殺人ゲーム

降木星矢

第1話 殺人ゲーム

「っ……!」

 激しい頭痛により目が覚める。ジンジンと響く痛みは、決して二日酔いの痛みではなかった。

 これは、何か物理的な衝撃による痛みだ。

「…………ここはどこなんだ?」

 さらの目が覚めると、自分が見知らぬ部屋にいることに気づく。

 ここは自分の部屋でも友人の部屋でもなく、記憶にはない部屋であった。また、壁一面がコンクリートで出来ており、あちこちにヒビが入っていることから、どこか不気味さを感じさせた。


 ポトリ。


 体を起こすと同時に、床に何かが滑り落ちた。

「……警察手帳?」

 すぐに拾ったそれは、警察が持っているそれだった。

「俺、なのか?」

 何気なしに手帳を開くと、真っ先に自分の写真が見えた。

 写真の下には警部という文字と、森島秀典という文字が書かれていた。

「俺は……警察……」

 そうだ。除々に思い出してきた。

 俺の名前は森島秀典。職業は警察だ。そして俺は警察になり、ある人物を追っていて……。

「っ……!」

 しかしそこまで思い出すと、頭に頭痛が走る。

 記憶がひどく混濁しているようだ。だが自身について最低限のことは覚えているようで安心する。

 ……何か、とても大事で肝心なことを忘れているようにも思うが、それを思いだそうとすると頭が痛みが走るので諦めた。

「それにしてもここは一体……」

 改めて冷静になって部屋の中を観察する。

 すると少し離れた地面に白い物があるのを発見する。

「あれは……」

 それ以外はこの部屋に何もないので、俺はそれが何かの糸口につながると信じてゆっくりと近づいていく。


「――人間?」


 近づくにつれ、その白いものは人であるということに気がついた。

 全身に白い布を纏っており、さらに病的までに白い肌のせいで、遠目ではそれが人だとは気づけなかったようだ。

「な、なんだ?」

 人だと分かったことで、今すぐ状態を確認しようと近づこうとしたのだが、その瞬間に足が動かなくなってしまった。

(――これは震え?どうしてだ?俺は何に怖がっている?)

 プルプルと、まるで生まれたての子鹿のように震えるを足を見て疑問が沸く。

 俺は誰とも分からない人物に対して恐怖を覚えているのだ。

 訳が分からないことが一層に恐怖を煽り、足を進められずにいた。


「ん、ん〜……」


「っ!」

 そうしている間に、目の前の人物が目を覚ます。

 今までは小柄な体型のせいで性別がはっきりとしなかったが、その声からはどうやら女であることが分かった。

 歳は恐らく12歳前後だろう。よく見れば、胸のあたりがうっすらと膨らみを帯びていることが分かる。

「…………」

 当然、少女は俺の存在に気づく。

「き、君は一体誰かな?」

 少女が起きることで、先ほどまで感じていた謎の恐怖が消えてしまったことに違和感を覚えながら、ここは大人としての行動を取る。

「私?私の名前はシノ」

 とりあえず少女はこの状況に取り乱す様子がないようで、安心した。

「しの、か。えーと、じゃあここはどこだか――」


 キーンコーンカーンコーン。


 シノと名乗る少女にこの場所について尋ねようとしていた所で、学校で聞くようなチャイムが響く。

 視線をさまよわせると、天井近くにスピーカーのようなものが設置されていることに気づいた。


『皆様、お目覚めでしょうか?』


 続いてスピーカーからは、合成しているだろう機械音が響いた。


『わたくしは今回開催するゲームのゲームマスターを努めております。そうですね……呼び名は死神とでも呼んでもらいましょうか』


(ゲーム?一体何を言っているんだ……)

 突如、聞こえてくる声に戸惑いながらも、死神と名乗る声に耳を傾ける。


『あぁ、そうでした。皆様はまだゲームについてご存じなかったのですね』


 まるで俺の声に反応するかのように声は続ける。


『今から行うゲームはズバリ!「殺人ゲーム」』


(殺人ゲームだって?)


『はい!そうです!これは殺し合いのゲーム!しかしただの殺し合いのゲームではありません!』


(殺し合いのゲーム……。一体こいつは何を言っているんだ?)


『このゲームの参加者は全員殺人者。つまりこのゲームは殺人者同士により、殺人ゲームなのですっ!』


(参加者は全員……殺人者?つまりそれは参加者である俺も含まれるということだ……。しかし俺は警察。人を殺したことなんて当然あるわけがない)


『詳しいルールは中央ルームにてお話しますので、これを聞いている皆様はすぐに扉を出て中央ルームにお越し下さい』


 それを最後にスピーカーからは何も声が聞こえなくなった。

 部屋の中を見渡すと、扉が一つあった。恐らくはそこから中央ルームに行けばいいのだろう。


「いこ」


 ぼーっと立っている俺の元に少女が近づいてくる。

 どうやら早く扉の向こうに行くように言っているのだろう。

「あ、あぁ……」

 どのみち、ここで考えても何も始まらないと思った俺は、結局声の言うとおりに扉へと進んだ。


 殺人者を集めた殺人ゲーム。

 一体これから何が始まろうとしているのか。どういう目的で、どういう意図があるのか何も分からない。

 でも、どうしてか先ほどまでうるさかった頭痛の痛みは今はさっぱり消えていた。

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