第4話 二日目①

『参加者の皆様おはようございます。本日の死者は一名でした。今日も一日頑張りましょう』




 早朝。放送の声と共に起きた俺達は広場へと集合した。

 朝の時間になるとテーブルの上にはそれぞれ朝食が準備されていた。

 いつ、誰が作り、持ってきたのかは分からない。

 始めは毒でも入っているのかと警戒したが、シノが食べ始めたからか、他の参加者達も恐る恐る食べ初めた。

 正直俺は食べるつもりはなかったが、昨日から何も食っておらず、腹の虫だったので仕方なく口に運ぶ。

「…………」

 食事の間は誰もが無言だった。

 こんなゲームに突然参加させられて、まだ慣れていないせいもあるだろうが、恐らく今一番皆を黙らせている原因はあれだろう。


『本日の死者は一名でした』


 早朝の放送と共に語られたその言葉通り、今この場所に昨日いたはずの人が一人消えていた。

 名前は覚えてはいないが、この中で一番年を取っていただろうおじさんだった。

「……本当に死んでしまったんですか?」

 この場の空気に耐えきれなかったのか、それとも純粋な好奇心が勝ったのか、隣に座っていたお姉さんが口を開いた。

「そうみたいだね。一度部屋を確認したら大量に血が出てたみたいだから恐らく死んでるだろうよ」

 暗い空気の中、少年がなんともないような態度で軽く答えた。

「見たのか?」

「え?あぁ、そうだよ。だって人が死んだなら今日は探偵ゲームがあるんだよ。犯人を当てたらポイントが入るんだからそりゃいち早く確認するでしょ」

「…………」

 少年の態度に俺は思わずぞっとする。

 人が一人死んだというのに、何も感じていない。それどころか、純粋にゲームを楽しんでいるようにも見えた。

 やっぱり殺人者はろくな奴じゃない。俺はしみじみと感じた。

「そういえば人が死んだら探偵ゲームかあるんだ。じゃあ私も食べ終わったら見に行ってみよー」

(狂ってる……)

 仮にも食事をしている最中。それなのに平気で人が死んだ話をし、面白がるように話す。

 その様子を見て俺は狂気を感じていた。

「わ、私はいいかな……」

「僕も、遠慮しときます……」

「あれ〜?二人とも参加しないの?あっ、もしかして犯人だったりしてっ!」

「ち、違いますよー」

「そうですよ……」


(やはりこいつらは殺人者だ)

 人が死んだというのに、和気藹々と話す姿を見て、俺は必ずこのゲームを生き残り、全員逮捕してやろうと改めて決意する。




「――ここが現場か」

 食事終わり。

 食器はそのままに俺はすぐに殺人があった現場へ向かった。

 どうやら少年の言っていた通り、床には血溜まりが広がっており、人目見ただけで死んでいると分かるぐらいだった。

「……お前は大丈夫なのか?」

 刑事である俺ですら、死体を見るのには抵抗がある。

 だからシノを置いてこようとしたが、シノは何も言わずに着いてきた。

「平気」

 だかシノは表情も変えず死体を見ていた。

(やっぱり、こいつも同類か)

 どういうわけか俺と同じグループであるこいつは、謎が多いが今は目の前の事件に集中しよう。

 男は床に仰向けに横たわっており、見たところ喉を凶器で突き刺したようだ。

 また確認すると頭から血が出ているのを見ると、どうやり男は押し倒されそのまま喉を一突きされたようだ。

「こんな大きい人を押し倒すなんて私達子供じゃ絶対に出来なさそうだからあの子は犯人じゃないのかな?」

 すると俺と一緒に死体の様子を見ていた女子高生が呟いた。

「確かにこのおじさん太ってるからね。そう簡単には押し倒せないかも」

 続いて、部屋の中を捜索している少年も同じように答えた。

「まぁ、普通だったらそうだな」

 いちいち返事を返す義理もないが、思わず口に出してしまう。

「え?どういうこと?」

「いや、なんでもない」

 当然そんなことを言えば聞き返してくるので、俺は適当にあしらう。

「えぇ〜教えてくれてもいいじゃ〜ん」

「刑事さんは僕達の敵だからね」

 文句を言う女子高生に少年は呆れるように呟いた。

「俺は殺人者達は嫌いだからな」

「でも、ひょっとして刑事さんが犯人だったりするかもよ?」

 はっきりと敵と宣言すると、少年がからかうように言ってくる。

「勝手に言ってろ」

 これ以上こいつらと関わっても何も捜査は進まないと思い、俺はおじさんのバッグだけを確認してその場を去った。




「もぉ〜相変わらず冷たいな〜」

 刑事がいなくなると女子高生がため息混じりに呟いた。

「仕方ないよ。それより君はちゃんと捜査しなくていいの?」

「私も捜査したいけど、こういう時って何すればいいか分かんないから」

 そういう女子高生は先ほどは刑事の後をついて歩き、今は少年のあとをついて歩いていた。

「それで僕達の後を追って何かヒントをもらおうと?」

「うん!そういうこと!」

 そうして二人はその後、しばらく現場の中を雑談を挟みながら調べたのだった。




「――今から温泉に行くけど、お前はどうする?」

 先ほどから後を付いてくるシノに向かって訪ねる。

「私は外で待ってる」

「部屋の中で待っててもいいんだぞ?」

「いい。私は外で待ってる」

「そうか……」

 そういうので俺はシノを置いて脱衣所へと入る。


 この建物の中には何個か参加者以外の部屋が用意されており、今俺が来た温泉のそのうちの一つだ。

 他にもダーツやビリヤードなど出来る遊技場に、ソファに本棚がある休憩所のような場所がある。

 昨日は何もせずに寝ただけので俺はついでに風呂に入ろうとここに来た。

「…………」

 タオルを持ちいざ温泉へと入ると、どうやらすでに先客がいたようだ。

「…………ども」

「あ、あぁ」

 体が細い青年が、既に温泉に入っていた。

 だからといって別にどうということもないので俺もすぐに体を洗い、少しだけ距離をとって温泉につかる。

「……中々いいですね」

「そうですね……」

 温泉ということもあってか、青年は格段警戒するような素振りを見せてこなかったことに少しだけ安心した。

「昨日も入られました?」

「いえ……、昨日は、ちょっと頭が混乱してたので……」

「そうですよね」

 参加者の中であの少年と女子高生だけが特別に狂っているのであって、この青年はまだまともそうに見えた。

 それでも正直この人も殺人者だということを思うとなんともいえない気持ちになる。

「あ、あの……」

「はい?」

 そんなことを思っていると向こうから声を掛けてくれた。

「あのシノちゃんって……本当に知り合いじゃないんですか?」

「えぇ。このゲームに参加して初めて出会いました。向こうも私のことを知らないと言っていたので多分そうかと」

「そうですか……」

 どうしたのだろうか?シノについて何か引っかかることでもあるのだろうか?

 ……いや、あるな。シノは俺とはまた違う意味で他の参加者とは違っている。

 常に無表情な感じもそうだし、それに自己紹介でいった大量殺人の話しもそうだ。

「あ、あのそろそろあがりますね」

「あ、はい。どうぞ」

 そうしてひとときの参加者との交流が終わり、青年はゆっくりした足取りで温泉を出ていった。




「ふぅ……いい湯だった」

 あれからしばらくの間温泉に入っていたので、温泉からあがると体からわずかに湯気が出ていた。

 シノを待たせているからと、すぐに着替え外に出るとシノの前に誰かが立っているのを見た。

「――教えてよ」

 同じぐらいの身長だということと、わずかに聞こえた声からすぐに少年だと気づく。

「何してるんだ?」

 シノに何か用があるのかと思い、思わず近づく。

「いえ、もう終わったので大丈夫です」

 しかし俺が近づく頃にはもう話は終わっており、少年はそのままどこかへと行こうとしていた。

「あっ、ちょっと待って」

 そんな少年の後ろ姿を見て、俺は咄嗟に呼び止める。

「なんなんですか?僕達のことは信用していないんじゃないんですか?」

「いや、ちょっと聞きたいことがあって」

「聞きたいこと……?」

「あぁ。実は――」

 正直まともに話を聞いてくれるか分からなかったが、少年は意外にもあっさりと質問に答えてくれた。

「――それだけですか?」

「あぁ。ありがとう助かったよ」

「じゃあ、僕はもう行きますね」

 それだけ言うと少年は再び歩き出した。

「――何の話をしてたんだ?」

「別に……」

 少年がいなくなったので、俺は何気なしにシノに少年との会話の内容について訪ねた。

 しかしシノにしては珍しく言葉を濁すように、俺から目をそらす。

(まぁ、こいつもなんでもかんでも俺に話すわけではないか……)

「言いたくないならいいさ。それより今から皆の部屋に聞き込みに行くけど来るか?」

「うん」

 そうして俺はシノと共に温泉上がりのまま皆の部屋を訪問していった。


 そして時間が流れ、夕方にさしかかった頃、俺達は例のアナウンスで広場へと呼ばれた。

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殺人ゲーム 降木星矢 @furuki3939

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