生物災害09

 岩礁地帯で出会った、あのヤドカリについて継実は思い返す。

 ふてぶてしいほどにのんびりと暮らす姿。あれは自分の『防御力』に圧倒的な自信があったのだろう。殻にこもってさえいれば、例え大蛇が迫ろうと怖くないと。そしてそんな個体が生き残れてしまうほど、奴等の防御力は優れていたのだ。

 しかしその防御力は自身の甲殻ではなく、貝殻が発揮するものの筈。虎の威を借る狐……とは少し違うかも知れないが、自分自身の力ではない。しかもヤドカリは身体が大きくなると、サイズに合わせて貝殻を引っ越すという。つまり奴等の殻は自由に取り外し可能なアタッチメント付属品に過ぎない。

 大きさ四メートルの巻き貝。中で渦を巻き、仕切りもある事を考えると三人が入るにはちょっと狭苦しそうだが……多分入れない事はない。ならば貝殻をヤドカリから奪い、身に纏えば、恐らく大蛇の攻撃をやり過ごせる。

 それが継実の考える『生き延びる術』だ。


「ま、確かに現状一番確実でマシな方法ではあるわね」


「な、なんか酷い事のような気がしますけど……でも死にたくないので、頑張ります!」


 継実が自らの策を語れば、モモは納得し、ミドリは迷いながらも受け入れる。家族二人も戦う気になったところで、継実は改めてヤドカリを正面から見据えた。

 ヤドカリは巨大なハサミを構え、臨戦態勢を取っている。

 巨大な貝殻を背負っている身体の大きさは、精々継実よりちょっと大きいぐらいだろうか。無機質な複眼から感情を読み取る事は難しいが……難しく考える必要など何もない。

 自分から貝殻を奪おうとしている相手に向ける感情など、怒りと闘争心以外にあるものか。

 向こうもこちらを『殺る気』満々。手加減したら、やられるのはこっちだ!


「モモ! やるよ!」


「おうよ!」


 先手を打ったのは継実達。モモが真っ先に駆け出し、空高く跳躍するや全身からバチバチと電撃の音を鳴らす。大量の電気を生み出し、放電による攻撃を行うつもりだ。

 ヤドカリはモモの攻撃を予感してか、視線を上に向けた。貝殻も傾け、防御の体勢を取る。しかし相手はモモだけではない。継実はヤドカリの真っ正面から、粒子ビームを放つために力を溜め込んでいく。

 ここで大事なのは力を細く絞る事だ。


「(周りを巻き込んだら、間違いなくやられるからね……!)」


 ヤドカリとの戦いは、周りにごろごろと貝殻が転がる海岸沿いで行われている。ただの貝殻なら気に留める必要などないが、現在その貝殻の下には島中の生物が隠れ潜んでいるのだ。迂闊に巻き込んで彼等を怒らせたなら、大変な事となる。

 拡散した攻撃は御法度。狙いは正確に、相手にだけ当てなければならない。幸いにして動きが鈍いヤドカリに対し、外す事を心配する必要はなさそうだ。


「そのまま焼けなさいッ!」


 モモは上空より電撃を撃つ! 周りを巻き込む事の危険性を十分理解しているモモは、細く圧縮された電撃を一本だけ放っていた。

 何時もなら無数に放つ電撃であるが、一本に凝縮したそれの威力はこれまでの比ではない。数テラワット相当という出鱈目出力の雷撃が、数秒と渡ってヤドカリに降り注ぐ。

 だが、ヤドカリは怯みもしない。

 ヤドカリはただその殻を傾けただけ。ただそれだけでモモが放った電撃は、何処か彼方へと弾き飛ばされてしまったのだ。貝殻には傷どころか焦げ目一つすら付いておらず、なんのダメージにもなっていない。

 尤もこれは想定内であるし、大蛇から身を守るため貝殻に隠れようとしている継実達にとってはむしろ朗報。で焼け焦げていては話にならないのだ。モモだって最初から通じるとは思っていまい。

 モモの役目はヤドカリの意識を自分に向け、継実から逸らす事だ。


「喰らえ!」


 継実はヤドカリの真っ正面から粒子ビーム撃つ!

 こちらは元々圧縮した大出力ビーム。一直線に殻から出ているヤドカリ本体へと跳んでいく。これで顔面をぶち抜き、砕いてしまえばこっちの勝利。

 しかし残念ながらそう上手くいくものではない。

 ヤドカリは大きなハサミを盾のように構えると、それで粒子ビームを受け止めたのだ。貝殻ではない生身の部分の筈だが、なんのダメージも受けていないのか。更にハサミの角度を少し変えれば、当てた粒子ビームは何処かに跳んでいってしまう。

 継実が放った攻撃を、ヤドカリのハサミは難なく弾き返してみせた。こちらは『本命』の攻撃だっただけに、継実とモモも顔を強張らせる。

 ヤドカリはその苦悶を好機と思ったのか、重たい貝殻を背負いながらのしのしと歩いて接近してきた。

 しかし継実とモモはその接近を許さず、冷静に距離を取る。ヤドカリは舌打ちするように「カリッ」という音を鳴らし、継実の方へと歩き出す。が、継実は更に後退。決して近付けさせない。


「(お生憎様。アンタ達の能力は一度見させてもらってるんだから)」


 岩礁地帯で戦った時、ヤドカリは貝殻をまるで粘度のように自在に変形させた。貝殻の硬さを思えばあのような変形をする筈がなく、能力によるものなのは確実だ。

 伸びてきた貝殻の一撃は、貝殻自体の硬さもあって非常に強力なものだった。しかしあの時は不意打ちに加え、至近距離であるが故に躱せなかっただけの事。距離を取れば見切れない速さではない。

 岩礁地帯で行った戦いは、危険ではあったが無益ではなかった。あの時に相手の能力と性能を知る事が出来たがために、敗北が許されないこの場で危険な立ち回りをせずに済んでいるのだから。

 とはいえ距離を取ったままでは決め手に欠けるのも事実。遠距離攻撃を見切りやすいのは敵も同じだ。モモの電撃も継実の粒子ビームも、ヤドカリは難なく防ぐだろう。

 大蛇が『何か』を引き起こした時、生き残るのは殻を持っている方。持久戦に持ち込まれたら負けるのは継実達の側だ。故にそろそろ決着を付けねばならない。

 その鍵を握るのがもう一人の家族。


「ミドリ!」


「はい! 神経、ぐっちゃぐちゃにしてやります!」


 継実の指示を受け、ミドリが脳内イオンチャンネルの操作を試みる。

 これまで様々なミュータントに使ってきた技だが、即死に至った事は一度もない。ハエトリグモのように全く効かない奴もいたぐらいだ。七年前の地球ならどんな生物でも即死させ、あまつさえその思考さえも自在に操る脅威の攻撃なのだが、どうにもパッとした成果を出せていない。

 しかしながら派手な成果がないだけで、何度も何度も継実達の危機を救ってきた技でもある。相手の動きを鈍らせ、思考を妨げる。命懸けの闘争でそれがどれだけ有り難いかは言うまでもない。此度もヤドカリを即死させるには至らずとも、動きを鈍らせれば十分。

 そう考えていたのに。

 ヤドカリがまるで何かを察するかのように、ミドリの方に殻を傾ける。まさか殻でミドリの能力を防ぐ気なのかと継実は考えた。イオンチャンネルの操作をそれで防げるとは思えないが、相手はミュータント。どんな方法で防御するかなんて分かったものではない。

 そう、何時だってミュータントは『人智』を凌駕する。


「っがあっ!?」


 ミドリが突然短い悲鳴を上げたのも、『人智』までしか持ち得ない継実にとって想定外の出来事だった。


「――――ミドリ?」


 悲鳴を聞いて継実は思わず振り返る。

 そこには砂場に横たわり、痙攣するばかりでろくに動かないミドリの姿があった。

 字面にすればそれ以上のものは何もない、ごくシンプルな光景。されど継実はその意味を理解するのに、瞬き数回分の時間を費やしてしまう。七年前ならごく一瞬の時間も、ミュータントにとっては長考に等しい。

 ようやくミドリの身に何かが起きたのだと理解した継実は、その顔を一気に青ざめさせた。


「ミドリ!? どうしたの!?」


 継実は慌ててミドリに駆け寄る。ミドリは白目を向き、ガクガクと全身が痙攣していた。調べてみれば呼吸が出来ておらず、脈も鼓動が不規則な不整脈の状態。

 七年前なら高度な医療機関に連れていっても、果たして助かるかどうか怪しく思える症状だった。しかし継実ならば診断と治療が出来る。医療知識など皆無だが、直接体内構造を覗き込み、その中身を弄くり回せるのだから。

 そうしてミドリの身体を調べてみれば、神経系の状態が異常だと気付く。具体的には、正常ならば均衡が取れている筈のカリウム・ナトリウムのイオン濃度がしっちゃかめっちゃかだ。

 


「(まさか……)」


 脳裏を過ぎる最悪。しかし今はそれを気にしている場合ではない。いくらミュータントの生命力が強くとも、呼吸と脈拍が正常に働かなければ身体に取り返しの付かないダメージを受けてしまう。

 兎にも角にも、原因はイオンチャンネルの乱れだ。継実はミドリの神経系を流れるイオンに対し、能力で量や向きを操作。正常なものへと変えた後、鼓動乱れる心臓に対し気合いを入れるように一発拳で叩く。壊れたテレビ相手にするような乱雑さだが、テレビよりも丈夫でタフなミュータントはこれで息を吹き返してくれた。


「げほっ!? げほ、ごほ……あ、あたし、今、気絶……?」


「ごめん、後で何があったかは話す。とりあえずアイツに脳内イオンチャンネルの操作は駄目だ。今は周りの索敵と、アイツの動きにだけ注意して!」


 一通りの指示と脳内イオン操作を禁止し、継実は呆けた様子のミドリを置いて前線へと戻る。

 継実がミドリの救助をしている間も、モモはヤドカリに対し攻撃を続けていた。直接電撃を当てても駄目ならと考えたのか、体毛を伸ばし、ヤドカリ自身をぐるぐる巻きにしようとしているらしい。

 だが、どうも上手くいっていない。


「何よコイツ……なんでこんなツルツルしてんのよ! 全然引っ掛からない!」


 モモが悪態を吐くほどに、体毛はヤドカリの体表面を滑ってばかりだ。まるで掴む事が出来ていない。

 ヤドカリの身体は見た目からしてゴツゴツしていて、滑るようには見えない。故に納得がいかず、モモは何度も挑戦しているのだろう。お陰で継実はその動きを幾度と観測出来、そこで起きている出来事を知る事が出来た。

 体表面にて、モモの体毛の粒子の運動の『向き』が変化していると。


「(まさかコイツ、運動方向ベクトルを操作出来るの!?)」


 起きている事象を目にしたにも拘わらず、継実はその『事実』を簡単には受け入れられなかった。

 ミュータントの能力は一種につき一つ。

 。七年前のヒトという生物が『驚異的持久力』と『全生物最高の投擲能力』と『圧倒的知能』と『複雑怪奇な言語能力』を持ち合わせていたように、生物は複数の能力を持つのが当たり前の事。超常の力だのなんだのなんて関係ない。たくさんの能力を持つ方が『適応的』ならそうなる。ただそれだけの話だ。

 だからヤドカリが複数の能力を、『貝殻を自在に変形させる』力と『運動方向を操作する』力を持ち合わせていても、なんらおかしくない。むしろそうだと考えれば辻褄が合う。雷や粒子ビームが跳ね返され、ミドリの能力が返されたのも、全て。


「(つーかそんな能力があるなら貝殻なんていらないじゃない! 寄越しなさいよケチっ!)」


 あまりにも出鱈目なヤドカリの力に頭の中で悪態を吐く。それと同時に、小さな違和感を継実は覚えた。複数の能力があるのは分かるが、前者と後者があまりにも系統が異なるような……

 その違和感は継実の足を鈍らせ、ヤドカリに『次の一手』を打たせる時間を作ってしまった。

 ヤドカリはこっそりと横に移動。近くにあった別の貝殻 ― 高さ二メートルぐらいの巻き貝だ ― に近付くや、その貝殻にハサミを伸ばして触れる。

 するとその巻き貝の一部が、ぐにゃぐにゃと伸びながら継実に襲い掛かってきた。


「っ……!」


 考え事をしていた時の攻撃故に驚きはしたが、考え事をしていたからこそ距離もある。その『能力』を一度目にしていた事もあって、継実は跳躍するように軽やかに後退し、伸びてきた巻き貝を躱す。

 攻撃が当たらなかったヤドカリであるが、まだ追撃を諦めていないらしい。更にその横にある二枚貝をハサミで触れた。伸びてくる貝殻の速度はかなりのものだが、未だ考え事をしていても躱せるだけの距離がある。真面目に向き合えば、仮にさっきより速くても当たりはしない。継実は落ち着いてヤドカリと向き合う。

 だから貝殻が伸びてくるのなら、なんとかなっただろう。

 ところがヤドカリが貝殻を撫でるように触った時に起きたのは、だった。


「は? ぬぐぁっ!?」


 突然の、そして全く予期せぬ攻撃に継実は守りも固められず。全身を覆わんばかりに広がったレーザーが、継実の身体を焼こうとする!

 粒子操作能力により体表面の分子配列を制御。なんとかレーザーを受け流すが、不意を突かれて思考停止していた間は直撃状態だ。かなり大きなダメージを受けてしまい、致命傷には程遠いものの、継実の身体は膝を付いてしまう。

 まさかの三つ目の能力。しかも今度はレーザーとは、なんという多彩さか。

 驚く継実に追撃をするためか。ヤドカリは少し移動し、今度は一メートルほどの巻き貝に触れる。複眼は確実に継実を見ていて、こちらを攻撃する気満々だ。


「させるかぁっ!」


 その攻撃を妨げようと、貝殻にしがみつこうとするモモ。

 モモが貝殻にしがみつくと、ヤドカリは驚いたように身体を揺さぶる。激しい揺れ方だが、しかしモモの身体能力ならば振り解けるものではない。ガッチリと殻に爪を立て、自分の身体を固定。

 そしてバチバチと全身から音を鳴らし、モモは発電を始めた。


「……ギィヂヂヂヂ!」


 するとヤドカリは自分の背負う殻をハサミで触れつつ、また大きく身体を揺れ動かす。

 直後、モモの身体が大空へと吹っ飛ばされた! 恐らく運動方向制御により、しがみつく力そのものの運動方向を変えられてしまったのだ。何をするにも運動の向きというのは欠かせない因子。それを操られてしまえば手など出しようがない。対してヤドカリは相手の皮膚などに直接触れてしまえば、血流などを逆流させたり、イオンの行き来運動により制御されている神経系も掌握出来てしまう。正に必殺の手だ。

 とはいえ大空に打ち上げられたモモは、体毛で身体をガードしている。直接触れられる事はなくて未だ健在。空中で軽やかに身を翻して体勢を整えた。放電は、無駄と判断したのか放たない。

 そんなモモにヤドカリは、先程触れようとしていた巻き貝にまたハサミを伸ばした。今度はモモの邪魔がないため、難なく触れる。

 するとヤドカリに向けて

 ただの風ではない。物体そのものに働きかける、そして抗いがたい力。かつてこの力と似た『能力』を経験したからこそ、継実はこの力の正体に気付く。

 これは重力操作だ! 全ての物体が、ヤドカリの方へと引き寄せられている!


「!? これは……っ!」


「きゃああああああああっ!?」


「なっ!? ちょ……」


 突然の重力に継実はなんとか踏ん張り、引き寄せられて飛んできたミドリをキャッチ。しかし単身空に飛ばされていたモモはどうにも出来ず、ヤドカリの方に引き寄せられてしまう。

 ヤドカリは高速で飛んでくるモモを見るや、背負う貝殻に触れた。

 そしてすかさずハサミを振り上げ、まるで鉄拳のようにモモをぶん殴る!

 動きそのものは決して速くない打撃。だが運動方向操作と組み合わせれば、モモの身体を超高速で打ち出す! モモには抵抗すら儘ならず、音速という言葉すら生ぬるい速さで飛んでいき……岩礁地帯の岩場にその身を打ち付けた。

 今朝方出会ったヤドカリのパワーでは、藻に覆われた岩は砕けず。しかし此度の一撃は岩を粉砕し、モモを遥か彼方まで吹っ飛ばす。モモが止まったのは、行く手にあったもう一個の大岩を変形させてからだった。


「モモ!?」


「大丈夫! この程度でへばるもんかっ!」


 思わず名を呼べば、モモは健全さをアピールするように大声で答える。

 健全である事は良い報せ。されど継実が笑みを浮かべるには、あまりにもささやかな『良さ』だ。


「(なんなんだコイツ……! なんだってこんなに能力が多彩なの!?)」


 能力は一種類の生物につき一つとは限らない。限らないが、ものには限度というものがある。ミュータント能力を複数持つとどんな作用があるかなんて分からないが、なんの代償もなしに使えるとは思えない。

 ヤドカリは一体何を代償にこの力を使っているのか。それとも実は複数の能力があるというのが思い違いなのか。しかし貝殻を変形させ、運動方向を操り、レーザー攻撃をしたと思えば、重力まで支配し……そんななんでもかんでも出来る力などあるものか。

 強いて共通する動きがあるとすれば、能力を使う前にハサミで貝殻に触れていた事ぐらいで――――


「(……待って)」


 ふと脳裏を過ぎった言葉。その言葉の意味を考えた時、継実は顔をどんどん青くしていく。

 そんな馬鹿な、と叫びたくなる。だが否定する要素がない。だってそれは能力であり、尚且つヤドカリが持っていても不思議のない力なのだから。

 何事も認めなければ始まらない。しかし此度のそれは、認めてしまったら終わる。突き付けられた状況の悪さが、自分達を追い詰めるが故に。

 コイツの本当の能力は――――


「きゃあっ!?」


 結論に辿り着いた瞬間、ミドリが大きな悲鳴を上げた。しかしそれはヤドカリが彼女を攻撃したからではない。

 突如として巨大な地震がニューギニア島を襲ったからだ。正しく世界を揺るがす大震動。ミュータントとなった継実でも、油断すれば転びそうだと思うほどの激しさだ。しかも揺れはどんどん強くなっていく。


「こ、今度は何!? あのヘビ、またなんかやったの!? 地震って事はプレートでも気紛れにぶっ壊した訳!?」


「待って継実! これ、地震じゃない!」


 最早恐怖など忘れて大蛇に悪態を吐く継実だが、モモがその悪態を否定する。だが継実にはなんの事だか分からない。地面の揺れが地震でなければなんなのか、どしんどしんどしんと確かに奇妙な揺れ方ではあるが――――


「……いや、ちょっと」


 考えてしまった『予感』。言葉で否定してみても、地面の揺れは消えてなくならない。

 どしんどしんどしんどしんどしんどしん。絶え間なく続く揺れはどんどん近く、どんどん大きくなっていく。最早近付き過ぎて、大き過ぎて、具体的な距離も何も分からないぐらいになった時……それはニューギニア島の山からぬるりと

 その瞬間を目にした継実は、きっとこの光景は一生忘れないと思った。尤も、もうすぐその一生は終わるだろうとも思ったが。

 体長数百メートルもの真っ白な『巨人』を前にして生きていられると思うほど、継実は自分の強さに自信など持っていないのだから。

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