第6話〜ゴロツキのアルド

男は昼間から酒場で仲間たちと酒を飲んでいた。


この街では昼から酒を飲むのは珍しくはない。


ドワーフ程でないにせよ、この街で生まれ育った者は酒を母乳代わりに育つと言われるほどに酒を飲む。


もっともそれは仕事に支障が出ない程度に、せいぜいが寒さを打ち消す程度に、だ。


男のように、一樽丸々と空けてしまいそうなペースで昼間から酒を飲む者はあまりいない。


昼夜問わず開いてる酒場に入り浸るのはクエストを終えた冒険者か探索者、稀にいる長旅の人間くらいのものだ。


彼の場合は前者、冒険者だった。


胸元のプレートに刻まれているのはCランクの印。


「それで俺は言ってやったわけだ、『てめぇの頭蓋骨はスノーベアよりも固いのか?』ってな!そしたら受付の若ぇやつびびっちまってな!」


「おかげで傷だらけの毛皮が最高価格になりやしたからね!こうして飲めるのもアルドの兄貴のおかげでさあ!」


「がっはっはっは!おうよ!俺たちが命がけでモンスターを狩ってるから街が護られてるってのに、ギルドのやつらは値切ろうとばかりしやがる!」


酒場に男たちの野太い笑い声が満たされる。


あまりの騒がしさに他に数名ほどいた客は金を払いさっさと出ていってしまった。


最後に店の隅でホットミルクを飲んでいた青年も立ち上がり、店には店主と騒がしい冒険者たちが残された。




「では兄貴、あっしらは先に宿に戻ってますぜ」


「ああ、俺もこいつを研ぎに出したら戻るぜ」


結局日が沈むまで飲んでいた男たちだったが、いつものごとく店主にはつけの一言で金も払わずに店を出た。


アルドはパーティーメンバーと別れて大通りから外れ、さらに防具店や武器屋、研師の店も通りすぎて街の中心から外れた場所までやってきた。


ここは貧民街に程近い通り。


いわゆる違法な店やあまり中心に出せない店が並ぶ通りだ。


アルドは通いなれた様子でその店の一つ、娼館へと足を運ぶ。


他の連中もアルドが武器を研ぎにいくなど考えてはいない。


金が手に入ったら娼館に行くことを全員が知っている。


腕っぷしだけは強くて金払いの悪いアルドが一人だけいい思いをするのに反感を覚える者がほとんどだが、取り巻きとしていればおこぼれがあるので大人しくしているのだった。




通りにはあまり人影はない。


もの乞いも孤児も日が沈むより前にはねぐらへと姿を隠す。


この街の寒さは日が沈んでからが厳しい。


不意に横道からアルドに石が投げられた。


目前の楽しみに周囲に気を配っていなかったアルドの頭に小石がぶつかった。


「いってぇな………誰だ!」


本当に当たっただけで傷一つつかないような衝撃だったが、自身の頭にぶつけられたのが石だと分かるとアルドは激昂した。


すぐさま飛んできた方を見ると、ちょうど横道の奥の角を曲がって逃げる人影が見えた。


「待ちやがれ!」


アルドはすぐさま追いかける。


自分になめたことをしでかした相手に思い知らせてやるために。


アルドは覚束ない足取りで薄暗い横道に飛び込んだ。

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