3-5.俺にとっての『能力』

 放課後。

 慎は一人で208教室へ向かっていた。

 灯は調査に関して友達に訊きたいことがあるとかで、遅れるらしい。


『なんか訊きに行くなら俺も一緒に行こーか? 嘘ついてりゃわかるし』

『いいよ、そんなにたいしたこと訊かないから。むしろ慎いて警戒されても困るし』


 ごもっともだった。友達どうしの会話に部外者が立ち会うのは野暮というもの。

 ということで灯と別行動となった慎は208教室に到着。

 扉を開けると、そこには先客がいた。


「お、都月さん」

「……おじゃましてます」


 窓際の席に都月綾が座っていた。

 ……昨日もそうだが、自主的にモノクロ探偵部へ顔を出してくれる理由はわからない。

 

 慎が扉を後ろ手に閉めて近づくと、綾は机に教科書とノートを広げてペンを走らせていることがわかった。


「……勉強してんの?」

「……宿題です。先に終わらせてゆっくり読書したいので」

「すげーな。一日授業受けた直後に勉強なんて俺モチベ湧かねーよ。さすが学年一位」

「……勉強は嫌いじゃないですし、それに必要なことですから」


 その言葉は『白』。真っ白。揺るぎない、本心からの言葉だった。勉強嫌いの慎とは格が違う。


「必要なこと……っつわれたら言い返す言葉もねーな。俺はできれば勉強したくねーけど」

「…………この学校、一応それなりの進学校ですけど……」

「中三のときだけ頑張った。家近いから。都月さんこそもっと上の高校じゃなくて良かったのか?」

「……家から近かったので」

「お、仲間じゃーん」

「…………そう、ですね」

「…………」


 いかにも返答に困ったというような綾の言葉に、慎はいたたまれなくなる。

 ツッコミ待ちだったがそんなやりとりを気軽にできるほど慎と綾はまだ仲良くない。

 慣れない人と普段のノリで話すのは良くない、という昨日の反省はまったく活かされておらず、慎は改めて自己嫌悪に陥るのだった。ただ無鉄砲で空気読めないコミュ障である。


 でも――普通に話はできている。


(昼休みに無視されたのはなんだったんだ?)


 ――他の人がいるところでは話したくない的なアレか? それだったら気持ちはわかる。あんま仲良いと思われたくない奴っているもんな。された側の経験すごいあるわ。中学時代、プリント集める係の生徒に提出しようと声かけたときとか話しかけんなオーラすごかったもん。あれ? 都月さんもしかして周りに俺と仲いいって思われたくない? ちょっとは仲良くなった気でいたけど何それちょっとショック……。いや、でも嫌われてはいない……はず。え、ちょっと待って俺嫌われてないよね嫌いだったらわざわざ部活手伝いに来ないしこうして話もしないよねそうだよね?


 勝手にネガティブな思考に取り憑かれ顔を引きつらせている慎に、綾は首をかしげる。


「……どうしましたか?」

「……都月さん……俺のこと嫌い?」

「!? ――……っと、その……嫌い、では…………待ってくださいなんですかその質問」

「――あ! いやごめん、深い意味はねーんだ!」


 自分の悪い癖だと思う。軽薄な態度を取り繕ってる反面、一度ネガティブな考えに囚われると抜け出せなくなる。あと思ったことがそのまま口に出る。


「……今みたいな質問も、答えたら本当か嘘かわかるんですよね」

「まあ……うん、そうだな。……ごめん、そこまで考えてなくて……つい口に出ちゃっただけでさ。日常会話では他人を探るような質問しねーよう気をつけたいとは思ってんだけど……」


 求められてもいない言い訳。そんなものが口から出るのは、他人の嘘を見ることに後ろめたい感情があるからだ。


「……もしかして夜岬さん、自分の能力にあまり好意的ではない……ですか?」

「……そうだな」


 慎はため息混じりに肯定する。

 ……こんな能力、なければいいと何度思ったことか。


「……嫌いだよ。持っててもいいことねーし」

「……でも、相手の嘘がわかれば……距離を置いた方がいい人とか、見極められますよね」

「確かにそれはあるけど……でもそんなことより、いらねーことまで見えちまって疲れるだけだ」


 嘘がわかるだけで増える情報量は多く、処理に疲れる。相手が嘘をついても、基本的には騙されたフリをして話を合わせなければならないし、その相手とは今後、会話で知った情報と能力で得た情報を切り分けて付き合いを続けていく必要がある。灯のように友達が多くなると、慎の場合は頭がパンクしかねない。

 能力で色を確認しないよう過ごした時期もあった。相手の顔を見ずに話すという、簡単な対策だ。しかしその場合、どうしても挙動が不自然になってしまう。

 結局、他人と自然に過ごすには、真偽を見たうえで可能な限り気にしないようにするしかないのだ。

 ……こんな能力がなければ、もっと気軽に人付き合いができただろう。


 それに、この能力が嫌いな理由は他にもある。

 ――単純に、誰かが誰かを騙す様を目の当たりにするのは、あまり気分が良いものではない。


「……嫌いなのに、能力を使って探偵部をやっているんですか?」

「あー……矛盾してるって思うよな。確かに俺は自分の能力が嫌いだよ。でも……だからこそ、せめてこの能力で誰かの役に立ちてーと思ってるんだ」

「……立派ですね」

「そんな褒められるようなもんじゃねーよ」

「……私は自分のためにしか能力を使っていません。だけど、夜岬さんは他の誰かのために能力を活かしています。すごいことだと思います」

「本当にちげーんだよ。……さっきだって、ちょっとカッコつけた言い方だった。『俺が誰かの役に立ちたい』っていうより、『この能力を誰かの役に立たせたい』って方が正しいんだ。……この能力が嫌いだからこそ、せめて何か価値を見出さないとやってらんねーっつーか…………誰かを助けることで、俺自身が『ああ、この能力を持ってて良かったな』って思いたいだけなんだ。……俺だってただの自己満足だよ」

「…………」


 真っ直ぐな瞳で見つめてくる綾を前に、慎は自嘲気味に笑った。


「そうやって、俺がこの能力――〈単色の裁定者モノクローム・ジャッジ〉を好きになるために作ったのが、モノクロ探偵部だ」


 それまでじっと聞いていた綾が数度まばたきし、疑問符を浮かべた。


「……すみません、今なんて言いました? ……モノクローム……なんですか?」


 真面目な話のはずなのに余計な単語のせいで頭に入ってこない、という様子だった。


「〈単色の裁定者モノクローム・ジャッジ〉。俺が自分の能力につけた名前だけど」

「…………ちょっと……独特なセンスですね」


 白黒見るまでもなく、気を遣ったセリフであることが明らかだった。


「やっぱ俺中二病なのかなー?」

 

 さっきまでとはうってかわって、おどけた口調で慎は言う。

 能力名を出すたび灯に「イタい」とか「中二病」とか言われ続けた結果、慎もいい加減、自覚していた。しかし自分のスタイルを変える気はない。それが夜岬慎という男だ。


「……夜岬さん、本当は自分の能力気に入ってませんか? ……名前までつけてますし……」

「いやいやホントに嫌いだから。むしろ嫌いだから名前つけてるから」

「……そう、なんですか……?」

「そうそう! 嫌いだし、俺にとっては乗り越えるべき最大の敵なの! いわばラスボスなの! 『スライムA』みたいなテキトーな名前の雑魚キャラじゃないの! ちゃんと名前があった方が確固とした『強敵』って感じで立ち向かう方も燃えるてくるだろ」

「……すみません。……その……わからないので、書いてほしいんですけど……夜岬さん、紙とか持ってますか?」

「わからないって……あ、そうか! 『モノクローム・ジャッジ』って読みだけじゃ伝わらないもんな! ちゃんと文字で書かないと! 紙ね、ちょい待って!」


 慎はポケットからペンとメモ帳を取り出して『単色の裁定者』と書き込み、その上に『モノクローム・ジャッジ』とルビを振る。

 ちなみに慎がペンとメモ帳をポケットに入れて持ち歩いているのは、なんだか探偵っぽいからである。実際はあんまり使っていない。


「はい、これでいいか?」

「……貸してください」


 綾は、慎が書いた能力名を指でなぞる。能力で想いを読み取る動作だ。


「…………悦楽、熱情、陶酔、充足……。……能力の好き嫌いは別として、少なくとも自分でつけた能力名はすごく気に入っていることがわかりました」

「お、わかってくれた? このカッコよさ」

「いえ、その……熱意は伝わりましたけど、私が理解できたというわけではなくて……」

「せっかくだから都月さんの能力にもつけようか? 名前」

「……遠慮しておきます」


 心の底から淀みない『白』だった。慎はちょっぴり寂しくなった。しかし、綾が少しずつ話にのってくれるようになったこと自体は嬉しく感じていた。慎のごり押しでしかないが。

 慎と綾の会話が途切れたそのとき、教室の扉を開ける音とともに、快活な声が響いた。


「慎おつかれー。あ、都月さんもいるんだ。ちょうど良かった」


 灯はいつもいいタイミングで来てくれる。ありがたい。


「おーっす。――ってちょうど良かったってなんだ?」

「こういうこと」


 灯の後ろからもう一人、女子生徒が顔をのぞかせる。


「おつかれさま、夜岬くん、綾ちゃん」

「おー、おつかれー」


 天野円香だった。


「さっき偶然会ったから連れてきちゃった」と灯が説明する。

「私も、様子見したくて……」と円香が付け足す。


 慎と綾が仲良くなれたかの、『様子見』だろう。そもそも慎と綾が友達になることが、円香の依頼なのだから。


「…………」


 円香の登場に綾は驚いた様子だったが、すぐに視線を机の上に移し、黙々と勉強を再開した。やはり、綾は円香を避けているようだ。

 綾に無視された円香は、次の言葉が見つからず固まってしまった。


「……と、とりあえず教室入ろ! 円香ちゃん」


 灯は気まずい空気を払拭しようと、より明るい声で言う。灯は慎の隣の席に、円香は綾と一席間を空けた位置に座る。

 無言の時間がしばらく続いたが、最初に口火を切ったのは綾だった。


「……そういえば、昨日の落書きの件はどうなったんですか?」


 その視線は慎に向いていた。


(あ、この空気の中でも俺とは普通に話すんだ……)


 そんな余計なことを言いそうになったが、さすがにこらえた。慎は空気を読むことを覚えた。


「昨日の件な。一応、被害者はわかったけど……――」


 そこで慎の言葉が途切れる。


『でも一つだけ約束。……このことは誰にも言わないで……特に、渓汰には』


 成美には、写真のことを秘密にするという条件で、落書き事件のことを話してもらった。

 調査を手伝ってくれたとはいえ、綾にこのことを言うのは、成美の信頼を裏切ることになる。それに今は円香もいる。


「――……その人との約束で、他の誰にも言わないことになってるんだ。だからごめん、ちょっと教えられない」

「わかりました。そういうことなら大丈夫です」


 綾はあっさり身を引いた。理解が早くて助かる。


「何かあったの? 夜岬くん」


 綾と代わり、今度は円香からの質問。円香は昨日のモノクロ探偵部の活動を知らない。当然の疑問だ。


「天野さん知ってるかわからないけど、体育倉庫の壁に落書きがあったんだ」

「あ、知ってるよ。一昨日、話題になってたよね」

「そうそう。それで昨日俺たち落書き消したんだけど、ついでに犯人捜してんの」

「それって誰かが依頼してきたの?」

「落書き消したのは鬼がわ――……河原木先生の依頼だけど、犯人捜しは俺たちが気になってやってただけって感じ」

「そうなんだ。……私のときみたいに丸く収まるといいね」


 本心で心配している円香に、慎は誤魔化すような笑いで返す。すでに脅迫写真が見つかっているなんて言えない。


「……待ってください」


 円香に一通り説明したところで、綾が割り込んでくる。会話のバトンが行ったり来たりで忙しい。


「……天野さん『私のときみたいに』ってなんですか? 天野さんに何かあったんですか?」

「あー……」


 そうだ。綾は円香の脅迫状事件のことは知らない。

 慎が視線を送ると、円香は首を小さく縦に振った。綾に話しても問題ないようだ。


「天野さんにバスケ部の大会に出場するのを辞めるよう脅迫状が届いたんだ。俺たちが先週その調査依頼を受けて、事件はもう解決したから気にすることはねーよ」

「その脅迫状、触ってもいいですか」


 見てもいいですか、ではなく触ってもいいですか。綾は、自分の能力で脅迫状を確かめたいようだ。円香にそっけない態度をとりつつも、綾なりに心配はしているのかもしれない。

 綾に言われたとおり、円香は鞄から三通の封筒を取り出し、その中身を広げた。

 おどろおどろしいフォントで印刷された、脅迫状。


 一通目、『お前は大会に出てはならない。出場は不幸を招く』

 二通目、『これは忠告ではなく警告だ。直ちに出場を辞退せよ』

 三通目、『警告を無視する貴様には、災いが降りかかるだろう』


 机に並べられたそれを、綾は手に取る。


「ってか、持ってきてるんだな。脅迫状」

「うん。自分への戒め……みたいなものかな。私のせいでたまちゃんに心配かけちゃったし」

「そんなお守りじゃねーんだから……」


 まあ、脅迫状とはいえその本意は、脚をケガしても部活を休まない円香に向けた、環季の心配の表れ。円香にとっては大切な物なのだろう。

 綾の心配も杞憂に終わるはずだ。慎はそう思いながら、綾がすべての脅迫状に触れるのを待った。


「……この脅迫状、誰が作ったんですか?」

「それ作ったのは、天野さんと同じバスケ部の神庭さん。まあ本人も悪気があったわけじゃなくて――」

「違います」


 事情を説明しようとした慎の言葉は、綾に遮られた。


「この三通目の脅迫状は、誰が書いたんですか?」




   ◆◇◆◇◆




 その後、慎と灯は体育館へ向かい、部活中の神庭環季を外に呼び出して事実確認を行った。


「たしかに、わたしが書いたのは二通だけだよ」


 慎の目には、環季の言葉が『白』に見えていた。それは、綾が脅迫状に触れて気づいた事実の裏付けだった。

 慎は、つい先ほど聞いた綾の言葉を思い出す。


『三通目の脅迫状だけ、別の人物が作った物です』


 脅迫状の文面自体は手書きではなく印刷された文字のため、綾の能力では感情が読み取れない。しかし、折り目などの痕跡からはかすかに読み取れたらしい。


『一、二通目の脅迫状に込められているのは不安、憂慮、罪悪感。差出人は天野さんの身を案じて、罪の意識に苛まれながら脅迫状を書いた。……合ってますか?』


 慎が解決した脅迫状事件の顛末に一致する。慎が肯定すると、綾は話を続けた。


『三通目の脅迫状に込められているのは怒り、恨み、嫉妬。ほとんどが昨日の落書きと同種です』


 綾いわく、能力で読み取れる感情には個人差があり、そこにはその人物の思考や性格が反映されているらしい。そのため、今回で言えば脅迫状と、体育倉庫の落書きに込められた『怒り』、『恨み』が同一人物の感情かどうかは、容易に判別できるとのことだ。


『三通目の脅迫状を送った人物は、体育倉庫に落書きをした人物と同じです』


 円香に脅迫状を出した人物は、環季だけではない。そしてそれは、体育倉庫の落書きと同一人物である。

 以上が、綾が気づいた事実だった。


「一応訊くけど神庭さん、脅迫状を他の誰かに見せたりとかしてねーよな」


 三通目の脅迫状は、明らかに環季が作ったものに似せて作られている。となると三通目を送った犯人はどうやって環季の脅迫状を見たのかが問題になる。


「うん。誰にも見せてない。自宅で印刷したあと封筒に入れてのり付けして、まどかの鞄に入れるまで開けてないから」


 環季の言葉は『白』。

 直前に円香からも話を聞いたところ、脅迫状の入った封筒は三通とも発見時にのり付けされており、円香が封を開けたそうだ。そして脅迫状は、ずっと鞄にしまっていたらしい。

 環季の話と合わせれば少なくとも犯人は、円香が脅迫状を開けたあとにその内容を見たということになる。

 ――円香の鞄の中身を盗み見ることができる人物。家族を除けば、同じバスケ部員かクラスメイトが怪しいが、移動教室で誰もいないときに別のクラスの生徒が実行することも可能だろう。となると犯人はあまり絞れない。

 慎はそこまで考えて、心配顔の環季がこちらを見ていることに気づいた。


「脅迫状送ってたわたしがいうのもなんだけど……お願い、まどかに脅迫状を送った犯人を捜して」

「任せとけって。んじゃあ部活中悪いし俺たちは一旦おさらばするわ」

「ありがと。わたしも部活に戻るね。……――あ」


 去り際に、環季が何かを思い出したように声を出す。


「一つ気になってたんだけど……夜岬君って、桂木中出身であってるよね?」


 脈絡のない質問だった。なぜ急に出身中学の話?


「……まあ、そうだけど。なんで知って――」


 そこで、灯が「あ」と割り込む。


「そうだ。環季ちゃんって桂木中出身じゃん。慎と同じ」

「なんやて?」


 驚きのあまり変な口調になる慎。環季は「わかんなくても仕方ないよ」と説明する。


「わたしも覚えてなかったからお互い様だって。クラスもずっと別だったし。……この前会ったときになんか見覚えるなーと思って、卒アル見てやっと思い出したもん。……夜岬くん、中学のときと全然雰囲気違うし」

「雰囲気って……話したこととかないよな? 俺って有名人?」

「有名人……かもね。二年の終わりくらいだっけ。クラスでいろいろあったって、噂で聞いてたから」

「あー……まあ確かになー……」

「……ごめん、あんまり気分のいい話じゃなかったよね」

「大丈夫大丈夫。今は別になんとも思ってねーから」


 そこまで話して、三人はその場を離れた。






 208教室に戻りながら、慎の頭には環季の言葉がよみがえる。


『二年の終わりくらいだっけ。クラスでいろいろあったって、噂で聞いてたから』


 思い出すのは中学二年生のときにクラスで起きた盗難事件。

 もともと嘘が見えるせいで他人と関わることを避けていたが、その出来事がきっかけで慎は不登校になった。


『……夜岬くん、中学のときと全然雰囲気違うし』


 人嫌いで一度不登校にまでなった中学時代と比べたら、今はだいぶ変われた自覚がある。それは、決して自分一人では成しえなかったことだ。

 およそ一年半前、不登校になっていた中学二年の三月に、慎は彼女と出会った。

 慎は彼女の抱える問題を解決し、その中で慎自身も変わることができた。


 ――『夜岬くんが能力のこと嫌いって言っても、それで助けられた人だっているんだよ!』


 彼女の言葉で慎は、自分が能力を理由にして他人や学校から逃げていたと気づいた。受験勉強を頑張って色橋高校に入学したのも、逃げていた自分を変える一環だ。


 ――『いいじゃん、人を助ける部活! 一緒に作ろうよ!』


 高校に入ってモノクロ探偵部を作ったのも彼女がいたから。


 ――今は副部長としてモノクロ探偵部に付き合ってくれている、彼女のおかげだ。


 慎は、隣を歩く友人を横目に、小さく笑みを浮かべる。


「なに?」


 友人が懐疑的な目を向けてくる。


「いや、なんでもねーよ」


 この友人がいなければ、今学校で起きている事件に関わることもなかっただろう。


 成美への脅迫写真。

 円香への脅迫状。


 犯人が何をしたいのかわからないが、依頼があれば解決のために動くだけだ。


「調べることも増えちまったけど、また頑張るかー」






 そうして慎が意気込んだ翌日の朝。

 今度はモノクロ探偵部が脅迫されるのだった。

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