第3話〜朝のひととき

トモが目を覚ますと、窓の外は暗闇に包まれていた。


まだ朝日が昇るまで時間がある。


一瞬だけ目を瞑り、横になって毛布にくるまっていたいという誘惑に駆られるが、数度瞬きをして起き上がる。


すると毛布の隙間から入り込んだ冷気にユキが身震いして丸くなった。


毛玉でできたボールのようだ。


初めはみずぼらしかった毛並みも今では微かに艶が戻ってきた。


今まで寒さを酒で誤魔化していたがトモだったが、ユキを拾ってからは湯たんぽの代わりにベッドに入れて一緒に寝ている。


トモがベッドから抜け出し、朝食の用意を始めるとユキもまた温もりの残る毛布の山から抜け出してすぐそばに陣取る。


冷たい床は容赦なく起きたての体温を奪うだろうに、ユキはトモから一定以上の距離を離れようとはしなかった。


しかたなしに毛布の一枚を取ってきて、一つしかない椅子の上に丸めて置く。


そしてじっとしている仔犬サイズのユキを優しく抱き上げて、その上に乗せてやる。


するとやはり寒かったのか、毛布の塊の上で丸くなってうつらうつらと始めた。


しかし閉じそうになる瞼を必死に開いてトモを見つめるユキは、彼が部屋から出ようとすればすぐに飛び出してくるだろう。


そして決して自分からはトモに触れることなく、一定の距離から離れようとはしない。


それが分かってるトモは部屋の中心付近に椅子を置いて、ユキから離れすぎないようにしている。




コンロと呼ばれる熱を発する魔道具を使って簡単な朝食を作り、まだ子どものユキには人肌ほどに温めたミルクに少量の果実をすったものを用意する。


ユキはトモが食べ始めないと食事を始めないので、先に匙で掬って薄味のスープを口に運ぶ。


少しばかしの野菜と塩を使ったスープ、干し肉、固い黒パン。


それらを食べ終える頃には朝日が顔を出しつつあった。



食器を片付けると次に服を着替える。


と言っても見た目が同じ服を数着着回しているので見た目に変化はない。


せいぜいが厚手のコートを羽織り、その内側を含め体の至るところに刃物や毒薬などを仕込み、脇と腰に巻いたベルトに魔導銃を二丁ずつ収めただけ。


冒険者や探索者のように鎧や剣、盾やバックパックなどは身に付けない。


端からはただの一般人にしか見えないこと。


それが重要だ。


少し長めの白髪はコートの襟を立てて帽子をかぶれば見えなくなった。


中肉中背、身長は高くもなく低くもなく。


白髪は珍しい訳ではないが帽子に隠され、この辺りでは珍しい黒目は深めにかぶった帽子の鍔で目立つことはない。


こじんまりとした部屋にはベッドにタンス、台所と机と椅子しかない。


収納には保存の利く食料と食器類、僅かな調味料と酒瓶。


この部屋には誰かが住んでいることは分かっても、個人を特定できるものは何もなかった。

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