結構有名な人だったりするのか?

「ヤバい気配、か……」


 流石にそんな事を言われるのは初めてだが、少女の言う通りにヴォードはカードが無ければ弱い。だからこそ「ヤバい」というのが何を表しているのか分からない。


「……レイア。彼女はまさか俺のホルダーに気付いてたのか?」

「いえ、それはないと思います。ホルダーの中は異空間ですから」

「だとすると……」

「ホルダーって何?」

「うわあ!?」

「きゃっ!?」


 いつの間にか隣に並んでいた少女に、ヴォードとレイアは思わずその場から飛び退く。

 全く気付かなかった。ヴォードだけではなく、ヴォードよりもそういった事に気付くはずのレイアですら、こんな真横に居た少女に気付かなかった。

 その事実にヴォードは背筋が冷え……少女は、ちょっときまり悪そうに笑う。


「ごめんね? 盗み聞きは良くないって分かってるけど……やっぱり気になって」

「なら、このまま聞かなかった事にしてほしいんだが」

「んー……」


 ヴォードの言葉に少女は頬を掻き、やがて「無理」と笑顔のまま答える。


「僕、ちょっとした用事でこっちに来てるんだけど……もしかしたら、それが貴方達かもしれないし」

「まさか……グラニ商会か」


 その言葉に少女の表情がピクリと動き、やがて不敵な笑みに変わる。


「だとしたらどうする?」

「俺達はグラニ商会がわざわざ狙うような奴じゃないと答えるが……それでも俺に何か用か?」

「んー……」


 少女は考えるような表情になると、やがて、その笑顔が何も含まないものになる。


「そっか。やっぱり勘違いかなあ」

「なんなんですか、貴方。失礼に失礼を重ねて、最悪ってもんじゃないですよ」

「ごめーん。ほんと、僕もこういうのは嫌なんだけどさ。でも、何でも疑わなきゃいけない状況でさ」

「意味分かりませんよ」

「んー……だよねえ」


 少女はそう言うと、視線を何処かへと向ける。


「僕、この先の虹の架け橋亭って宿屋に泊ってるんだけど……そこで話、聞いてくれる?」

「虹の……」

「架け橋亭?」


 思わずといった風にヴォードとレイアが言えば、少女は「あれっ」と声をあげる。


「その反応……もしかして貴方達も?」

「ああ」

「遺憾ながら」

「そっかあ! それなら話が早いね!」

「ていうか私達、これからご飯なんですよ。遠慮してくれませんかねえ?」

「えー、じゃあその後でいいよ」


 そう言うと、少女はヴォード達から一歩離れる。


「自己紹介しとくね。僕はイヴェイラ! 貴方達は?」

「ヴォードだ」

「……レイアです」

「うん。じゃあヴォードにレイア、宿で待ってるよ! 看板娘の子に伝言はしとくから!」


 そう言って走り去っていくイヴェイラに、レイアは小さく溜息をつく。


「……厄介なのに絡まれましたね」

「そうだな。だがまあ……このままだとスッキリしないのも事実だしな」

「まあ、そうなんですけどね……それにしても、あの顔と名前……いえ、まさか……」

「なんだ。知ってるのか?」

「うーん。いえ、たぶん気のせいです」

「そうか。それなら、気分を切り替えよう。何処かいい食堂が見つかればいいんだが」


「そうですね。それにもし私の知っている人物だとしても、こんな所に居るわけないと思いますし」

「ふーん……結構有名な人だったりするのか?」

「まあ、ある意味では。あの女がそうかどうかは知りませんけど」


 なんとも複雑そうな顔をしているレイアをなだめながら、ヴォードは別の食堂を探し周囲に視線を向けていた。

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