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やせん

1章 Intersect

少女たち (1)

 広大な草原にまっすぐな道。周囲を高い壁で覆われた幹線道路が緑色の大地を両断するようにはるか先まで続いている。壁はところどころ砕けていて、その隙間から見える道路にもひび割れた個所がいくつも見える。

 昼下がりの太陽は、砕けた壁の向こうに大きな影を落とす。その手前、崩落した壁によって生まれた空き地に大きな車両が止まっていた。

 車両には既に10人ほどの男女が乗り込んでいる。運転席には、すこし困惑した様子でレバーを幾度も引く男性。後部座席に乗り込んだ乗客たちはそれを気に留めることもなく談笑していた。

 広場には歳月を経て踏み固められた道が幾筋もつながっており、その先には羊たちが草を食む牧草地が続いている。

 その道の一つ、草原の方角から二つの人影が歩いてきていた。一人は身長170センチほどの少女。体形はかなり細く、ぼさぼさの髪形をフードで隠している。背中には体形には不釣り合いな鉄紺色の刀。

 黒い髪、黒い瞳、そしてそれとは対照的な白い肌。切れ長の瞳も相まって、中性的な雰囲気を漂わせている。

 もう一人は、対照的に90センチほどと小柄な体格。シルエットは人型をしているものの、全身を銅色の金属で覆われた、機械の体だ。

  人間の頭部にあたる部分には、視覚を補う二つのセンサーが、そして、鼻の位置にも模様が描かれている。遠めに見れば顔に見えないこともないだろう。

 表面は光沢があるが、それぞれのパーツは丸みを帯びていて周囲の風景が歪んで映っている。全体としては愛嬌のある印象を与える佇まいだ。

 二人は並んで歩きながら、広場の中央に止まっていた車両へと進んでいく。運転席で四苦八苦していた男も、彼女たちに気が付くと、軽く手を振って声をかけた。

「ごきげんよう、お嬢ちゃんたち。どこに行くんだい」

 声をかけられた少女は、それには返事をせず、軽く会釈を返した。そのまま無言で、運転手が顔を出す窓の下まで歩いてくる。その視線は、運転手ではなくその斜め下に固定されていた。

「そのタイヤの調子が悪いみたいだけど」

「え?」

 唐突に少女が放った言葉に運転手は声を上げる。その反応を見て、少女は少し遅れて歩いてきていた、彼女の道連れに顔を向けた。

 90センチほどの小さな体は、少女と同じ位置を見つめながら、その体格には不釣り合いな大きな腕を車体に添えた。

 それと同時に車体を青い光が駆け抜けていく。先ほどまで動く気配もなかった車両がガタリと沈み、低い音でうなり始めた。

「おっさん、動力がちょっとおかしくなってたみたいだから、直しといたぜ」

 砕けた様子でそう言ったのは、鋼鉄の体をした機械の方。やや乱暴な口調とは裏腹に、その声はまさしく女性のものだった。

「おお、すげえな!」

「嬢ちゃんたち、ありがとうな」

 後部座席に座っていた中年の男性たちが二人を見下ろしながら、感嘆の声を上げた。運転手も窓から顔を出して二人に頭を下げる。

 機械の少女はその運転席のそばまで歩いていくと、運転手に問いかけた。

「どこに行く予定なんだ?」

「村に帰るところなんだよ、この辺りの農場で働いててな」

「へぇ、ここから近いのか?」

「ここからだったら、この車で30分もかからねぇさ。まぁ、ほんとに小さいとこだけどな」

「あんたらみたいな旅人が来るなんてずいぶん珍しいぜ」

 後部座席に座っていた男の一人が二人の会話に割り込む。無言で話を聞いていた少女は二人の姿を見ながら車に乗り込んでいる。少し遅れて機械の少女も車に飛び乗り、衝撃で車がわずかに傾く。

「じゃあ、ちょうどいいや。アタシらも乗せてってくれよ」

「もちろんさ。車、直してくれた礼もあるしな」

 運転手はそう言って、目の前のハンドルを握る。車が動き出す。




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