邂逅

 一行は砕けた壁からプレハブ建築の中に入っていく。中には木製のテーブルとイスがいくつか並んでおり、プラスチックの床には何かの作業に使っていたと思われる工具や、先ほど箱の中で見つけた部品のようなものが散乱している。

 車が衝突したときに吹き飛ばされたと思しき教団のメンバーが数名倒れていたが、いずれも意識を失っているようだった。

 部屋の中を見るだけでは、取り立ててオロチ教団と呼ばれる根拠となるような証拠は見当たらなかった。

「ねぇ、さっきソニアが言ってた端末ってこれかしら」

 扉を越えた奥の部屋でリリィが声を上げる。手前の部屋を探索していたシノはそこに向かって歩いていく。別の部屋を探していたソニアも同じ廊下を通って、リリィのいる部屋に着く。

 リリィの傍らには、二メートルほどの高さをした巨大な箱のような機械が置かれていた。前面にはいくつかの光が小刻みに点灯を繰り返しており、その下には複数の引き出しのようなパーツが差し込まれている。側面は換気口のようでそこから空気が吐き出されているようだった。

「ああ、これで間違いないはず。こいつがやたらいろんな処理をしてるみたいなんだが」

「見た感じ、あいつらはこれを組み立てるためにいろいろここに資材を集めてたみたいだし、これを調べれば何かわかると思うのよね」

「アタシが分かるのは、こいつの処理がシステムと接続しているってことだけだな」

「システムに対してコマンドを打ってるみたいだけど、中身はわかんない」

 シノも合わせて答える。リリィも端末に手を触れてみるが、小さく首を振る。

「システムに対して処理を要求してるけど、これの解析は時間かかりそうだし正直無理ね。とりあえず別の方法がよさそうだわ」

 そう言ってリリィは先ほどと同じように履歴追跡ファーサイトの構文を組み立てる。

「ああ、あの倉庫だけじゃないわね。結構いろんなところから部品を集めてこれを作ったみたいね。

「だから、偽造した金を使って、いろんなところから仕入れてたってことか? まぁ、なくはないか」

 流れてくる情報を一つ一つ解析しながら、リリィがつぶやく。

「あいつらも言ってたけど、まぁこりゃ教団確定ね。ほら見て」

 リリィが解析をつづけながら、右手を振るうと情報が再編集されてまた動画になる。

『この部品を組み立てていけばよい、と』

『ええ、部品はアルギラ様が何とかすると言っていたわ』

『これでオロチ様は復活するのでしょうか?』

『もちろん。それがアルギラ様も含めた、教団の目的なのでしょう?』

 映像は、先ほど倒した教団員の一人と、別の女が話している場面を抜き出したものだった。

リリィが話し始めようとした瞬間、シノはその肩を掴んでいた。

「ちょっ、シノ、何?」

「今の情報、女の方も映せるかな」

「え、ええ。できるけど」

 シノの顔に見えるのは怒りと、少しの驚き。それにたじろぎながらも、リリィは端末が作られた瞬間の履歴情報を再度洗い直し、その映像を組みなおす。

 もう一度同じ映像が別の角度から流れる。映像に映っていたのは黒髪で色白の女性。年齢はシノやリリィの外見より3つか4つほど上に見える。長い髪を一つに束ねていて、その背中には大きな弓を背負っている。

 心なしかその顔はシノによく似ていた。

「……やっと見つけた」

 シノはそう言うと、システム上に流れるその映像に近づいて穏やかにほほ笑むその女性をにらみつける。

「シノの……知り合い?」

 事情が分からず、困惑するリリィ。事情を知っているソニアは対照的に暗い顔でシノに問いかけた。

「その人が……そうなのか?」

「うん。こいつは……ユヅキ、私の姉。私の故郷を奪った女」

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