第3話 1日目②
「あなた警察なの?」
お姉さんが放った言葉に、その場にいる者はそれぞれの反応を示した。
「い、いやっ!それはっ!」
不味いっ。こんな所で警察だとバレれば、確実に敵対してしまう。よりもよって俺はそれを隠していたのだ。
どんな人だろうが、悪印象を与えてしまうのは必須だった。
「――お兄さんって警察だったんだね。じゃあもしかして僕たちをここに連れてきたのはお兄さんだったりしてね」
「違うっ!」
しまった……少年の言葉につい大声を出してしまった。これではまるで俺が図星を突かれて焦っているみたいではないか。
「とりあえずこれは返しますね」
「は、はい……」
こんな中、お姉さんは警察手帳を返却してくれた。
一度目に触れられてしまったものだが、俺は慌ててそれをポケットに隠す。
「えっ?ひょっとしてお兄さんが黒幕だったり?」
少年の言葉につられてか、女子高生も続いて俺を疑うかのように見つめる。
いや、あれはそういう目ではないな。あれはこの状況を楽しんでいる目だ。やはり殺人者にはロクな奴がいない。
って、今はそんなことよりもこの状況をどうにかしなければっ。
「すまない。確かに俺は警察だ。このことを隠していたことは謝ろう。でも、俺はこのゲームとは全く何も関係ない。気がついたらここにいたんだ」
警察とバレてしまった以上、隠そうとするとさらに疑われてしまう。だからここは正直に警察だと話すことにした。
「今度はひらきなおり?でも一度嘘をつかれている以上、お兄さんの話を信用するわけにもいかないなー」
少年の言葉に合わせるように、その場の一同は皆ゆっくりと頷いてみせた。
このゲームの中で、皆からの信用を失うということは絶対に避けてはいけないことだ。
殺人ゲームという中で、いかに協力者を作り生き延びるか。それがこのゲームでの最大の活路だと見ていたが、この状況の中ではどうやらそれ?難しいようだった。
「じゃあ自己紹介も終わったみたいだしもう解散でいいかな?これ以上警察と一緒にいると何されるか分からないし」
「ま、待ってくれっ!」
このままでは俺は必然的に一番命が狙われてしまう立場になる。
皆先ほどの自己紹介で各々の罪を告白したのだ。それを知ってしまった以上、皆は警察である俺を真っ先に狙っているに決まっている。
だからこの状況で解散させるわけはいかないのだ。
「まだ何か?」
「皆で協力しないかっ!?知っての通り俺は警察だ!だからきっと皆の力になれるっ!だから協力してこのゲームを全員で生き残らないかっ!?」
「全員で、生き残る、ね」
「そ、そうだっ!」
「――お兄さんはさ、もし仮に全員でこのゲームから生還したらどうするつもりなの?僕たちのことを見逃してくれるの?」
「そっ、それは……」
その時、言葉を詰まらせれたことを俺は後悔した。この時、嘘でもなんでも「見逃す」と言えば少しは変わったのかもしれない。
だがそのためらいのせいで、少年は何も言わずに姿を消してしまった。
「じゃ、じゃあ僕も行きますね…………」
「あっ、俺も……」
それに続いておじさんと青年も席を立って部屋に戻る。
「それじゃあ私も」
とお姉さんもそれに続いて席を立つ。
結局、誰とも協力関係を結ぶことが出来なかった……。
そんな後悔に飲まれていた、俺はあることに気づいた。
「…………」
一人だけ。少年の隣に座っていた女子高生だけが、席を立たずにじっとこちらを見つめていた。
その表情は相変わらず笑っており、いつまでも楽しんでいる感じだった。
「お兄さんは警察なんだよね?」
「あ、あぁ」
突然の声を掛けられたことに警戒しつつも、俺は短く言葉を返した。
「もし、協力したらお兄さんは私のことを見逃してくれる?」
少年が聞かなかったその言葉を、目の前の女子高生は直球に聞いてきた。
先ほどは詰まらせたその言葉。もう後悔はしないようにと、ゆっくり口を開く。
「……無理だ。犯罪者である以上、俺はお前を見逃すことが出来ない」
だが俺の口から出た言葉は、思っていたことと逆の言葉だった。
「そっか、残念」
終わった。これで誰との協力も取り付けることが出来なかった。
これで殺人者全員が俺の命を狙ってくる。
そう思うと、恐怖で頭がどうにかしてしまうそうだった。
「あっ、そうだ。最後に一つだけ言っておくよ」
部屋に戻ろうとしていた女子高生だったが、その前に一度こちらに振り返る。
「お兄さんは絶対に私を捕まえることが出来ないよ?」
「それはどういうことだ」
「だって、私が殺した事件。警察に犯人はもう知られてんだよね」
「えっ?」
「犯人が知られてるから私は捕まらないんだよ」
女子高生はそれだけ言って部屋の中に入っていった。
「…………」
一体どういうことなのだ。と最後の女子高生の言葉を聞いて頭を悩ませる。
あの女子高生が殺した事件の犯人が知られてる。つまり誰が殺したのか警察は分かっているということだ。
それなのにあの女子高生は捕まらないといった。むしろ今刑務所にいないことが何よりの証拠。
犯人が分かっているのに捕まっていない。それが俺が女子高生を捕まえられないといった理由。
「もっとわかりやすく説明しろよ……」
まるでなぞなぞでも出題されたようで、俺は頭が痛かった。
「…………」
そこで俺はようやく、シノを待たせていることに気づいた。と同時にシノが自己紹介で言っていたことを思い出す。
(私はシノ。殺した人はたくさん)
参加者が殺人者と聞いてもしやと思っていたが、やはりシノも殺人者だったのだ。
しかもそれは一人や二人ではなく、大勢の人を殺したとシノは言った。
どこまでが本当なのか、分からないが、今は俺には彼女が冗談や嘘を言うようには見えなかった。
「……本当に人をたくさん殺したのか?」
「うん」
即答だ。やはり彼女は大量殺人者。
恐らく参加者の中で一番の重大犯罪者。
「このゲームでも人を殺すのか?」
「あなたがやれと言えば私は殺す」
ん?どういうことだ?シノは俺の命令で人を殺すというのか?
参加者の中で俺とシノがペアな当たり、やはりますます謎は深まるばかりだった。
でも、そうと分かればやることは一つだ。
「じゃあこれ以上人を殺すのはやめろ」
「分かった」
正直、本当に聞いてくれるか分からない。分からないが、今はこういうことしか出来なかった。
結局その日俺は一日中部屋の中に籠もり、誰かが襲撃して来ないかずっと監視をしていた。
シノはずっと床に寝ころんで寝ているのか起きているのか分からなかったが、殺人者に気を使うほど俺は優しくないので、容赦なく無視した。
だが何もせずにずっと監視し続けるというのは意外ときつく、夜になる頃には俺の意識は薄くなっていった。
そうして等々眠りに落ちてしまい、そのまま朝まで眠ってしまう。
そうして迎えた殺人ゲームでの初めての朝、俺は、いや俺たち参加者はまたあの忌々しい声によって呼び起こされた。
『参加者の皆様おはようございます。本日の死者は一名でした。今日も一日頑張りましょう』
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