それは俺もそう思うよ
「……中々いい部屋だよな」
「そうですね、壁も厚いみたいですし」
部屋の壁をコンコンと叩いていたレイアに、ヴォードも頷く。部屋にあるベッドは2人で寝られるような大きなものが1つだが、枕が2つある……つまりシールカが気を利かせたようだ。正直、ヴォードはベッドが2つのほうが心が休まるのだが……そこはもうレイアが「素晴らしい! 貴方分かってますね!」などと契約してしまったのでもう仕方がない。
「とにかく、この部屋なら安心して現状を確認できそうだ」
言いながら、ヴォードは仕舞っていたカードを展開する。
・【白カード】ファイアボルト×6、ヒール×2、ぷちラッキー、野営セット、アイスボルト×3、誰でもカリスマン、サンダーボルト×6、ロックシュート、木人召喚×3、そこそこ美味しいお肉、阻む暴風×2、厳選フルーツセット、念話×2、見えざる拳、天の落とし物、パワースラッシュ、トレジャーハンマー、マジックバリア×2、ホーリーライト、毒消し、カウンターストライク
・【銀カード】えっちなアメイヴァもどき、グレートヒール、質より量、必中必撃ケツストライカー、ミスリルの盾
・【金カード】浄化聖域、天焦がす劫火、ラストギャンブル
白カード39枚、銀カード5枚、金カード3枚。やはり白カードは多いが、金カードも2枚増えている。これはかなり幸先が良いと言ってもいいだろう。しかしながらこの新しい金カード2枚は、中々に尖った効果でもある。
・【金】天焦がす劫火……この火は、空に在る全てを焼くだろう。例外はない。
・【金】ラストギャンブル……全てのカードを失う。5枚のカードを得る。このカードは最低でも銀カード5枚、金カード1枚以上を含む30枚以上のカードを所持していなければ発動できない。
「……どう思う?」
「そんなに悪くはないですね。というか、かなり良いですね」
「そうなのか? 俺にはかなり使いにくそうに思えるんだが」
ヴォードはカードの中から【質より量】を取り出し、レイアに魅せる。
「俺としては、【浄化聖域】をコレで白カードに取り換えるべきかと思ってるんだが」
「なんてこと言うんですか。なんですか、こんなカード」
「ああっ!」
ぺしっとカードを叩いて捨てたレイアに驚き、ヴォードは慌ててカードを拾う。
「なんてことするんだ! 凄い効果のカードだろう!?」
「あのですね、ヴォード様。上位のカードを下位のカードに取り換えるなんてありえませんよ」
「だが実際数が重要な事だってあるだろう?」
「あるかもしれませんが、白カードなんかほっといても日々溜まっていくんです。折角の上位カードを手放す程じゃありません」
言いながら、レイアは銀カードを一枚持ち上げてみせる。
「たとえばこの【必中必撃ケツストライカー】ですが……実はコレが凄まじいカードだって分かってます?」
「ああ。支部長をブッ飛ばしたしな。あれは爽快だった」
思い出して笑うヴォードだったが、その反応が不満であるというかのようにレイアはカードを揺らす。
「いいですか、ヴォード様。これはですね、相手に合わせた性能で尻をぶっ叩くカードなんです」
「あ、ああ。そうだな?」
「極論すれば、こいつは相手がドラゴンだろうと魔王だろうとよく分からん理屈で防御してる奴であろうと、それに合わせて尻を砕きにいけるんです」
「それは……」
「お前が何者であろうと必ず尻を砕いてやる。このカードはつまりそういうカードであり、そういう事が出来るカードは白カードには存在しません」
……なるほど、そう聞けば確かに凄まじい効果だ。それが最適であったとはいえ、支部長との戦いに使うにはもったいない程のものだったとヴォードは思う。
「それだけじゃないですよ。たとえば一見使い道がえっちな事にしかなさそうな【えっちなアメイヴァもどき】ですが、これ服や防具に分類されるなら何でも溶かしますからね? 具体的に言うと、神造防具であろうと溶かします。あとたぶんですが、リビングメイルとかならリビングジェネラルであろうと一撃じゃないですかね?」
リビングジェネラル……動く鎧系でも相当な上級に位置するモンスターを一撃と聞かされて、ヴォードは思わず目を見開いてしまう。
こんな一生使わなそうなカードに、そんな力が秘められているなどとはにわかに信じられなかったのだ。
「そ、うなのか……」
「そうなんです。まあ、ミスリルの武具とかは単純に素材のレアさ加減で銀に分類されてる気もしますけど」
「高いもんな、ミスリル」
別名【聖銀】とも呼ばれるミスリルは自ら魔力を持ち、あらゆる金属の中でも特に高い魔力への親和性を持つ。当然のように採掘量はかなり低く、ミスリルを加工して作った製品は値段が相応に高くなっている。
「で、金カードはそんな銀カードの上位なんです。その意味は分かりますよね?」
「ああ。【浄化聖域】もヤバそうだしな」
「ヤバいなんてものじゃないですけどね」
まあ、そうなのだろうとヴォードも思う。明らかに攻撃カードである【天焦がす劫火】もヤバいのは分かる。だが……問題は【ラストギャンブル】だろう。
「このカード……【ラストギャンブル】は正直よく分からない。金カードなんだから凄いんだろうが……」
「凄いですよ? これに関しては【全てのカード】から同じ確率で5枚選ばれます。白5枚の可能性もありますが、虹5枚の可能性もあります」
「凄いな、それは……早速使いたくなる」
「ですが勿論、相当な幸運に恵まれないとそうはならないでしょうね。ヴォード様、ご自身の運に自信は?」
「……あまり無いな」
レイアに出会えたのは幸運だが、それで運を使い切ったという気すらする。
「そういう意味では、今使うべきではないって気もするな」
「その辺りはヴォード様の思うタイミングで良いかと。一時的にでもカードが減るリスクはあるんですから」
「ああ。さっきのグラニ商会の事を思えば、白カードは多めに持っておきたいしな」
「絡まれないのが一番正しくはあるんですけどね」
「それは俺もそう思うよ」
言いながら、ヴォードは天井を見上げる。
「……グラニ商会、か。こんな場所に何しに来てるんだろうな」
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