たどり着いた村で(6)
時刻は少し夜も更けたころ。月は中天にあり、煌々と草原を照らしている。
集落を離れてアスファルトで固められた道をしばらく進むと、金属のチューブや、建物がいくつも立ち並ぶ工場のような場所があった。
先ほど解析した履歴が示す場所はその近くのようだった。錆びついた柱やチューブの隙間を風が通り過ぎていき、どこか物悲しい音を響かせている。
周囲の草原とは異なり足元をコンクリートで固められた工場地帯に、一行は慎重に足を踏み入れる。
「さて、意外と広いわね」
「まぁでもここなら多少はアタシも役に立てそうな感じだな」
そういうと、ソニアが近くの柱に備え付けられていた認証装置に手を伸ばす。長い年月を風雨にさらされ傷ついたその装置は、しかし、ソニアが触れると息を吹き返して電源が入る。
「まともに動いてる擬人とかはいなそうだな、今んとこ。うーん、っていうか稼働してる端末もあんまりないな」
「だれか探した方が早いんじゃない」
「や、ちょっと待て。なんか大きい端末があるな、なんだこれ」
ソニアが示したのは、工場地帯を横断する道路の向かい側、二階建てのプレハブ建築だ。
建物の窓からは明かりが透けて見えていて、その前を時折影が横切っている。
「……誰かいるわね」
リリィは声を下げて、建物の方を見る。中の状況は分からないが、耳を澄ますと声が聞こえてくる。少なくとも複数人いるのは間違いなさそうだった。
「とりあえず、炙り出してみようぜ。いきなり突っ込んでくのも馬鹿らしいだろ」
ソニアがそう言って建物の影を指さす。彼女が拳を当てていた認証装置から流れて行った光は、チューブがいくつも並ぶ地帯に廃棄されていた自動車にまで伸びていた。
「物騒なこと考えるわね、ソニア」
「ほんとそう。やり方が野蛮」
「いや、お前らの制御構文だって十分野蛮だろ」
言いながら一行は少し離れた建物の陰に隠れる。ソニアが操る自動車は朽ちかけたパイプをいくつも弾き飛ばしながら、先ほどソニアが示した建物に向かって猛スピードで突っ込んだ。
大きな衝撃音とともに車が建物の壁に衝突する。建物の窓が割れ、中から若い男女が十人ほど飛び出してくる。
「誰の攻撃だ、探せ!」
言って彼らは各々システムに接続し、剣を生成して警戒態勢になる。その他にも銃を持っている人間が半分ほどいる。
「全部で十五人くらいで、半分が構文使いか。どうする?」
状況を見たソニアが二人に問いかける。
「ソニア、あの車もう一回うごかせる?」
「ああ」
「構文使いは、わたしが無力化した方が早い。ソニアが隙を作ってくれたら私が突っ込む。二人は異能使い以外をおねがい」
「オーケー」
「分かったわ」
二人は頷く。ソニアが操っていた車がものすごいスピードでバックして、外に出てきた若者たちに突っ込んでいく。逃れようとする彼らが散らばっていくのを見てすぐにシノが飛び出した。
「なっ」
隠れていた一行の近くにいた構文使いに鋭い斬撃を見舞うシノ。システムとの接続を切断された彼らの持っていた剣が消失する。間髪入れずそこに蹴りを叩き込まれ、男は地面に倒れる。
シノに気が付いた他のメンバーが彼女に向かって銃を向けるが、その銃のことごとくがリリィの
シノの強襲によって、15人ほどいた敵は僅か五人ほどまで数を減らしていた。それでも残ったメンバーは建物を背に集まってシノと姿を現したリリィとソニアに武器を向けている。
「何者だ、お前ら」
「おいおい、お兄さん、人に名前を聞くときはまず自分からってのが礼儀だろ? まぁただのチンピラにゃそんなことわからんか」
「ただのチンピラだと? 舐めるなよ、ガキ。我々はこの世界を作り変える崇高な使命のもとに動いているのだ」
「オロチ様の意志のもとにある我々を、貴様らの尺度で理解できると思うなよ」
その言葉を聞いたソニアが肩をすくめる。
「なるほど、そんなに間抜けとは思わなかった。教えてくれてありがとよ」
「それじゃ、遠慮する必要ないわね」
ソニアが言って、
「ははっ。侮ったな、お前らの構文ごとき俺の
「シノ、任せるわ」
瞬間、男に肉薄したシノの青い妖刀が、男とシステムの接続を切断する。間髪入れず、リリィがあらかじめ用意していた本命の構文が発動。鋭い風が吹きつけ、男たちだけを背後の建物に叩きつけた。
「いいねぇ、二人とも」
ソニアが言いながらシノの横を通り過ぎて、男たちの様子を確かめる。
「完全に伸びてるな。よし、中入ろうぜ。まだ何か残ってるかもしれないし」
「何も見つからなかったらぜったいソニアのせい」
「間違いないわね」
「いーや、最後にリリィもぶつけてるからおあいこだ」
一行は建物の中へ進んでいく。
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