第5話 齋藤さんと密着

 私は、齋藤大翔(さいとうはると)さんから目が離せなかった。

 両手には、花束がいっぱい入った紙袋を持っている。

 

(急にくるかも知れないわよ~)

 

 脳裏に突然、穂乃花さんの言葉を思い出した、頭が冴えていく。


(花束を持って希望先輩の前に……)


 美羽ちゃんの言葉も蘇る。鼓動が大きくなる。

 

 ば、ばか! 何考えてんの、私は!? そんなことあるわけないでしょ!?


 「ガサ」とまた音がした。齋藤さんが、階段をゆっくり降りてき始めた。緊張した表情で、私に近づいてくる。


 告白。


 う、うそ、でしょ? ま、まさか、今日話してた冗談が……、げ、現実に!?


(そして、告白を断る希望先輩。その事に怒り狂った齋藤さんは、手にしている花束を振り回して……)


 美羽ちゃん……!?


(最後には、無残に散った花びらが辺り一面に……)


 穂乃花さん……!


 わ、私、どうしたら良いの……!?


「あの」

「ひっ!?」


 齋藤さんが強ばった声で私に話しかけてきた。

 思わず立ち上がった。そして彼から逃げるように階段を降りようとして―。


「あっ……」

 

 気付いた時には、私は全身が浮遊感に包まれていた。

 つまづいた右足のヒールが、私より先に階段下へ落ちていく。

 手すりに伸ばした右手は空を切った。視界がゆっくり流れた時、何かが私の右手を力強く掴んだ。


 えっ……?



 下へ落ちる感覚とともに、前へも引き寄せられる不思議な感覚。

 視線には、あっ、齋藤さん。


 ぎゅっ。


 無数の花びらが宙に舞うなか、私は彼に抱き抱えられてた。そして、そのまま重力に引き寄せられるように、階段下へと落ちていった。

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