宿をお探しですか?
レイアにヴォードは引っ張られ店から遠く離れ、そのまま土産屋の並ぶ区域を抜ける。
どうやらこの辺りは旅道具店の集まる場所のようで、まったりと観光客たちが足りないものを買い求めている姿が見られた。
「もう、どうしてそんなもの買っちゃったんですか」
「どうしてと言われてもな」
「大体これ、作りが安っぽいですよ。たぶん見習いレベルの作ったものでしょうね」
まったくもう、と言うレイアの手に、ヴォードは黙ってブレスレットを握らせる。
「だが、君に似合うかもしれないと思ったんだ」
「……そういう風に考えてくれてたのは分かりますし嬉しいです」
「そうか、よかった」
「でもね、私じゃなくてヴォード様の為に使ってください! 私に貢ぐんじゃダメですよ!」
「だが、君にも報いたいとは思う」
真面目に……あくまで本気で言うヴォードに、レイアは頬を少し染め……誤魔化すように「ダメですよ!」と叫びヴォードに人差し指を向ける。
「どうしてもそうしたいんだったら、使いきれないほど稼いでからにしてください!」
「分かった、そうしよう」
「は?」
「使いきれない程に稼いで、君にそれよりずっと良いものを贈ろう」
真正面から言われて、レイアは思わず向けていた人差し指をへにゃりと曲げてしまう。
「……ズルいですね、それ。もしかしてプロポーズですか?」
「いや、そういうわけではないが……」
「え、ないんです?」
「ああ、そういうわけではないんだが」
「2回も言いましたね!?」
「そういうわけではないが……」
「3回目!?」
「……君とは長い付き合いになるだろうとは思っている。君に俺が見捨てられなければ、だけどな」
言われて、レイアは手の中のペンダントをギュッと握る。長い……長い最弱最悪としての生活が、未だにヴォードの心に影を落としている。それを感じたのだ。
(……足りないんですね。この人には、もっと大きな結果が必要です。それこそ、人生を変えるような……)
「……ここは、何か凄いえっちな事とかをするべきでしょうか」
「前にも言ったが、俺は君に慎みを持ってほしい」
「でも、男の人はそういうので人生観変わったりするってデータにありますし」
「データとやらは知らないが、俺は君を踏み台にする気はないんだ」
「私はちょっと楽しそうだなって思いますけど」
「レイア」
「はーい」
ちょっと残念そうな顔をしながらも、レイアは「ふむ」と頷く。そっち方面は、ヴォードは好きではない。知ってたが、一応提案はしたくなる。まあ、それはさておいて……そうなると、やり方は限られてくる。
「決めましたよ、ヴォード様!」
「な、何をだ?」
「何か大きな事をしましょう!」
「大きな事って……いや、それは確かにしたいが」
冒険者として名を轟かせるのがヴォードの目標ではある。だが、その為に具体的に何をすればいいのか。
「冒険者ギルドに行けば何か依頼があるだろうが……今はカードの手持ちも不安だしな」
「む、確かにそれは問題ですね。ですがそれは時間が解決してくれます。とりあえず……今日の宿を探しましょうか!」
「……変な事ならしないぞ?」
「しましょうよ。ていうか変じゃないですし。いや、そうじゃなくてですね」
「ああ」
「……あの女が居たから出来ませんでしたけど、今の手持ちも確認したいじゃないですか?」
「ああ、それは確かにそうだな」
ここに来るまでの旅で、カードもそれなりに溜まっているし……効果について相談したいカードもある。その為には、レイアの言う通りに宿を探す必要があるだろう。
「お兄さん、宿をお探しですか?」
「ん?」
ヴォードは自分の服の裾を引っ張る腕に気付き、振り返る。するとそこには、レイアと同じくらいの身長の少女が笑顔で立っていた。
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