片思い~そして両想い

昼休みの屋上。そこは俺にとって聖地である。

その理由は――


「あの、先輩。横、いいですか……?」


「ん……」


伊藤先輩。俺の憧れの人。

人によっては不愛想と取られる先輩だが俺にはわかる。この人はとても優しい人だと。


先輩の横に座り、購買で買ってきたパンをかじる。

隣では先輩が、色鮮やかな弁当を食べている。


お互いに会話はない。

周りの喧騒の中、俺と先輩の二人だけ、静かに食事タイム。

この空間を俺は気に入っている。先輩はどうなのだろう。嫌とは言われないが、俺がこうして横にいることに。



昼休みの屋上。そこは私の聖域

その理由は――


「あの、先輩。横、いいですか……?」


「ん……」


今日も来てくれた。

高橋くん。私の好きな人。

こんな、無口で不愛想な私に関わってくれる数少ない人。


いつものように彼は横に座り、パンをかじっている。

私は手作りの弁当だ。彼に見せれるようにすごく努力したのは秘密だ。


会話はない。

高橋くんはこの雰囲気をどう思っているのだろう。

もっといろいろ話した方がいいのかな?




「絶対両想いだって!」


友人がそう言ってくる。

どうだろうか。先輩はあんな感じだし俺の片思いだろうと思う。

いや、片思いでいいんだ。今の屋上での一時を俺は気に入っているから。



「絶対両思いだよ!」


友人が言う。

そうなのかな。彼は確かに私の所によく来る。

けれど、あまり恥ずかしそうな素振りを見せない。ただの友人じゃないかな?

いいの。片思いで。今の屋上の一時を私は気に入ってるのだから




ある日のことだった。

俺は見てしまった。先輩が男の人と一緒に歩いているのを。

先輩のことは自分が一番よく分かっている。そんな自惚れがあった気はした。

すごく苦しかった。やっぱり先輩が欲しい。



その日は弟と買い物に出ていました。

男の人にあげる物は何がいいか相談しました。

高橋くんにたまにはお礼をしようと思って。




その日、俺は屋上に行かなかった。

片思いでいいなんてやっぱり嘘だ。俺は先輩ともっと仲良くなりたい。

他の男がいるなんて嫌だった。



その日、高橋くんは屋上に来なかった。

どうしたんだろう? 風邪でも引いたのかな?

せっかくプレゼント買って持ってきたのに。

寂しい。彼がいないご飯。こんなに寂しかったの……?




「先輩、あの――」


「高橋くん――」


同時だった。切り出すのは。


「あの、高橋くんから……」


「いや、ここはレディーファーストで……」


何をキザな言い方をしてるんだ俺は。


「あの、この前一緒にいたの、あれ弟……なの」


「え」


弟? 

そ、そうか。弟か……。よかった。彼氏じゃなくて。

俺は深く息を吐く。その俺に、先輩は珍しい笑顔でほほ笑んだ。


「でもどうして俺が考えてることを?」


「それは――」




「姉ちゃんの好きな、高橋ってこの人?」


弟が突然聞いてきた。その手には集合写真を持って。


「ええ。そうよ。よくわかったわね?」


「この前、町で見た気がするから」


「え?」


高橋くんがあの時近くにいた?

もし弟と一緒にいるところを見られてたら勘違いされるんじゃ……。

もしそうだったら……。




「――というわけです」


「先輩……」


目を逸らす。恥ずかしい勘違いに消えてしまいたい。

でも、先輩も勘違いされることを気にしていた。

それはつまり……。


「片思いじゃないんですか?」


俺が問う。


「はい、片思いじゃありません」


俺と先輩は見つめあう。

私と高橋くんは見つめあう。


片思いはいつしか両想いへとなっていた。

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七霧短編集 七霧 孝平 @kouhei-game

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