。
トモは懐から出した火種を生み出す魔法具を使って依頼書を燃やす。
残った灰は下水に捨てた。
実行日は五日後。
日時と場所が指定されているということは、おそらく依頼人か関係者が現場を監視に来るのかもしれない。
時々あるのだ、対象の死に様を見たい、殺される瞬間を眺めていたいという依頼人が。
その場合は気を付けなければいけない。
始末してから死体だけを持っていってしまうと怒るのだ。
依頼書には書かれていないが、その裏まで読んで要望に沿えるように殺さなければいけない。
ただ殺すだけではいけないのだ。
期間内に依頼人にとって不都合のない程度に、かつ要望通りになるようにしなければいけない。
普通の依頼に紛れて10回に2、3回はこういったものがあるから殺し屋も楽ではない。
トモは早速仕事に取りかかることにした。
下水の臭いに参った様子のユキを抱き上げ、その場を後にする。
そして五日間の時が流れた。
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