少女たち (2)

 太陽は少しずつ傾きだして、進行方向の左側から一行に降り注いでいる。高い壁で覆われていた幹線道路の内側は、ところどころ崩落して通れなくなっているものの、一行の乗り込んだ車両が通れるほどの余裕は十分にあった。

 崩れた壁の隙間に見える世界は変わらず広大な草原。時折見える金属質の輝きは何らかの建造物で、幹線道路の縁から、銀色の糸のように細いレールが連結していた。

 動き出した車の中には、旅人の二人を除くと、5人ほどの男女が乗り込んでいた。旅人が物珍しいのか、彼らは車が動き出すなり、二人に声をかけていた。

「お嬢ちゃんたち、異能使いってやつだろ? なんでこんな辺鄙なところまで来たんだ?」

「ソニア、でいいよ。おっさん。あと、異能使いじゃなくて、ほんとは構文使いっていうんだぜ」

 愛想よく答えるのはソニアと名乗った機械の少女の方だ。もう一人、色白の少女は、ひび割れた椅子に座って背負っていた刀を抱え込んでいる。

 ソニアも同じ椅子に座っているが、小さな体格では床に足がつかず、時折大きく揺れたタイミングで、窓枠を右手でつかんでいた。

「ちょっとばかし、探し物があってさ。こうしていろんなところに旅してるんだよ」

「知ってるぜ、遺物レリックってやつだろ? 実はうちにも爺さんから受け継いだ古い機械があってよ、見に来てくれよ」

「悪いな、兄ちゃん、今回は遺物レリック探しじゃないんだよ」

「まぁでも異能使いが来てくれてよかったぜ。近頃はうちの村の周りもずいぶん擬人デミどもが増えちまってよ。ついでに追っ払ってくんねぇか」

「そうなの? このあたりに来るまではほとんど見かけなかったけど」

 バスが大きく揺れて話していた若い男が少しよろめく。今度は後ろにいた女性の方がソニアに声をかけた。

「どの辺から来たの?」

「南の方から。ゲヘナって言ったらわかる?」

「話には聞いたことあるわ。一度は行ってみたいけれど」

 雑談を続けるソニアと乗客たち。バスがまた大きく揺れる。そのタイミングでソニアは何かに気付いて左側を見つめた。

「シノ」

 ソニアが肩を叩くと、シノと呼ばれた色白の少女は振り返る。ソニアが窓の外へ目配せすると、シノは立ち上がって運転席へと歩いていく。

「どうしたんだい?」

 不思議がる乗客をよそに、ソニアも席を立って、窓の外を見つめ始めた。運転席まで歩いてきたシノは運転手の背後から唐突に声をかける。

「止めて」

「え?」

「クルマ、止めて。擬人デミがいる」

「どこに?  奴ら、この街道に近づいてきたことはないよ」

 運転手は言いながらもスピードを落とす。

「左の方だよ! おっちゃん」

 窓から身を乗り出したソニアが叫ぶ。彼女の指さす先には、草原の一点に帯状に広がった銀色の塊。その一つ一つが高速で移動する機械だ。

「うわぁ!」

 運転手がブレーキを強く踏んで、車が大きな亀裂の前で止まった。だが、街道のそばまで近づいてきていた擬人デミたちはバスに気が付いて進行方向を急激に変えていた。その距離はまだ500メートルほど先だが、統制の取れた様子で幹線道路をかなりの速度で走ってきている。

 みるみる近づいてくる敵を前にして、うろたえる乗客たち。それをよそに運転席の窓からシノが飛び降りる。

「そこで少し待っててよ。パパっと片付けちゃうからさ」

 言ってソニアも車を降りた。幅一メートルほどの亀裂を飛び越えると、二人は車の前に並び立つ。彼我の距離は300メートルほどまでに近づいている。

「コボルトが10、オーガが2ってとこかな?」

「案外いるね」

 シノが口を開くと、ソニアが大きく首を振った。

「余裕でしょ、こんくらい」

「言うね、ソニア」

 軽口をたたいたソニアに対して、シノが薄く微笑む。

「でもまぁ、たしかにそう」

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