生物災害11

「ギヂヂヂィ!」


 突撃を仕掛けた継実に対し、ヤドカリはそのハサミで近くにあった貝殻を何度か擦る。

 すると貝殻から金属音のような音色が響いた。不快な音色ではあるが、決して音量は大きくない


「ごぼっ!?」


 そう思ったのも束の間、継実の身体に弾けるような衝撃が襲い掛かる! それと同時に、継実は一糸纏わぬ身体のあちこちから血を噴き出し、一瞬で真っ赤に染まった。

 どうやら体表近くの血管が突然破裂したらしい。能力により自分の身体の中を確認出来る継実は、自分の身に起きた事態を瞬時に把握。更にその原因が、ヤドカリが貝殻から鳴らした『音』にある事も見抜いた。


「(音波による共振攻撃……! 貝の癖に、なんだってこんな攻撃的な能力持ってんだよ!)」


 見えない攻撃に舌打ちをする継実だったが、しかしタネが分かればどうという事もない。

 身体の傷は即座に修復し、継実はまたヤドカリとの距離を詰めようとする。ヤドカリもそれを見て再度音波による攻撃を仕掛けるべく、傍にある貝殻に触れた。

 だが遅い。

 水中ならば恐ろしい攻撃だっただろう。何しろ水の中では、音速は秒速一キロを軽く超えてくるのだから。しかし空中ではたったの三百四十メートル前後。継実の動体視力なら

 ヤドカリが攻撃準備に入ったのを目にするや、継実は突撃を止めて横方向へ回避。攻撃を外したと理解したヤドカリは、継実の後を追うように身体の向きを変えようとした。


「隙ありっ!」


 そのチャンスを狙うのがモモ。

 ヤドカリはモモの存在に気付くや、すぐさま自分の殻に触れようとハサミを動かす。が、モモの方が一瞬早い。体毛を伸ばしてヤドカリの二つのハサミに巻き付ける!

 ハサミを糸で雁字搦めにされて、ヤドカリは悪戦苦闘。毛なんかに負けないとばかりにハサミを動かそうとする、が、モモの方が力は強いらしい。ハサミは殻に触れるどころか、真っ直ぐ前に突き出すように伸ばされてしまう。

 能力を発動させるには、ハサミで貝殻に触れなければならない。両手のハサミを拘束した今なら背負ってる貝殻の力、運動方向操作の能力は使えない筈だ。止めの一撃を顔面に喰らわせるべく、継実は逃げから攻めへと転じた。

 ――――しかし内心、上手くはいかないと感じてもいたが。

 モモが語っていたように、ヤドカリは自分の能力の『欠点』を知っている。ハサミの動きを阻まれた程度で負けるようなら、きっとヤドカリという種族はとうの昔に滅んでいるだろう。

 何か対策がある筈なのだ。ハサミの動きを封じられた時のための。


「ギッ……ギッギギヂィイイイイッ!」


 それを証明するかのように、ヤドカリは自らの身体を

 腕が固定されている状態で、貝殻の奥に引っ込むなど出来るのか? 無論なんの問題もない。別に殻の動きそのものは固定されていないのだから。身体が固定されている状態で殻にこもろうとすれば、当然貝殻の方が前へと進む。

 そうして貝殻の中に身体の大部分が入れば、ハサミの根元付近が貝殻の縁に触れる事も可能だ。

 触れてしまえばヤドカリの勝ち。運動方向操作により締め付ける力が反転し、モモの体毛は自らの力によって弛んでしまう。


「ぐっ!? やられた!」


「ちっ!」


 最早ヤドカリが運動方向操作の力を持っているのは明白。ここで攻撃しても無駄だと、継実は一旦距離を取ろうとする。

 しかしヤドカリがそれを許さない。

 ヤドカリは近くに落ちていた貝殻をまた触る。それだけでヤドカリが触れた貝殻に向けて、強力な重力が発生し始めた。抗いようがない強い力に、継実の身体もどんどん引き寄せられてしまう。

 逃げる事が出来なくなった継実。だからといって前進しても、貝殻の方に引き寄せられて身動きが取れなくなるだけ。

 モモは継実を助けるべく動き出そうとしていたが、彼女も貝殻の重力の対象だ。無差別な吸引により、身動きが封じられている。残るミドリは離れていたのであまり強く能力の影響は受けていない筈だが、彼女はそもそもにして非力。近くの砂浜に這いつくばって、どうにかこうにか耐えるのが精いっぱいだった。

 その間にヤドカリは別の貝殻に手を伸ばす。巻き貝のようだが、やはり種類の識別は出来ない。どんな能力が来るかも分からないまま、継実とモモはやってくる攻撃に備えて守りを固めた。

 結果的に、その行動は徒労で終わる。


「――――ギッ」


 ヤドカリは舌打ちのように一声鳴くや、傍にあった巻き貝ではなく、自分の背負う殻に触れたのだから。

 身動きが取れない相手を前にして、まさかの防御行動。しかも触る貝を変えた事で重力操作の現象が消え、継実達は自由を取り戻す。慎重も度が過ぎればただの間抜けであるが、しかし此度のヤドカリについては間違いなく英断だ。

 遠くで取っ組み合いの争いをしている大蛇と巨人の余波が、こっちに飛んできたのだから。しかもまるで衝撃波のような白い靄が、ドーム状に広がりながらである。


「ちょっ……あれ衝撃波!?」


【ね、熱波です!? こ、此処に到達する頃でも、多分数千万度以上を保ったままの!】


 継実のぼやきに、ミドリが脳内通信で答える。一体何をどうすれば何十キロ離れてても数千万度の高熱が飛ぶような事になるのか? 理解不能だが、考えている暇はない。

 見た通り熱波はドーム状に拡がっており、回避は不可能。しかも明らかに音速よりも速い広がりをしており、膨張した大気の衝撃も相当なものとなるだろう。恐らくただの人間だったら例え核シェルターに逃げたとしても、骨一つ残さず消え去るに違いない。

 それでも継実なら、能力で熱はなんとか出来る。衝撃は分からないが、ギリギリ耐えられると読んだ。ミドリについても、継実が粒子スクリーンを渡せばなんとかなる筈。


「やっべ……」


 それよりもピンチなのはモモ。彼女の体毛は、兎にも角にも高熱に弱い。

 中心点が数億度にもなる水爆クラスの攻撃にもなんとか耐えるが、それは一瞬で薄れて拡散するからの話だ。大蛇達が出した戦いの余波は、恐らく数秒と継続する。これでも短いといえば短いが、水爆の高温持続時間と比べれば何万倍もの長さ。

 果たして彼女は、頑張れば耐えられそうなのか?


「モモ! いける!?」


「無理!」


 継実が問えば即座に返ってきたのは諦めの答え。しかしそれで良い。戦いで必要なのは希望的観測ではなく、確かな事実のみだ。

 事実さえ分かれば、何をすべきかが見えてくる。

 継実は一旦ミドリを回収。その後素早くモモの下へと向かう。そして粒子スクリーンをミドリとモモ、二人の身体に展開させた。

 そして自分は、生身で迫り来る超高温と向き合う。

 粒子スクリーンは展開しない。そのための力はモモ達に分けて使いきってしまったのだから。生身の身体を構築する元素に能力を用い、耐熱性を極限まで高める。これで熱量については問題なく耐えられる筈だ。

 問題は物理的衝撃の方。


「ッ……!」


 まずは継実達よりも海辺側に近いヤドカリに、迫り来る熱波が当たる。勿論砂浜に転がる、他の貝殻達にも熱波は襲い掛かった。途方もない衝撃故か、中には吹っ飛ばされてごろごろと転がる巻き貝や、大空へと飛び上がる二枚貝の姿も見られた。中に隠れていた生物達は灼熱に晒され、耐熱性が低かったものは一瞬で消滅していく。

 そして継実達の身体にも、熱波が襲い掛かる。


「うぐぅあッ……! ぬううううぅ!」


 能力により全力で防いでいるのに感じてしまう熱さ。今の身体なら核攻撃されたってケロッと生還してみせる自信があるのに、継実は苦しみ呻く。

 更に物理的衝撃の強さも凄まじい。身体の表皮が、ビリビリと剥かれていくのを感じた。所謂生皮を剥ぐというやつだ。常人ならやがて死に至る傷だが、粒子操作能力により傷口を再生させてこれに耐える。

 時間にすれば僅か五秒にもならない、あまりにも短い災害。されどその瞬間的威力はこれまでのものとは比較にならず。浜辺の砂は表面が蒸発して何メートルも抉れ、継実達と周りの貝殻は落下。海水は一瞬で蒸発し、辿り着いた砂浜の『地下』だった場所は溶解してマグマと化している。今の地球にマグマに浸ったところで死ぬような生物などいないが、起きた事象の破壊力を窺い知る指標とはなる。

 引き起こされた『災厄』はこれだけではない。大気が全てプラズマ化し、酸素も二酸化炭素もなくなっていた。いや、それどころか吸えば体組織を全て焼き尽くすようなエネルギー体と化したのだ。息を吸えないなんてマシ。息を吸えば身体が傷付く。地獄だってもう少しマシな環境だろう。

 ミュータントにとっても『災害』と呼ぶしかない災禍。なんとかこれを生きて耐えた継実であるが、ダメージは決して軽くない。


「ぐ……かはっ……!」


 熱波が通り過ぎた直後、継実は膝を屈してその場に倒れてしまう。ぐしゃりとマグマに手を付け、そのまましばし動けない。蒸発した海水 ― は超高温で一度水素と酸素に分かれたが、また化学反応で結合して水に戻った ― が沸騰した雨となって降ってきたお陰でマグマはすぐに冷えて固まり始めたが、まだまだ柔らかく、継実の手は埋もれていく。

 粒子スクリーンのお陰で無傷で耐えたミドリとモモが、ぬかるんだ灼熱の足場を走りながら駆け寄ってきてくれたのは、気温が下がって酸素や窒素が戻り、自力での呼吸が出来るようになってからだった。


「つ、継実さん!? 大丈夫で、ひっ!?」


「ああもう、相変わらず無茶して……!」


 ミドリは顔も身体もボロボロになった継実を見て、小さな悲鳴を上げる。それだけ酷い怪我なのだが、モモは嗜める言葉を掛けるだけ。


「回復するまで足止めしてるから、早く戻りなさいよ!」


 継実がこの程度の怪我では死なないと知っている相棒は、自分のすべき事を為すためヤドカリに向けて走り出した。

 貝殻のお陰で熱波を無事耐え抜いたヤドカリは、すぐ近くに転がっていた巻き貝に触れて能力を発動。閃光が撒き散らされ、モモを牽制する。光速の攻撃を避けられずその身で受けるモモだが、一切臆さずヤドカリに肉薄して戦い始めた。

 一人で戦うモモが心配だが、しかし継実は家族の言葉を信じてまずは傷を癒やす。それと共に、ヤドカリの動きも注視。

 ヤドカリはモモの攻撃に対し、背負っている貝殻の向きを変えるなどして正確にいなしていく。モモも素早さで翻弄しようとするが、ヤドカリも自分の遅さは理解しているようで無理には追わない。気配を探るように静かに待ち、攻撃のタイミングに合わせている。この守りを突き崩すのは、いくらモモでも中々難しいだろう。

 唯一ヤドカリがモモから意識が逸れるのは、大蛇達の争いの余波がこちらに迫ってきた時。


【こ、今度はなんか電気が来ます!? というかなんで電気が!?】


 ミドリが脳内通信で警告を発した時、バチバチと、真横に走る稲妻が四方八方へと飛び散っていた。

 継実が見たところ、稲妻が走っている領域では水分子が激しく擦れ合っており、大量の静電気を生み出している。これが集まって稲妻になっているようだ。恐らく大蛇と巨人の激戦により生じた熱で莫大な雲が生まれ、その雲が衝撃波により摩擦で擦れ合うような形になった結果生まれたのだろう……と言葉で説明は出来るのだが、何もかも滅茶苦茶だ。

 しかしそんな否定をしたところで非常識は消えてなくならない。稲妻は平然と何十キロも海面を跳ねるように飛びながら、継実達の居るニューギニア島にも迫る。


「今度は私の番ねッ!」


「……!」


 迫り来る電撃に対し、モモは継実達の前に戻ってきて立つ。ヤドカリは素早く殻の中に引き籠もり、稲妻に耐えようとした。

 稲妻はヤドカリの殻に命中するも弾かれ、島の何処かに飛んでいく。熱波を耐え抜いた他の貝殻も稲妻に耐えた……が、物理的衝撃が余程強いのか、命中したものは小石のように吹っ飛ばされる事も少なくない。

 モモは髪の毛部分の体毛を地面に突き刺してから、継実と自分達に迫る稲妻をその身で受けた。体毛を通じ、地面に流す事でやり過ごそうという作戦だろう。


「うぐぁっ!?」


 だが、モモが呻きを挙げた瞬間、地面に突き刺した体毛の半数が焼け落ちる。更に全身からぶすぶすと、煙まで上げていた。

 通電した際に生じた熱で体毛が溶けたのか。確かにモモの体毛は熱に弱い、が、技として使えるぐらい電気には強い。即ち先の稲妻は、モモが放つ数億キロワットものエネルギーなど足下にも及ばない出力という事。

 しかも大蛇達はこちらの事など構いもせず、戦いを続けている。

 二度目の稲妻の襲来があっても、おかしな事ではなかった。


「ちっ! だけど、一度目でコツは掴んだわよ!」


 再度襲い掛かる電撃に、しかしモモは臆さず。地面に突き立てる体毛の数を増やして再びその身で受け止めた。

 モモの身を案じてか、守られているミドリは不安げな顔を見せる。対する継実は、勿論モモは心配だが、それ以上に注視する存在がいた。

 自分達が今正に戦っている、ヤドカリである。

 またしても渡り押し寄せてきた稲妻も、ヤドカリは貝殻にこもってやり過ごす。物理運動操作の能力は電撃に対しても有効で、激突した電撃は何処かに飛んでいき、島の地形を変える大爆発を起こす。直撃した貝殻には傷一つ付かず、電気使いであるモモよりも受けたダメージは少なそうだ。

 正に無敵の防御力。自分達どころか大蛇達の余波すら受けられるとは、流石は島の動物達が求めて止まない貝殻を背負うだけはあるというもの。

 故に解せない。

 何故ヤドカリは


「(私があの殻を手に入れた立場なら、どうする?)」


 身を守るために必要な貝殻を手に入れ、身に着けた状態で、敵に襲われたらどうするのが『最適』か?

 。敵は引きずり出そうとするかも知れないが、物理運動操作で触る事すら出来ないのだから構う必要などないのである。むしろ戦うために色々な貝殻を触ろうとすれば、その都度折角の物理運動操作の力が失われ、先のように『災害』が襲ってくれば大急ぎで貝殻に触れなければならない。ハッキリ言って危なっかしい行動だ。

 どうしてヤドカリはこんな行動をしている? 何故貝殻の中に引き籠もっていられない?

 まさかだとは思うが――――


「……そのまさかしかなさそうだなぁ」


「継実さん?」


 独りごちた言葉に、ミドリが首を傾げる。何か名案を閃いたのかと聞きたげな顔に、継実はYesともNOとも返さない。

 それ以外に合理的説明が付かない以上、恐らく予想は当たっているのだろうと継実は信じていた。しかしそれは、あまり希望にはならない。むしろ状況の深刻さが増しているだろう。

 加えて、何がなんでも貝殻を奪わねばならなくなった。


「っあぁクソッ! どうやりゃあの貝殻奪えるんだ……!」


 思わず出てしまう悪態。貝殻の重要さを今になって再認識したが、やはりあの物理運動操作の力が強過ぎる。アレがある限り、全く手出しが出来ない。

 隙を突くにしても、貝殻を背負っているのだから少しでも時間があれば奴は必ず守りを固められる。奴にはこちらを排除しないといけない理由があるので攻撃の機会を窺っている筈だが、だとしても戦闘スタイルは基本的には防御重視。隙を突いた攻撃はまず通らないし、ヤドカリも隙の大きな攻撃はしないだろう。

 自分の長所と短所を理解している奴は、本当に厄介だ。


「うぅ……どうにか此処から動かせないでしょうか。足場ごと、こう、投げ飛ばしたり……」


 ミドリも考えていたらしく、そんな作戦を口にする。確かに相手はこの貝殻だらけの環境だからこそ力をフルに使える訳で、此処から移動出来れば大きく戦闘力を落とせるだろう。それは間違いない。

 しかしその方法がない。ミドリは足場ごと持ち上げればと言ったが、運動方向操作の力を使えば自分の『位置』だって固定出来るだろう。ヤドカリは動かず、その下にある足場だってヤドカリ自体が壁のようにそびえて動かせない。

 実のところ足場だけなら動かす術があるのだが、あれは生物相手に使える技では――――


「(……あれ?)」


 否定的に考えていた継実だが、ふと思考が止まる。

 『アレ』、使えるのではないか?

 以前の合体技と同じく、『アレ』は小さな頃に考えたもの。「わたしのかんがえたさいきょーのこうげき」の一種であり、威力は確かに凄まじいが実現性は皆無。以前大トカゲに使った合体技の方が余程実用的な有り様だ。

 されど、コイツに効くのではないか? だってコイツは、なのだから……


「……ミドリ」


「え。あ、はい?」


「アンタもう、ほんとに最高!」


 継実は感極まってミドリを抱き締める。感情のまま抱き付いたところ「ぐぇっ!?」とミドリが呻いたが、謝るのは後。


「ミドリ! モモに脳内通信でこう伝えて! ――――使って。それだけ言えば伝わるから!」


 継実はヤドカリに聞こえないよう、ミドリにだけそれを伝える。

 突然の頼み事。そして『必殺技』という言葉に、ミドリは一瞬呆ける。

 けれどもその顔はすぐに、楽しげな子供の笑みに変わった。

 恐らくそのすぐ後に脳内通信が行われたのだろう。モモはこちらを振り向いて「マジで?」と言いたげ。あの技がどれだけ実用性皆無なのか、モモも知っているのだから。

 だけど何故実用性がないのかも、彼女は知っている。

 モモの顔に不敵な笑みが戻るまで、数秒と掛からない。


「よっし! 行くわよ継実!」


「おうとも!」


 モモの掛け声に合わせ、立ち上がった継実はヤドカリに突撃する!

 継実達の言動で何か違和感を覚えたのか、ヤドカリは警戒心を強めていく。ハサミで貝殻に触れた状態で、見た目の変化などする筈のない複眼で睨み付けてくる。未だダメージ一つ与えていない継実達だが、それでもヤドカリは気を抜くつもりもないらしい。こちらも全力で向かわねば、隙を突かれて

 しかし継実は敢えて余所見をした。ちらりと眼差しを向けるのは、海。

 争う巨人と大蛇の姿が、こっちに近付いてきている。

 それは単なる揉み合いの結果か、はたまたなんらかの作戦なのか。いずれにせよ巻き込まれる側としては、危険性が刻々と増しているのは確かだ。

 あまり猶予は残されていない。


「(なんとか間に合わせてよ、私の脳みそ……!)」


 自分の頭で自分に呼び掛けながら、継実は意識を集中させていき、

 ヤドカリ目掛けて、まずは考えなしの拳を振るうのだった。

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