たどり着いた村で(3)
いつの間にか客は入れ替わり、若い客に代わって少し老年の夫妻が店主と和やかに
談笑していた。少しずつ落ち着いてきた酒場の隅で、一行は今後の方針について話し合っていた。
「教団の動向を探るっていってもねぇ……」
ソニアがそう言いながら、机の下で足をぶらつかせる。
「歩き回ってみるしかないんじゃない。だれかに聞いたってわかるわけじゃないし」
「そんなこともないわよ、いろいろやりようはある、というか、何となくだけど状況は分かったわ」
「おいおい、リリィ、シノがいるからって見栄はるなよ」
ソニアが首を振るが、シノはまじめに返す。
「どうやって?」
「シノはさっき見てたでしょ。まぁ偶然っちゃ偶然だけど。これよ」
そう言ってリリィは懐から取り出した銅貨をテーブルの上に置いた。二人にはそれが何の変哲もない普通の銅貨に見えている。
「……そういうこと?
シノが背負ったムラサメに触れてシステムに接続する。
「察しがいいじゃない。これ、署名がついてないわ」
リリィの言う通り、シノの視界には、貨幣のそばに本来あるべき正当な『署名』が付加されていなかった。
あらゆる
本来、レナトゥス公国が発行しているこの硬貨には、レナトゥス公国によって署名が付加されている。それは、貨幣の偽造を防ぐために考案されたものだ。
こうした辺境地域でも街に一人や二人は構文使いがいて、署名の正当性を確かめるために働いている場合さえある。
リリィはもう一枚懐からコインをとりだした。そして声を小さくして話を続ける。
「普通に考えて、あたしたちみたいにちゃんと構文が使える人間が来れば貨幣の偽造なんてまず見逃さないし、それが分かってるならやらないわ」
「まぁ、偽造自体はよくあるけどな。これ両方ともってなると、ちょっと怪しいか」
「ここは酒場もあるし、お金の周りは悪くなさそう。たまたま偽造した貨幣がこんなにあるわけないわよ」
「じゃあ、偽造した貨幣を作りつづけてるやつがいるってこと?」
シノの問いにリリィは首を縦に振る。
「おそらくそうね」
「お金は必要だけど、まともな方法でそれを手に入れる気はない……教団と関係ありそうな気はする」
「そもそも偽造してまで金が欲しい方法が分からねぇし、微妙じゃね」
ソニアの答えにリリィは口を尖らせた。
「まぁ、そこは……おいおい考えるわよ。とりあえずこの店と取引してるやつを探ってみるわ」
「……何の手掛かりもないよりマシかな」
ソニアがテーブルに肘をつく。リリィが自信満々に胸を張る。
「まぁあたしに任せなさいって。それでだいたいうまく行ったじゃない」
「いやーどうだろ。昔すぎて覚えてねぇな」
「あんたね~、いずれ英雄になるあたしとの最初の冒険を覚えてないなんて、もったいなさすぎるわよ。今すぐそのポンコツ頭のメモリを再スキャンしなさい」
「そうだよ、ソニアは都合悪いこと忘れすぎ。まだ私奢ってもらってない」
「いやいや、それは覚えてるぜ、でも、結局シノは囮なんてやらなかったんだしチャラだろ」
「あら、何の話?」
「さっき擬人と戦ってるときに、ソニアがわたしに囮を押し付けた。代わりに村に着いたらなんか奢るって」
ニヤリと笑うリリィ。
「でも、シノが出てきたのを見て私も攻撃したわけだし。シノが囮をやってないってのはおかしいわよ、ソニア」
「なんだよ、妙にシノの肩持つな。まぁいいけど。すんませーん、肉もう一枚」
ソニアが叫ぶ。シノとリリィは無言で目を合わせて互いに微笑む。
「それじゃとりあえず後でまた集まりましょ」
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