メル・ウルブス攻略作戦08
継実が草原で横になり、何もしなくなってから数時間の時が流れた。
日は沈み、空は青から茜色を通り越し、そして黒へと染まりゆく。夜と呼んで差し支えない時間帯だ。尤も海岸にずらりと並ぶ黄金の蜂蜜都市は、人間が作り出した高層ビルよろしくギラギラと輝いていたが。
ビル内の様子は窺い知れないが、発光させるのにもエネルギーは必要である。わざわざ光り輝くという事は、中の働き蜂達は今もせっせと労働しているのだろう。さながら人間社会が、昼も夜も関係なく動いていたように。夜も働けばその分多くの『生産物』を得られて、より繁栄する。個々の働き蜂達は休みない労働とストレスで疲弊しているかも知れないが、個体の幸福と生死は種の繁栄に直結しない。
正に文明。正に技術的勝利。自らの大繁栄を見せびらすような都市の煌めきは、草原を昼間のように光で塗り潰していた。
「ら、ら……ライチョウ」
「お、よく知ってたね。ウシバエ」
「エイ」
「イエシロアリ」
そんな明るい場所で継実達が何をしていたかといえば、しりとり(生物名縛り)だった。ちなみに「り、り……リス」と答えるモモにすかさず「スキバホウジャク」と答えるぐらい、継実が圧倒的優勢(ちなみに正確な種名でのみ答えるハンデ付き)である。
仲睦まじい二人の遊びを横で見ていたミドリは、自力で捕まえたバッタをボリボリと食べた後、ちょっぴり呆れた様子で声を掛けてきた。
「あの……継実さん? もうすっかり夜なんですが……」
「す、スカンク!」
「クリオオシンクイガ。うん、もう夜だねー」
「が……ガ!」
「夜まで待ちましたけど、何も起きないのですが」
「ガガンボモドキ。起きなかったね。でももう少し待ってみない?」
「き、き、きぃ……………ノコ!」
「先程から待つ待つ言ってますけど、何を待ってるのですか?」
「キノコはちょっとズルくない? ま、良いけど……コウガイビル。勿論、ミツバチ達の天敵だよ」
「ル!? ル……るうぅぅううぅぅ……」
モモを一旦黙らせて、継実はミドリと向き合う。ミドリはのたうつモモをちらりと見てから、継実との話を再開した。
「天敵、ですか……その、何が来ると思うのですか? ガもダニも共生してるっぽいのはさっき見ましたし。あ、もしかしてスズメバチですか?」
「さぁ、なんだろう? 流石に姿形は見てないし……でも痕跡はあったからね。どの程度の速さで再建されるものか分からないから、今日明日で来るのか知らないけど」
「痕跡? 再建って……」
「ほら、あそこを見て」
未だ納得出来ていないミドリに、継実はある場所を指差す。
それは継実が『待機』を決める前に見た、蜂蜜都市の一画に建ち並ぶ十数棟のビル。周りに立ち並ぶビルが段階的に高さが異なる中で、唯一他の半分ほどの、しかも何故か均一な高さとなっている部分だ。
継実が指し示した事でミドリもその部分の異常性に気付いたのだろう。未だ頭に『る』の付く動物が思い付かず(ちなみにルリボシカミキリやルリビタキなどルリ○○という生物はそこそこ多い)頭を抱えているモモなら間違いなく気付かないところだけに、話が早くて助かると継実は思う。
とはいえミドリが思い至ったのはそこまで。違和感こそ覚えたが、それ以上はよく分からなかったのか。首を傾げながら継実の顔を窺い、話の続きを待つ。
継実としても意地悪をするつもりはない。ただ、急ぎではないので、ちょっと勿体ぶった話し方はするが。
「あそこのビルの高さ、他と違うでしょ? なんでだと思う?」
「うーん、なんでと言われましても……建材不足とか、ミツバチの気紛れとかじゃないですか?」
「その可能性もあるかもね。でも、多分もっとシンプルな理由だと思うよ。そうだね、例えば」
巨大な生物の手により壊されて、そこだけ再建中だとか。
継実が語った可能性。ミドリがごくりと息を飲んだ――――まるでそれが合図であるかのように、変化は起きた。
ずしんっ、という短い音と揺れだ。
決して大きなものではない。ミュータントの五感ならば逃す事はないが、七年前の普通の人間ならば気の所為だと思ったであろう小さなものである。しかし揺れは一度だけでは終わらず、ずしん、ずしんと何度も起きた。
そして揺れは着実に大きく、強くなっている。
ミドリは狼狽えなかった。彼女はもう知っているのだ……この星の生命が秘めた力の大きさを。一千メートルを超えるような大蛇や、四百メートル超えの巨人を見てきたのだから、今更こんな音と振動に狼狽などしやしない。
無論、蜂蜜都市を築いたミツバチにとっても。
ミツバチ達の詳しい心境は、都市全体から響き渡るサイレンによって示された。
「きゃっ!?」
「ぐっ……これは中々……!」
鼓膜が破れそうな、という表現が大袈裟でないほどの大音量。更に海岸線に並ぶ蜂蜜都市達が強く発光を始めた。元々草原を明るく染めるほど強く光っていたが、今ではまるで太陽が如く眩さだ。
光の強さがエネルギー量の多さを示しているならば、今のビル内部には莫大な、さながら恒星を彷彿とさせるエネルギーが内包されているのか。個体ではなく
問題は、継実達が突撃をしても軽くあしらうだけだったミツバチ達が、これほどの厳戒態勢を取る存在がなんであるかだ。しかしその答えはすぐに明らかとなる。
継実達から見て背後に当たる、北東の地平線から巨影が姿を表す。
それは全身が灰色の毛に覆われた、四足の獣だった。体長は凡そ百メートルに達し、体高も三十メートルはあるだろうか。ムスペルのような真正の怪物達ほどは大きくないが、それでも圧倒的な巨体だ。鞭のように尻尾は非常に細長く、身体の長さを明確に上回るほど。
その様相を一言で語るならば、『ネズミ』だ。
恐らく生物に詳しくない人ならば、ネズミと断定して終わっているだろうぐらいには瓜二つである。しかし継実は『それ』がなんてあるかを知っていた。ネズミにしては細長い頭部に、筒状の細長く伸びた口。口先からはちょろちょろと長い舌を出し入れしていて、食欲を抑えきれない様子である。
実物を見るのは初めて。だが、知識では知っている。
「あれは……フクロミツスイか!」
フクロミツスイ。
七年前であればそれは、体長十センチもないようなネズミ型の生物を指す言葉だった。ネズミ型と言ってもその名が示すように彼等は有袋類の一種であり、ネズミとは大して近くもない関係だが……なんにせよメートル単位の大きさとは無縁の一族である。
されど此度地平線より現れたのはミュータント。超常の力を使うその生き物に常識は通じない。人間が原水爆級のエネルギーのビームを撃てる事に比べれば、体長が一千倍になる事などまだまだ理解の範疇だ。
唯一問題があるとすれば、ただでさえ燃費の良くないミュータントが大型化すれば更にたくさんの餌が必要な事。しかしその問題も、此処であれば解決は簡単である。
継実達の目の前に、山盛りの食べ物があるのだから。
【キュウゥルルルウゥゥ!】
巨大なフクロミツスイは猛然と、海岸沿いに並ぶ蜂蜜都市目掛けて走り出した!
見た目上決して太くない手足だが、百メートルもの巨体となれば生み出す力は絶大。大地震を引き起こすほどの衝撃を発し、何千トンあるかも分からない身体を超音速と呼ぶのも生温い速さで突き動かす。
フクロミツスイの接近を察知した蜂蜜都市は、継実達相手とはまるで異なる反応を起こした。
フクロミツスイが自分達の五メートル圏内に入る遥か手前、何キロも離れている時点で地面から巨大な壁を生やしたのだ。正に防壁として展開されたそれは黄金に輝いていて、これもまた蜜蝋で出来ている事が窺える。具体的な強度は不明だが、恐らく自分の粒子ビームでは傷も付かないと継実は直感的に理解した。
だがフクロミツスイは止まらない。
一切減速せずに駆けるフクロミツスイは、僅かに身体を傾け、肩からタックルを仕掛けるように壁に激突! 粒子ビームですら傷も付けられないと継実が思った壁を、ただの突進でぶち破った!
展開した防壁は足止めにもならず、フクロミツスイは蜂蜜都市に辿り着く。身体が接触したビルがガラガラと崩れ落ち、蜂蜜都市に大きな損害を与えた。
【キュゥルウゥゥ!】
対してフクロミツスイの方は、全くの無傷。崩れ落ちてきた瓦礫を頭で受けても気にもしていない。継実の耳でも喜びに満ちていると感じるような、甲高い雄叫びを上げる余裕まである。
正に圧倒的パワー。しかし蜂蜜都市も黙ってやられている訳ではない。フクロミツスイが都市に被害を与えたのとほぼ同時に、蜂蜜都市の建ち並ぶビル達に続々と穴が開く。
穴の中を見れば、そこには継実達を捕縛した直立昆虫型ロボット達の姿が見える。
いや、正確には少し異なるか。ロボット達の手には何やら光り輝く槍のようなものが握られており、胸部に『上乗せ』の装甲があるなど、明らかに武装していた。
どうやら巣が危険に晒された時に出撃する、戦闘用の機体らしい。継実が感じ取った気配からして、その機体の戦闘能力は継実を少なからず上回る。ミツバチ達の高度な技術力が窺い知れた。
そして穴の数は一つのビルで数百。フクロミツスイの周りだけで何十とビルは存在しており、つまり穴の傍に立っている分だけで数千〜数万の機体がいるのだ。穴の奥に並んで待っている機体がいる可能性を思えば、数十万の戦力が控えているかも知れない。
継実からしたら絶望的を通り越して達観に至るような戦力差。しかしフクロミツスイはちょっと意識を周りに向けただけで、大して狼狽えた様子もない。
やがて穴の中から一斉に、戦闘用のロボット達は背中にある四枚の翅を動かして飛び出した
【ギュルアッ!】
瞬間、フクロミツスイは自らの尾を振り回す!
正確に言うなら、継実が見たのはフクロミツスイがお尻を振ったところまで。何故なら実際に振られた尾は、あまりの速さ故に継実の目でも動きが見えなかったからだ。
されどその軌跡は肉眼で確認出来る。飛び出したロボット達が砕け散った、その粉塵によって。
綺麗なカーブを描く一閃。フクロミツスイの攻撃はロボット達を文字通り羽虫同然に葬ったのである。体格差五十倍以上、体重から推定すれば十二万五千倍オーバーの怪力を用いれば、そうなるのも当然だろう。ロボットだけでなく六角柱のビルも数棟を巻き込み、あっさりと倒壊させた。
しかしミツバチ達が繰り出したロボット(正しくは『戦闘機』かも知れない。砕けた粉塵の中に僅かながら『タンパク質』や『キチン質』が含まれている事を継実の目は確認した。つまり中に少なくとも一匹は搭乗している)は、仲間が粉微塵に消し飛んでも一切怯まない。それに尾の一撃は無慈悲なまでに強大だったが、尾自体の細さもあって攻撃面積は大して広くない。
次々とフクロミツスイに迫る、ミツバチが送り出したロボット達。その手に持つ槍が輝きを増していく。継実がその目で確認したところ、どうやら超高速で槍が回転しており、巻き込んだ大気が圧縮・高熱化によりプラズマへと変化しているようだ。恐らく継実が素手で止めようとしても、逆に分解されて砕かれる。
フクロミツスイの身体の大きさからして、槍が根本まで刺さっても致命傷には至るまい。しかし肉を突き刺す痛みは間違いなくあるし、出血も少なくないだろう。手数で攻めればかなりの大ダメージを与えられる筈だ。
フクロミツスイもそれを理解しているのだろうか。ギロリと、ロボット達を見渡すように睨む。
予備動作はそれだけだった。
それだけで、次の瞬間――――ロボット達の内側から鋭い結晶体が突き破って出てきた!
「ひぇっ!? え、な、何が……!?」
驚いたミドリが声を漏らす。困惑した彼女は答えを求めるように継実の方を見たが、継実にだってさっぱり理解出来ない。
結晶は美しい琥珀色をしており、キラキラと輝いている。一見して宝石のようにも見えるそれは、しかし相当の強度があるらしく、ロボットの装甲を容易くぶち抜いていた。中の『
結晶はフクロミツスイ目掛け飛んでいた全てのロボットから生えていて、この一瞬でミツバチ側の戦力の大半が失ったようである。圧倒的という言葉すら生温い、一方的な決着だ。
最早ミドリは言葉を失っていて、呆けたように固まっている。だが、継実はまだ平静を保っていた。だから何が起きたのか、解析するために思考するだけの『理性』がある。
能力を用い、ロボットの内側から現れた結晶を解析。すると答えは即座に明らかとなり……全く予期せぬ正体故に、今度こそ継実の思考は一時的に止まった。
「(あの結晶……糖質!?)」
そう、糖質なのだ。
成分は主にフルクトースとグルコース。色が黄色なのは、混ざり込んだ不純物の影響である。そして結晶を構築している二種の糖質は……蜂蜜の主成分だった。
恐らくロボットから生えてきた結晶は、蜂蜜が変化して生まれたもの。何故ロボットに蜂蜜が含まれているのか? 継実には理解出来ないが、ロボットの正体はミツバチ達が作り出した蜜蝋兵器だ。燃料が蜂蜜だとしても今更驚きなどしない。
そしてその結晶を作り出した張本人は、間違いなくフクロミツスイ。であるならば奴の能力を想像するのは難くない。
糖質を操る能力だ。しかも触れずに、遠隔操作が出来るというもの。
【キュゥアアアァァァッ!】
継実の予想を裏付けるように、フクロミツスイは新たな攻撃を始める。
攻撃と言っても視線を向けただけ。ただそれだけの動作で、見られた数十のビルから巨大な結晶が生えてきた。壁面を砕かれ、内部の柱も折られたであろうビル達は、轟音を立てながら次々と崩れ落ちていく。
時間にすれば僅か十秒にも満たない出来事。その僅かな時間で、ミツバチ達が築き上げた大都市が崩壊していった。
圧倒的な優勢。これぞ正しく『天敵』である。
無論、フクロミツスイとて自分が天敵だから等という意識でミツバチを襲った訳ではあるまい。奴は自分の利益のためにミツバチの巣を強襲したのだ。
具体的には、食事のために。
【キュ、キュウゥルゥ】
嬉しそうな声を出しながら、フクロミツスイは崩れたビルの一棟の上に乗る。次いで細長い口の先から、ちょろちょろと舌を伸ばし……崩れたビルを舐め始めた。
よくよく見れば、崩れたビルからは黄金色の『汁』が染み出している。瓦礫全体がしっとりと濡れるほどの量だ。更にビルを倒壊させた原因である結晶も溶け始め、黄金の汁の仲間入りを果たす。
成分分析をせずとも汁の正体は明らか。ほぼ間違いなく、ビル内部に蓄えられていた蜂蜜だ。フクロミツスイはその蜂蜜を食べたくて、ミツバチの巣を襲撃したのである。
そもそもミュータント化以前のフクロミツスイは、その名が示すように『蜜食』動物――――花の蜜や果実の汁を専門的に食べる、人間に知られている限りでは世界で唯一の哺乳類だった。肉や葉は食べず、甘い蜜だけで生きていく。
蜂蜜は濃度やら酵素やらの影響で様々な変化を起こしているが、元を辿れば花の蜜。糖質を主成分にしたものという意味ではなんら変わらない。フクロミツスイが餌として利用する事は可能だろう。勿論ミツバチの猛攻を潜り抜けて蜂蜜を得るのは至難の業であり、だからこそ七年前には出来なかった事だが……ミュータント化により獲得した能力があれば、それは難しい事ではなくなる。
ミツバチの巣の巨大化によりフクロミツスイも巨体が維持出来るようになったのか、ミツバチの巣の巨大化に対抗してフクロミツスイも巨大化したのか。恐らく両方の理由から、体長十センチに満たなかったフクロミツスイはここまで大きく強く進化したのだ。
「つ、継実さん! このまま、あの生き物がミツバチの巣を壊してくれれば……」
「うん。ミツバチはこっちの事なんて気にしてられなくなる。あの四角いロボットを奪い取るのも難しくない」
或いは、今がその好機だろうか。すぐにでも突っ込んでしまうかと考える継実だったが、しかし下手をすると興奮したミツバチに問答無用で攻撃される可能性もある。ならばいっそ此度は観察に徹して、どのタイミングが最適なのかを見極めるのが合理的か。
積極的に決断した訳ではないが、慎重さからすぐには行動を起こさなかった継実。結果的に、その判断は正しかった。
フクロミツスイは目の前の蜂蜜を貪るのに夢中で、こっそりと背後に忍び寄るロボット一機に気付かなかったのである。どうやら糖質による結晶化攻撃を逃れた ― 単純にまだビルの中に潜んでいたなどの理由でフクロミツスイの目に入らなかっただけだろうが ― 機体がまだ居たらしい。ロボットは静かにゆっくりとフクロミツスイに忍び寄っており、手に握られた槍は高速回転を始めている。継実が思わず「あっ」という声を出しても、継実など虫けら程度にしか思っていないだろうフクロミツスイは反応すら見せず。
蜜蝋製のロボットは、その手に持つ
【ギュウゥッ!?】
ただその一撃で、フクロミツスイは飛び上がるほど痛がる。
確かに蜂の針がお尻に刺されば相当痛いだろう。継実だって飛び上がる自信がある。しかしそれを差し引いても、フクロミツスイの痛がり方は大袈裟だ。ごろごろと転がってのたうつ程なのだから。
これではまるで、蜂に刺された子供のようだ。
「(もしかして――――)」
脳裏を過る可能性。尤も、今の継実は所詮傍観者だ。何を考えたところで、状況に変化は及ぼさない。
ミツバチに刺されてのたうつフクロミツスイに、周りの変化に対応する余裕などない。その隙に瓦礫の下から這い出すように、続々とロボット達が姿を表す。フクロミツスイは痛みで激しく暴れており、接近するのは危険だと一目で分かるが……自身の命よりも巣の存続が第一の働き蜂は危険を恐れない。勇猛果敢にロボット達は突撃していく。
フクロミツスイがすぐに能力を使えば、このロボット達の襲撃も即座に返り討ちに出来ただろう。されど刺された痛みで苦しむフクロミツスイに、迫りくるミツバチに対処する余裕などない。
ぷすりぷすりと、槍がフクロミツスイの身体に刺さっていく。
【キュウウゥゥゥゥ!? キュゥウルルウウゥゥウウゥウ!?】
何回も刺されて、フクロミツスイは悲鳴を上げた。
身体の大きさからすれば大した傷ではない筈だが、フクロミツスイは傍目にも分かるぐらい大混乱。跳び上がった勢いで体勢を立て直すや、何度も転ぶぐらい大慌てで走り出す。
あっという間にミツバチの巣を後にして、逃げ出してしまった。
フクロミツスイが逃げた時、働き蜂達が乗っているロボットは僅かに後を追ったが……すぐに巣である蜂蜜都市へと戻る。被害は甚大であるが、そこは機械的な働き蜂達。すぐに復興作業を始めていた。ミツバチの建築スピードがどの程度かにもよるが、混乱なく進める動きを見るに再建するのにさして時間は掛かりそうにない。もしもそこに侵入者がいたとしても、問題なく排除するだろう。
フクロミツスイが優勢だった時にチャンスだと思って蜂蜜都市に突撃したら、今頃継実達は蜂の巣状態になっていたに違いない。
「あぁ……駄目でしたか……あ、で、でも、凄くいい感じのところまで追い詰めましたよね!」
結果的にあのフクロミツスイに頼れば失敗したところだが、しかしミドリは大はしゃぎ。光明を見出したと言わんばかりだ。
実際、継実も同じように感じていた。あのフクロミツスイは目の前の蜂蜜都市攻略に欠かせない。奴の力を借りなければ、南極までの道のりは閉ざされたも同然だろう。
だが、ただ借りるだけでは駄目だ。先程のように、大した被害も与えられずに追い払われるのが精々だと思われる。継実達が飛行機械を盗み出す隙が作れるとは思えない。
なんとかしてフクロミツスイに大きな隙を作ってもらわねばならない。そして自分達が、それをじぃっと待っている必要などない。つまりこの問題を解決するには、こちらが手助けすれば良い。
そのために必要なのは、相手を知る事。
だから継実はミドリに対し、こんな提案をしてみるのだ。
「ちょっと、あの子の後を追ってみようか。挨拶も兼ねて、ね」
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