第3話 美容部員仲間とのガールズトーク、その2

「油断はできないわよ」

「「へっ?」」


 私と美羽ちゃんの疑問に、穂乃花さんはなんだか意地悪な笑みを浮かべ話し出す。


「その齋藤さん、もしかして希望と偶然出会ったようにした可能性もあるじゃない?」


 その言葉に、私は少し慌てる。


「ま、まさか。引っ越してきて間もない人が、な、何で、そんなことするんですか」

「それはほら……」

「へ?」


 穂乃花さんのわざとらしい、重い声のトーン。ううっ、ちょっと変な汗が出てきた。


「……あっ! もしかして、希望さんの熱烈なファンが来ちゃったとか?」


 急に美羽ちゃんも参加してくる。


「な、なに? 私の熱烈なファンって?」


 美羽ちゃんがニヤリと笑う。


「それはもちろん、美容部員のキレイな希望さんのファンですよ」


 そう言われて、少し思考。そして、一気に全身がざわついた。慌てて口を開く。


「なっ、ないない! そんなこと! あるわけないじゃん!? 私は百貨店に数多くいる美容部員の1人で、そんな私狙いの珍しい人なんかいないって!」


 美羽ちゃんが悪い笑みを浮かべながら口を開く。


「希望先輩や、私たちが気付いてなかっただけで……。実はこっそり、陰から希望先輩を見てたんですよ……」

「ちょ、ちょっとやめてよ、美羽ちゃん……、あはは」

「急にくるかも知れないわね」


 穂乃花さんが口を挟む。私はその言葉にビクッとする。


「ええっ!? なっ、何がです?」

「彼が」

「か、彼?」

「そう、齋藤さんが」


 穂乃花さんが口にした、まだろくに会話すらして無い、マンションの郵便受けで顔を合わせただけの、齋藤さんという名にビクッとする。そして、美羽ちゃんが会話を引き継ぐ。


「花束を持って希望先輩の前に……」


 2人が私をじーっと見つめる。ははは、ま、まさか。


「そ、そして、私に告白する? 好きですって? そ、そんな、2人してやめてくださいよ!  またまた! そんなこと、あ、あるわけないでうよ」


 動揺して最後噛んでしまった。そんな私に、美羽ちゃんと穂乃花さんが止めを刺す。


「告白を断る希望先輩。その事に怒り狂った齋藤さんは、手にしている花束を振り回し……」

「最後には、無残に散った花びらが辺り一面に……」


 その言葉を最後に、シーンとする空気。……、えっ、うそ。もしかして、ほんとにそんなことになったら。私どうしたらいいんだろ。百貨店なら、周りに人がたくさんいるし、助けを求められる。でも、マンションは、帰り、私しかいない。え……、ど、どうしよう。

 思わず、ちょっと泣きそうな感情がこみ上げそうになった時だった。


「ぷふっ! ごめんないさい、希望。うそうそ。そんな作り話を素直にすぐ信じないの」

「ほ、穂乃花さん……?」

「ちょっと怖がらせ過ぎちゃったわね」


 穂乃花さんがそっと頭を撫でる。やばい、すごくほっとしている自分が。って、そうじゃない! 穂乃花さんや美羽ちゃんが私を怖がらそうとしてこうなっちゃたんだよ!

 私はちょっと怒りながら口を開く。


「ほんとやめてくださいよ! 2人して恐がらせるなんて!」


 その言葉に、2人はバツが悪そうな顔をする。

 すると、穂乃花さんが言い訳するように話し出す。


「その、ほら。例え何がなくともね。用心にこしたことはない、ってことを教えようと思っただけなのよ」

「うう~、まあ、そうですけど。そうだとしても」


 ちょっとむくれていた私に、穂乃花さんは優しく話しかける。


「希望、もし隣人と変な事があったらすぐ言ってね。力になるから」


 穂乃花さん……。そういうとこ、もう~、ずるいなあ。私は柔らかな口調で話す。


「はい……、そうですね。その時は、そうします」

「あっ! 美羽にも言ってくださいね!」


 美羽ちゃんが場の和んだ雰囲気に便乗する。もう~、ずるいなあ。私は、苦笑しながらも応える。


「うん、その時はお願いね」

「はい! ではでは、誓いのかんぱ~い! しましょ」


 美羽ちゃんがお酒の入ったグラスを少し掲げる。


「なんなの、それ」


 私は苦笑しながらも、グラスを同じように掲げる。穂乃花さんも同じようにならう。

 美羽ちゃんの掛け声とともに、3人で軽くグラスを合わせた。

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