滅びの日15

 まるで世界を揺るがすような大地震。

 公園内でその揺れを感じた継実は、尻餅を撞いてへたり込んでいた。困惑から頭が真っ白になり、目を白黒させてしまう。

 大地の揺れ自体は精々震度四ぐらいで、大地震と呼べるほどのものではない。そんな地震で尻餅を撞いた挙句混乱していると、自分が酷く臆病な人間のようだと継実は感じた。

 それでも頭を抱えて蹲る他の……瓦礫の中から掘り出したものの選別を任された、老いた女性や小さな子供と比べれば、ずっと冷静なのではあるが。


「この揺れ、モモが……?」


 脳裏を過ぎる可能性が、声となって表に出てくる。落ち着いて感覚を研ぎ澄ませば、この揺れが直下ではなく遠方、具体的にはモモ達が食べ物探しに向かった方角から波打ってきていると分かった。ムスペルさえも倒すモモの力ならば、ちょっとした地震を引き起こすぐらい造作もあるまい。

 しかし解せない。

 モモは継実に怒られ、かなりへこんでいた。だから自分の力を人間に見せるような真似は極力避ける筈である。それこそムスペルがまた現れたのなら、さっさと逃げてくれば良いのだ。あの口論の中で継実がそう訴えたのだから、選択肢はモモの頭にも浮かぶ筈である。

 それをしなかったのは何故?

 それとも出来なかったのか?

 例えば逃げるという選択肢すら取れないほどの、ムスペルさえも比にならない脅威が来たとか――――


「おおーい! みんなぁ!」


 考え込む継実だったが、ふと聞こえてきた呼び声で我を取り戻す。

 無意識に声の方を見れば、わたふたと不格好な走り方で、慌ただしくこちらに走ってくる青年及び人々の姿があった。青年達は公園内に入ると、座り込んでいる人々の下に向かう。

 そして口々にこう語るのだ。


「大変だ! う、牛の化け物が出た!」


 恐るべき人外が現れたのだと。


「う、牛の化け物? なんだいそりゃ」


「分かんねぇよ! でもアレはヤバい! 兎に角逃げろ!」


「ねぇ、お姉ちゃんは? 一緒に行ったよね?」


「アイツも化け物だったんだ! それであの牛と取っ組み合って……」


 食べ物探しをしていた人々はそれぞれに話し、公園内に居た人々は困惑し始める。牛の化け物、女の子が化け物だったと聞かされ、一体何が分かるというのか。

 こんな話で何が起きたか察せられるのは、『化け物』を知る継実だけ。

 モモは戦っているのだ。牛の、恐らくは自分と同じタイプの存在と。ムスペルなどとは比にならない、最大最悪の脅威と。

 恐らく、人間を守るために。


「っ!」


 思い立った継実は無我夢中で行動を起こす。目に入った中で一番高い瓦礫に向かい、颯爽と駆け上る。継実の動きはギリギリ人間の水準だったが、訓練もしていない小学生が出来るものではない。目撃した人々は、継実の身体に違和感を覚えた事だろう。

 されど継実はもう、そんな事など気にしていられなかった。衝動のまま瓦礫のてっぺんに登り詰めた彼女は、バクバクと鳴り響く胸を押さえながらモモ達の向かった方を見遣る。

 瞬間、継実は驚愕した。押さえていた胸の鼓動が、一瞬聞こえなくなるほどに。

 無数の爆炎が生じ、雷撃があちらこちらに飛び交う、この世の地獄のような光景を見てしまったのだから……






「ふんっ!」


 渾身の力で、モモは大地に腕を突き刺す。

 その腕を力強く引き揚げると、バチバチと放電しながら大地の一部が浮かび上がった。突き刺した腕から放電し、流した電力により地面内の鉄分を磁石化。腕に纏う電力の向きを反転させる事で磁極を逆転させ、磁石化した土塊を引き寄せたのだ。

 引き寄せた土は総重量五トンほど。片手でこれを掴んで持ち上げたモモだが、そのまま投げ付けはしない。更に電気を流し込む事で磁力を強化し、反発力を増大させていく。

 そしてぽんっと軽く土を投げた、その一瞬で腕に大出力の電気を流し――――


「だりゃああっ!」


 落ちてきた土塊を殴り付ける!

 土塊に帯電した磁力と、腕に纏った磁力が反発。言ってしまえば同じ極の磁石を近付け合いなのだが、纏う磁力の強さが違う。土塊は反発力に押し出され、空を駆けた。

 磁力による兵器といえば、レールガンが有名だろう。あれは電磁誘導により物体を加速させていく事で、火薬による兵器よりも高速化を成し遂げるというもの。同じ電気による一撃でも、モモが使った方法とは原理が違う。もっと言うならモモはわざわざ磁力同士の反発という回りくどい方法を使っており、レールガンと比べて効率が格段に悪い。

 が、出力が桁違いだ。何しろ単身で九億キロワット……最大級の原子力発電所七百基相当という出鱈目な電力を生み出し、その力を腕部に集結させたのだから。撃ち出された土塊は音速の百数十倍もの速さまで加速し、余波で大地を抉り飛ばす!

 だが、届かない。

 モモの目の前で堂々と佇むホルスタインの僅か数十センチ手前で、巨大な土塊は霞のように霧散して消えてしまうのだから。


「ちっ! なら、これはどうかしら!?」


 舌打ちしつつ、モモは次の手を繰り出す。帯電した体毛を伸ばし、ホルスタインに巻き付けようという作戦だ。

 モモの体毛に流れる電流は落雷に匹敵する出力。おまけに落雷は一千分の一秒しか継続しないが、モモの電撃は何十秒だろうと続くもの。巻き付け、流し込めば、大概の生物は一瞬で丸焼きだ。

 巻き付けさえすれば、の話だが。

 ホルスタインにはこれも届かない。モモが伸ばした体毛は、ホルスタインに触れる直前にしてしまうのだから。燃え始めた体毛は一瞬で焦げ付き、切れてしまう。


「……どうやら単純な力の差だけではなく、相性面でもあなたは不利なようですね」


「……どうかしら? まだまだ奥の手は隠し持ってるわよ?」


 ホルスタインからの指摘に、モモは不遜な態度を崩さない。しかし内心は、ホルスタインの言葉に同意していた。

 そう、相性が悪い。正直ホルスタインの能力を事前に知っていたら、恐らく直接戦闘はなんとしても避けたほどに。


「わたくし達牛は草食動物と人間には言われていますが、実体は異なります。わたくし達の胃には微生物が住み着き、食べた植物を発酵。この発酵物と微生物を食物としているのです」


 ホルスタインが説明を始めたのと同じくして、ホルスタインの身体の表面に赤い揺らめきがぽつぽつと発せられる。


「そしてこの発酵過程で、わたくし達の体内ではメタンが生成されます。メタンは可燃性のガスであり、人間達は燃料としても用いているようです」


 揺らめきはどんどん大きくなり、ホルスタインの身体を包み込む。揺らめきはバチバチと鳴り響きながら、大きな炎と化した。


「わたくしはこのメタンを操り、燃やす力がある。勿論ただのメタンを燃やしてもたかが知れていますが……体内でなんらかの加工が行われているのでしょう。わたくしの操る炎はただの炎ではありません」


 やがて炎は赤い色合いを変化させ、透き通った青へと変わる。熱波が撒き散らされ、十メートル以上離れているモモの身体までもが熱により発火。『身体』が所々焦げ付いていく。

 過熱された大気による上昇気流の所為か、巨大なコンクリート塊が飛ぶほどの暴風が吹き荒れた。風に乗ったコンクリートはホルスタインに向かうが、数メートルと近付いたところで瞬時に気化してしまう。ホルスタイン足下の地面は赤熱し、少し離れた位置の方がもっと熱いのか、周りはどろどろと溶け始めた。

 ありとあらゆるものを引き寄せながら、ありとあらゆるものを消し去る地獄の業火。


「高熱の炎を操る――――これがわたくしの能力です」


 見せ付けるように力を発現させながら、ホルスタインは自らの能力を明かした。


「(ほんと、厄介ねぇ。相性最悪な上に、シンプルに強いときたもんだ)」


 目の当たりにしたホルスタインの能力に、モモは内心冷や汗を掻く。

 モモの能力は体毛を自在に操る事。この体毛は自在に伸ばせるし、擦り合わせる事で莫大な電力を生み出したりと、中々にハイスペックな代物だが……実のところ耐熱性は左程高くない。高くないといっても雷撃に匹敵する電流が流れても問題なく耐えるので、人間の兵器程度ではビクともしないが、それでも他の性能と比べれば格段に劣っているのは確かだ。

 モモと同じく特殊な能力に目覚めたこのホルスタインは、炎という熱の塊を操る。つまりピンポイントで高熱に特化した力という事。一番弱いところが相手の得意分野となれば、仮に『パワー』が互角でも勝ち目などないだろう。

 そしてそのパワーが段違いだ。

 モモは人間のような見た目をしているが、これはあくまで作り物。本当の身体は二歳のパピヨンであり、体重は四キロに満たない。伸びに伸びた体毛分を加算すればもう何倍か値を増やせるが、それでも精々二十キロ。足を形成している体毛で大地をガッチリ掴まなければ、巻き起こる暴風であっさり飛ばされてしまう軽さだ。

 対するホルスタインは、体重六百キロ前後にも達する。モモの百五十倍ものウエイトを誇る『超巨大生物』だ。基本的に体重とは細胞数の違いであり、機能に大きな違いがなければ細胞一つ当たりのエネルギー生成量は左程変わらない。つまり体重が百五十倍の生物は、百五十倍のエネルギー生成量を誇るという事。

 戦力差は百五十対一。知略やら武器でどうこう出来るようなものではない。

 それでも、モモは退く気などないが。


「直接触るのが無理なら、これならどう!?」


 モモは大きく腕を振るう。ホルスタインとモモとの距離は約五メートル。伸ばそうと思えば、体毛で出来ている腕はこの程度の距離を横断出来る。

 しかしモモの腕は伸びず。

 代わりに飛ぶのは、雷撃だ! 雷に匹敵する出力を用いれば、強力な『絶縁体』である大気に電気を通す事すら造作もない。強いて問題を挙げるなら、電流はより通しやすい方へと流れるため、任意の方角に飛ばす事がほぼ不可能であるという点か。されどこの問題は体毛を用いて『道』を作れば解決だ。体毛の先がホルスタインに触れる必要はない。十分な距離まで近付ければ、電撃はホルスタイン最短の目標目掛け飛んでいく。

 目論見は成功し、モモが放った雷撃はホルスタインを直撃。雷に匹敵する電撃が、雷よりも遥かに長時間流し込まれる。

 が、ホルスタインはまるでビクともしない。

 それどころか気にも留めないとばかりに突進! 音よりも速い猛牛の疾走にモモは反応出来ず、頭突きを喰らってしまう。軽い身体は何十メートルと吹っ飛ばされ、叩き付けられた瓦礫の山が衝撃で破裂した。

 これでも強靭な体毛に守られているモモにはさしたるダメージもないのだが、されど頭の中は混乱していた。


「(ちょっとちょっと!? 直撃したんだから呻き声ぐらい出しなさいよ! なんで効いてないの!?)」


 叩き付けられた山の残骸を吹き飛ばしつつ、体勢を立て直すモモ。

 しかしホルスタインは、この程度でモモが倒れるとは思っていなかったのだろう。

 先程喰らわせた突撃以上の速さで、再びモモ目掛け突っ込んできたのだから。


「っ! っアァッ!」


 間一髪でこれを躱したモモは、即座に電撃を指先から放つ。突進によりホルスタインは至近距離までやってきた。最早誘導線は必要なく、最大出力の電気がホルスタインの大きな胴体を打つ。


「――――ふむ」


 にも拘わらず間近に見えるホルスタインの顔は、嘲笑うように目を細めるだけ。

 痛みもどころか痒みすら感じていないであろう巨躯は、足を覆う炎がロケットエンジンが如く勢いで噴き出すやぐるんと横回転。強力な後ろ蹴りをモモにぶち込んでくる!

 今度はこちらが至近距離故に躱せず、モモは蹴りの直撃を受けてしまう。噴き出した炎で加速した下半身の威力は凄まじく、モモの『身体』を作る体毛がぶちぶちと生々しい音を鳴らした。

 されどモモは踏ん張り、吹き飛ばされる世を防ぐ。それどころか激突したホルスタインの下半身に抱き付き、我が身を密着させた。ホルスタインの身体は未だ超高温の炎が燃え盛っており、モモの身体にも炎が燃え移る。爆弾ぐらいでは焦げすらしない体毛が、燃えながら溶け始めた。

 長く抱き付けば、そのまま焼き尽くされてしまうだろう。モモ自身そんなつもりは毛頭ない。

 密着したのは、全力全開をも超えた一撃を放つため。


「ぐっ、がああああああぁァァァッ!」


 本性を露わにした獣の猛り声と共に、モモは全身から電撃を放つ!

 発電のため擦り合わせる体毛が過剰な摩擦により熱を帯び、溶解を始めるほどの大出力。モモは全身から黒煙を上げ、しかしその黒煙が見えなくなるほどの眩く電気工学の光が煌めく。その出力は最早雷撃を優に超え、自然界に存在しない破壊力を伴う。

 だが、これすらホルスタインには通じない。

 モモが繰り出した電撃は、あろう事かホルスタインの大量を滑るように飛んでいく。しばらく進んだ電撃はやがて弾かれるようにあらぬ方角へと飛び、雷の数倍の電流を地上に撃ち込む。十何本に枝分かれしたスパークは各々大地を切り裂き、生み出した出力が決して低くなかった事を物語る。

 これほどの攻撃すら通じぬとは、不条理というしかない。だが不条理ではあっても、決してインチキではない。抱き付いた事で、モモはホルスタインが身体に纏った秘密を知ったのだ。


「(コイツ、なんか透明な膜……ううん、ガスを纏ってるわね!)」


 ホルスタインの体表面には、なんらかの気体が存在していたのだ。それも人外の怪力を持つモモですら弾かれる、出鱈目な圧力で。

 この高密度気体が大気以上の抵抗を発揮する事で、電撃を全て跳ね返しているのだろう。恐らくホルスタインが語っていた加工したメタンとやらか。思えば超高温の炎を纏っているのにどうして生身の身体が無事なのか、弾丸よりも速い体当たりで何故自身は怪我しないのか不思議であったが、この気体が断熱材やクッションとしての役割も兼ねていたのだ。可燃性のガスで火から身を守るというのは間抜けにも思えるが、しかし酸素と混ざらなければどんなものでも燃えようがない。純度をコントロールする事で着火タイミングさえも制御しているのか。

 ホルスタイン自身は自らの能力を『高熱の炎を操る』などと語っていたが、実体は『ガスを操る』だろう。こちらを惑わすための嘘か、そっちの方がカッコいいからか――――秘密に気付いた今となってはどちらでも構わないが。

 そう、本当の問題は騙された事ではない。

 このガスを引っ剥がす手段がない事だ。


「(電撃は駄目、力尽くも駄目! 熱にも強いし、磁力でどうにか出来るならとっくに倒してる! どうすりゃ良いのよコイツ!?)」


 自分の手札を頭の中で並べてみるが、モモには名案が思い付かない。

 仮に閃いたところで、百倍もの体重出力差がある。ピンポイントに致命的な方法でなければ、力で捻じ伏せられてしまうだろう。

 そしてホルスタインの側は、モモに考える時間を与えるつもりもない。


「ふむ。わたくしの秘密も知ったようですし、遊びはここまでにしましょう――――実のところ守りに入るより、纏めて吹き飛ばす方が好きなのですよ」


 ホルスタインの『宣言』。モモの本能が危機を訴え、即座にホルスタインの足から離れた……が既に手遅れ。或いは無駄と言う方が的確か。

 ホルスタインの全身を纏う高密のガスを、更に高圧のガスが四方八方へレーザーの如く飛ぶ。

 モモは直撃こそ避けたが、前に後ろにガスのレーザーが撃ち込まれた。不味いと思ったがどうにも出来ない。撃ち込まれたガスはホルスタインの制御から離れるや霧散し、酸素と混ざり合う。それでもなお高温であるならば……火が付く。

 あちこちに撃ち込まれたガスが同時に発火し、激しく燃焼する。思うがまま化学反応を起こすガス達はより多くの気体分子を放出。アボガドロの法則により、質量が同じでも分子数が増えれば気圧は増大する。急激な圧力増加は衝撃波となんら変わらない。

 無数の爆発があちこちで起こり、モモとホルスタインを飲み込んだ。


「うぐああぁっ!?」


 自身が巻き込まれる事をなんの躊躇もしない攻撃は、モモに悲鳴を上げさせた。体毛が焦げ付き、千切れ、作り物の『身体』がボロボロになっていく。

 鎧である体毛の『身体』を失えば、モモはただの小型犬だ。されど体毛で出来たその身は、気合いを出そうが根性を絞り出そうが、防御力は何一つ変化しない。精々体毛同士の隙間を空けて熱の伝播を防ぎ、少しでも燃えないよう抗うのが限度。

 爆発により、ホルスタインを中心にした半径数百メートルが石ころ一つ残さないほど綺麗に吹き飛ばされた。朦々と立ち上る煙はキノコ雲を作り、巨大なクレーターが形成されている。爆発の熱による影響か大地が溶解し、燃えるように赤く光っていた。

 人間が用いる兵器でも、このような光景を作れるのはほんの一握りだけ。

 即ち先の爆発が『メガトン級』……核出力に値するものだったと、大地に刻まれた傷が物語っていた。


「……少々、やり過ぎましたかね?」


 それすらもホルスタインにとっては、本気を出した訳ではなく。


「ふぅー……! フゥゥゥゥー……!」


 そして熱に弱く、散々嬲られて弱っていたモモであっても、命を奪うには至らない。

 全身の多くが焦げ付き、焼け爛れながらも、モモはまだ生きていた。ホルスタインは「おや」と一言呟き、頭を左右に振る。


「やはり手を抜き過ぎましたか。近くに居るであろう人間を巻き込まないようにしたのですが、あなたが生きていては本末転倒ですね」


「ふんっ! 調子に乗ったわね……ここで止めを刺せなかった事、後悔させてやるわ!」


「調子に乗っているのはどちらなのやら。そうですね、じゃあ今度は――――先の倍の威力で試しましょう」


 ホルスタインの身体の炎が一層激しく燃え上がる。再びガスを放出するため、一時的にガスの生成が増大したからか。

 煽りはしたが今の一撃に耐えるのすら精いっぱいだったモモに、もうこれ以上の打撃は本当にどうにもならない。


「(ちゃんと逃げられたかなぁ……あまり時間稼ぎ出来なかったけど)」


 最早これまでと、覚悟を決めるモモ。だが諦めはしない。諦めればその時点で終わりだが、諦めなければほんの一欠片でも可能性はあるのだ。

 それはホルスタインも分かっている。だからこそ弱りきったモモに対し同じ威力の攻撃ではなく、倍の威力で葬るつもりなのだろう。念には念を入れて。

 モモにチャンスがあるとすれば、ガスが溜まりきるまでの僅かな時間。


「ゥヴヴ……グガァアアッ!」


 故にモモは傷付いた身体で迷いなく突撃し――――

 巨大な爆炎が大地を覆い尽くす方が、僅かに早かった。

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