第2話 1日目①
『皆様お集まりいただきありがとうございます』
中央広場へと足を運ぶとそこには大きなテーブルと、それを囲うようにイスが並べられていた。
先ほどからしゃべっている声の主の姿は見ることは出来なかったが、その場には恐らく俺たちと同じような参加者と思われる人達がいた。
声に促されるままに俺達はイスに座り、特に何も話すわけでもなく、声の話を聞く。
『では簡単ながらルール説明をさせていただきます』
全員が席に着くと再度放送が始まった。
『このゲームは殺人ゲーム。先ほど申しましたように、参加者全員が殺人者で行われるゲームです』
そうだ。今は普通に座っているこいつらも、誰か人を殺したことがある奴らなんだ。
こうして普通にしている状況ではあるが、いつ命を狙われてもおかしくないような状況だということだ。
『このゲームはルールはズバリ人を殺すこと。ゲーム終了時までに、人を殺すことで手に入るポイントを一番多く持っていたプレイヤーが勝利します』
人を殺すと手に入るポイント……。ということはゲームに勝つには必然的に人を殺さなければいけないということ。むしろ殺人者にとっては人を殺せる絶好の機会ということだ……。
『ただし人を殺すルールとして、実行する時間は夜の時のみとします。時間にすると十一時から次の日の三時まで。とさせていただきます。時間外に殺人を行ったプレイヤーは当然ポイントを減点させていただきます』
夜のみ。そうなれば、夜は警戒のため休んでいられないということか。
『そしてこのゲーム最大のポイントとして行われるものは、殺人があった次の日に探偵ゲームを行ってもらうことです』
探偵ゲーム?一体それは……。
『殺人が起これば探偵が事件を解決する。それに習って今回、殺人があった次の日には殺人を行った人以外で、殺人者をあててもらいます。見事殺人者を当てることが出来れば、その人にはポイントを差し上げます。この場合殺人者があてられてもポイントの減点はありませんが、代わりにあてられなかった場合は殺人者にさらにポイントを差し上げます』
そういうことか。ポイントがどれほど貰えるのかは分からないが、殺人者をあてることで、殺人をせずともポイントを得られるわけか。
『その他詳しいルールは皆様のポケットに入れてある端末に記載してありますので、ご参考に。それでは皆様、勝利を目指して頑張って下さい』
その言葉を最後に、スピーカーから声は聞こえなくなった。
「…………」
声が聞こえなくなったことにより、その場は沈黙の空気が流れてしまう。
(これは一体どうしたことか……)
ため息を吐きそうになるのをこらえながら、チラリとその場を見渡す。
ここにいる人数は俺とシノを合わせて七人。四十代後半ぐらいの男性から、成人になったばかりぐらいの男がいたり、こちらも同じように成人ぐらいであろう女がいる。そして中でも驚きなのが、高校生ぐらいの女と、まだ小学校高学年ぐらいの少年までいたことだ。
俺の隣にもシノがいるが、それにしても少年の年は見た目は明らかに若すぎた。そのゲームに置いては。
「あー、黙ってばっかじゃつまんないから自己紹介でもしない?」
この場の空気に見かねたのか、突然少年が立ち上がった。
参加者の中で子供である少年が言い出したことに若干、関心しつつも、相手はすぐに殺人者ということを思いだし警戒する。
「うん、それがいいんじゃない?きっと皆もまだこの状況についていけてないだろうし」
と少年の意見に乗るように女の子が口をはさんだ。
若い者がこの場を進めている光景に若干の感じながらも、そういえば今の若者はゲームに慣れ親しんでいるので適応能力が高いのだろうと納得した。
「じゃあ言い出しっぺの俺から。俺の名前は斉藤守。学年は中学一年。俺が殺した人は両親だ」
「っ!」
少年の言葉に自己紹介で、その場の空気が一気に凍り付く。
分かっていた。この場にいる者は殺人者なのだと。それは説明の時に聞いていたことだ。
だが、俺は誰も人を殺したことはない。だからこそ、俺のような殺人者でない者がいるかもしれないと淡い希望を抱いたのだが、その思いはあっさりと消えていった。
「じゃあ次は私ね」
少年が席に座ると、その隣に座っていた女の子が席を立つ。
さっきの自己紹介があったにも関わらず、女の子は表情を変えず、むしろ明るい表情のまま自己紹介を始めた。
「私の名前は工藤萌香。高校二年生の現役JKだよ。で、私が殺した人は知らないお兄さんだったかな?相手のことはよく知らないけど、とりあえずそんな感じで〜す」
またもや自己紹介を聞き、言葉を失う。
まだ若いにも関わらず、平気で人を殺したことを話、しかも殺した相手のことを全く知らないと言った。
女の子の様子からは罪の意識などは全く感じられることがなかったことからも、俺は女の子も少年にも恐怖を感じぜざる終えなかった。
「…………俺は田中重則。殺した人は女の子です」
続いて成人ぐらいの男性が自己紹介をした。
先ほどの二つの自己紹介があったせいで、感覚が麻痺していたが、やはりこの状況ではそのぐらいの自己紹介が普通なのだ。
「ぼ、僕は紺野弘といいます。こ、殺した人は若い女の子、です」
続いてこの中では一番年上であろう男性が自己紹介した。
女の子。という言葉がえらく強調されていることから、変態というイメージが頭の中に定着した。
「次は私ね。私は杉本楓。殺したのは小さな男の子よ」
とここまで自己紹介が続き、とうとう俺の番となってしまった。
正直この状況の中、俺は迷っていた。
ここで正直に自分が警察官だと名乗るべきか、名乗らぬべきか。
本当なら、真っ先に名乗って皆で協力しあうのがいいはずなのだが、状況が状況だ。ここにいるすべての人が殺人者であるということは当然警察とは極力関わりたくないと思うはず。
さらにいえば、このゲームの中では警察という存在はもっとも狙われやすくなってしまうのではないかとも考えられる。
「ほら、次はあなたの番よ?」
「あ、あぁ」
悩んでいる間に、隣の女性が声を掛けてくる。
「お、俺の名前は森島秀典。…………以上だ」
悩んだ末、俺は何も言わずに自己紹介を終えた。
「あら?あなたは言わないの?殺した人を」
が、俺が座ろうとすると隣の女性がつっこんできた。
やはりこの流れで殺した人物を言わなければならないのか。
……仕方ない。ここは正直に言おう。
「俺は……人を殺したことがない。だから何も言うことはない」
「あれ?おかしいね?ここは人を殺したことがある人が参加するゲームなのに?ひょっとして何かか隠し事でもあるの?」
正直に言って再び席に着こうと思ったが、少年がまっすぐに俺を見てくる。
どうやら少年が俺が嘘をついていると思っているようだが、俺は本当に人は殺したことがないのだ。
どういわれても何も言うことはない。
「…………」
だから俺は無言のまま席に着いた。
「へぇ〜。教えてくれないんだ」
無言で席について俺を見て、少年はにやにやと笑みを浮かべてくるが、その気味の悪さに俺は顔を背ける。
ガタッ。
俺が自己紹介を終わらせたので、最後はシノの番だ。
正直俺はこいつも人殺しだと思っているので、どういう殺しをしたのか知りたかった。
そんな思いでじっと耳を傾ける。
「私はシノ。殺した人はたくさん。以上」
「っ!」
しかしシノの言葉を聞いて俺は絶句した。
今までの奴らは恐らく全員一人殺した程度だろう。
だが隣のこいつはたくさんと言った。それが意味することは連続殺人者だということだ。しかも言葉雰囲気からはそれは二人や三人ではなく、もっと大勢のように思えてきてならなかった。
「――ちょっといいかな?」
シノが座ろうとしたところで、再び少年が声を掛けてきた。
「何?」
「いや何聞きたいことがあってね。君たち二人の関係は一体何なのかな?」
「二人?」
少年の言葉に俺は思わず声に出して呟いていた。
「そうだよ。この端末にある参加者リストの中には君たち二人はセットで記載されている。参加者の人数も六人と書かれているしね」
どういうことだ?
少年の端末を見れば確かに、俺とシノは同じ場所に記載されており、確かに参加者人数も六人となっていた。本当は七人いるのに。
「あっ!ほんとだー」
少年の言葉を受け、その隣にいた女の子もすぐに端末を確認する。
それに合わせて他のメンバーのそれぞれ端末を取り出した。
「そんな馬鹿な……」
とにかく信じられなくて俺もポケットにあるという端末を取り出して確認する。
パサッ。
「あら?何か落ちたわよ?」
「あぁ、すいません」
どうやら端末を取り出す時に、一緒にポケットに入っていたものが落ちてしまったようだ。
慌ててお礼を言って受け取ろうと手を出したが、それを拾ってくれた女性はじっと手の中を見て固まっていた。
「あ、あの……?」
一体どうしたのだ?何か変なものでもポケットに入れてたか……?
「――あなた警察なの?」
「っ!?」
だが次の瞬間、思い出した。
俺のポケットには警察手帳が入っていたことを。
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