たどり着いた村で(5)

 襲い掛かってきた男たちはリリィが生成したロープで拘束されて、倉庫の端に

寝かされている。男たちを軽々と移動させるソニアを見ながらリリィが言う。

「考えてみたら一人くらい起こしたままにしておけばよかったわね」

「いや、多分そっちの荷物を探った方が多分早いと思うぜ。おっさんたちから話を聞くのは骨が折れそうだし。それに、」

 ソニアは無造作に男の一人を壁に放り投げると、リリィの足元に転がる小さな部品を指さした。

「何に使うか知らないが、そんなパーツ、少なくとも宿の経営には使わんだろ」

「こっちには武器がはいってる」

 落ちている別の箱の中身を覗き込んだシノが言う。

「さっきのおっさんの話が正しけりゃ、東から仕入れたってことか? よくわからん」

「まぁ、どっちでもいいわよ。とりあえず見てみるわ」

 リリィが箱に近づいて手を伸ばす。その箱に青い燐光が纏わりつくと、すぐに膨大な情報がその周囲に次々に吐き出された。

 リリィがしているのは、システム上のあらゆる物体に付加される履歴情報を参照することで、その物体がどのような経緯を辿ってこの場所まで到達したのかを調べる制御構文スペル履歴追跡ファーサイトだ。

 履歴情報は理論上一切消去されないため、遥か過去まで見通すことができるが、情報量は極めて膨大になる。そして、その履歴は局所的な入れ子構造になっており、

過去にさかのぼればさかのぼるほど、必要な演算資源は指数関数的に増大していく。

 並外れた演算能力を持つリリィにとっても、難易度の高い高度な技術だ。

「そうね、武器の方はやっぱり東の方かしら。結構長いこと運ばれてきてたみたいだし、ちょっとわかんないわね」

 言いながら、リリィは隣の箱に手を伸ばした。燐光の範囲が広がり、さらに履歴情報がシステム上に次々と表示されていく。

「こっちは……手掛かりになりそう、待って。いま見えるように出すわ」

 リリィが片手を振るうと、広がっていた履歴情報の文字が一つに集まり、システム上にもう一つの現実が動き始める。過去の記録を映像にして表示させたようだ。

 始まりはこの倉庫になっている。真っ暗だった画面は徐々に明るくなり、倉庫の中に置かれていた箱は一日中そのままだ。それからもう一度暗くなると、倉庫に木箱が運び込まれているのが分かる。

 時間を逆回しにした映像は、その木箱を運んでいるのがちょうど彼女たちのそばで倒れている男たちを映し出す。

 さらに映像は彼女たちが入ってきた村の入り口の大きな門を映すと、その反対側へと向かい、鉄くずがいくつも転がった廃墟にたどり着く。さらにその中の廃墟の一つ、きれいに保たれた建物の中で再び荷物は降ろされると、画面は黒くなって消える。

「これ、この近く、だよね」

「みたいだな。リリィ、位置情報もらえるか?」

 リリィが右手を動かすと、周辺のマップが展開される。

「すぐそこね。とりあえず調べる価値はあると思うけど」

「だな。……どっちにしても、宿のおっさん殴っちまったからここには長居できなくなっちまったし」

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