ギリギリのスキルで異世界転生

せんもこ

第1話 自分のこととなると話が違う

俺、平坂冬弥ひらさかとうやは大学四年の夏休みを過ごしていたはずだった。

早々に就職先も決まり、あとは卒論さえ終わらせれば大学生活でも思い残すことはない。


暑さで眠れない夜。なんとなくコンビニに行こうと外に出る。涼しい風があって部屋の中より心地よかった。


コンビニに入ると、過剰なほどきいてる冷房に一瞬驚いてしまった。店員は暇そうにレジの前でスマホをいじっている。

目的もないのでふらふらと店の中を回ると、雑誌類が置いてある本棚になにやら今度アニメ化する漫画が置いてあった。手にとって、ぱらりと捲って簡単に内容を見てみた。


トラックに轢かれて、神様に出会って、やべぇスキルもらって・・・・・・

初めはどこで見たのかももう忘れてしまったテンプレの展開に笑ってしまった。


1話分の内容をさらっと確認したら続きを読む気は無くなって漫画を戻した。

なんとなく立ち読みしただけじゃ罪悪感があったので適当に水とスナック菓子を買ってコンビニを出た。


(俺でももっと面白そうな話書けそうだけどな)

思っても書き始めるわけじゃないがそんなことを考えながら歩く。

どうすれば面白くなるかを真剣に考えていると、信号にさしかかった。


歩道の信号が青になったのを確認して進む。すると煌々とした光が横から照らしてきた。光の方を見ようとした瞬間、身体にいやな浮遊感を感じる。意識が薄れていくなか、その光の主がトラックだということに気づいた。



  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



そうして、次に意識を取り戻すと目の前に神様がいた。

身長はたぶん3メートルより大きく、長くて白い髪やひげをしていて白い布を簡単に巻いたような服装のイメージ通りの神様が目の前にあぐらをかいて座っている。


慌てて自分の姿を確認すると身体に傷ひとつない。持っていたビニール袋もなくなっていた。


「よく来た。私は神じゃ」

自分の意思ではないが、この場にいることをねぎらわれた。どうやら本当に神様らしい。見た目と語尾がイメージ通り過ぎて疑う気にすらならない。


「混乱もするだろうがよく聞け。おまえは死んだが、別の世界で生き返ってもらう」

どっかで聞いたことある話である。


「何か質問があるか?」

質問は山ほど浮かんだがまず最初に聞きたいことは決まっていた。

「なんで僕なんですか?」

神相手だ。自然と敬語にもなる。


「ある時刻に死んだ人間かつ簡略化するために異世界転移を知っている人間という条件を満たしたのがトウヤ、おまえだっただけじゃ」

そう言われてしまうと少なからずそんな作品に触れていて良かったと思ってしまう。神の不手際とかではないので、本当にラッキーなことだったようだ。そうすると次にこんな疑問が頭をよぎる。


「なんでこんなことをしているんですか?」

この質問に神様はすぐに答えた。

「最近面白いことがなくてな。今までは馬鹿みたいに強いスキルを渡して、その人間の生き様を観察するのが楽しかったんじゃが、どうも味気なく感じるようになってしまっての。だから今度はギリギリ無双されないようなスキルを与えて観察してみようということじゃ」

つまり神様も俺と一緒で同じような展開に飽きただけのようだ。俺もチート級のスキルを神様からもらう展開には飽き飽きしていたが、自分のこととなると話が変わってくる。どう考えても簡単に無双できるスキルをもらえた方が今後生きやすいはずだ。


そんな思いも意に返さず、もう説明も面倒だという態度で続けて言った。

「さっそく、この中からスキルを引いて異世界転移するのじゃ」


目の前にくじ引きで使うような箱が現れる。手を突っ込むと紙のようなものが複数枚入っている感覚があった。


その中から一枚取り出して開いてみるとそこにはと書いてあった。


「それでは行ってくるのじゃ」

神様がそう言うと身体が光り出した。


(待ってくれ、まだ質問があるのに)

「ステータスってなんですか!?」

「念じれば出てくる」

「その箱にはほかにどんなスキルが!?」

「未来予知とか、過去改変なんかがあったかのう」

いや、チート級じゃねーか

とツッコむ間もなく光が全身を包んだ。




気がつくと目の前には、数百年ほど昔のヨーロッパ風の様相をした街が広がっていた。


「ここはテンプレなのかよ」

そうつぶやいた俺の言葉は誰にも届かなかった。

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ギリギリのスキルで異世界転生 せんもこ @senmoko

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