第4話 沢山の花と齋藤さん
ちょっとふらつく足取りで、私は自宅マンションの階段を登っていた。5階建てのせいか、エレベータがないので時々不便に思ったりもする。でも今は、お酒のほろ酔い加減が手伝って楽しい気分。これでいいのだぁ~、っと!
調子に乗って、一段飛ばしで階段を登ったのがまずかった。
「キャッ!?」
足を踏み外す。とっさに手すりにつかまった。
カシャン、カチャン!
と何か落ちた音が聞こえる。
危なかった、ははは、ドンマイだ、私。
階段でしゃがみ込みながら、辺りを見渡す。
階段に落ちてしまったデオドラントや化粧品類。
あはは、バッグから盛大に飛び出しちゃった……。えっと、慎重に……。
ほろ酔い加減の頭や体をゆっくり動かす。落とし物をバッグに再び入れていた時、ある物に目が留まった。
「ん? あれ? これって……」
キレイな、一片の小さな花びら。
不思議に思って改めて、さっきよりも注意深く辺りを見渡すと、後ろの階段から、上の階の踊り場まで所々に花びらが落ちている。まるで道しるべみたい。そう、何というか。
「ヘンゼルとグレーテルみたい……、ふっ、ふふ、何それ」
そんなに面白くないでしょ。
心の中で、1人ツッコミを入れた時だった。
「ガサ」
小さくも、確かに聞こえた、音。上からだ。
なに……!?
慌てて視線を上の階段の踊り場に向けるも、誰もいない。でも―。
「ガサ、ガサ」
大きな紙袋が擦れるような音が近づいてくる。そして足音も。
体が強ばる。
誰か近づいてくる……!?
体が凍り付いたように、その場にしゃがみ込んだまま何も出来なかった。その間にも近づいてくる不気味な音。そして、階段の踊り場に現れたのは、両手に大きな紙袋が掲げた、齋藤大翔(さいとうはると)さんだった。紙袋には、色とりどりのキレイな花がぎっしり。男が買うには不自然なほどに、いっぱい詰まっていた
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