だが、そうだな

 ニィザの街は、一言で言えば大きな街だった。先程ニルファと別れた入り口広場も相当なものだったが……並ぶ建物もスダードの街とは何もかもが違う。

 たとえば、大通りに並ぶのは全て店。西方のサンデル山脈を観光資源としているせいか宿は西方の通りに集中しているらしく、今ヴォード達がいる中央通りには宿はほとんど存在しない。


「色々並んでるな」

「観光の街ですからねえ。自然と品揃えもバラエティ豊かになるんでしょう」


 適当に近くにあった店先を覗くと、普段使いするとは思えないような木彫りの人形が並べられている。どう見ても家に置く為のものだろうが……どのみちヴォードには使い方が理解できない。


「どうしました?」

「いや、この人形……」

「はあ、これですか」


 言われてレイアも人形を眺めるが、よく言えば味のある……まあ、そんな感じの木彫りだ。

 品質もバラバラで、恐らく同じモチーフであると思われるが全然違うように見えるものも多数だ。


「……えーと。たぶん『登山家ノーデン』だと思われます」

「お嬢さん、詳しいねえ! ファンなのかい?」

「はあ。いえ、まあ……」

「その通りさ。サンデル山脈のうちトワット山を含む3つを踏破し、数々の伝説を残した登山家ノーデン! 彼が現役引退後もサンデル山脈に魅せられこの街に移り住んだのも有名な話だが、そもそも」

「あ、いえ。ともかくコレはその彼の人形である、と」


 ちょっと引いた様子のレイアに店主は頷き、人形を1つ手に取る。


「その通りさ。どうだい、お一つ」

「また今度の機会に」

「そうかい? 人気商品なんだがなあ」


 残念そうに言う店主に答えず、レイアはヴォードの手を引いて店の前を去っていく。

 あの手のトークはすぐに次の商品を勧めてくるから、無理やりにでも流れを切らないと終わらないのだ。


「ああいうのが人気なのか……」

「セールストークですよ、ヴォード様。あんなのが人気なわけないでしょうが」

「でも有名なんだろ?」

「地元の有名人ってやつですよ。あんまり大きな声じゃ言えませんが、ノーデンはそんなに有名じゃないですからね?」


 そもそも良い出来もないですし、と言うレイアにヴォードは思わず首を傾げてしまう。


「だが……そこら中の店に同じような顔のが並んでるが」

「うげっ」


 ヴォードの言う通り、周囲の店には「登山家ノーデン」をモチーフにしたらしいお土産品が大なり小なり並んでいる。

 ノーデン饅頭、ノーデン仕様の剣だの杖だの……といった諸々を見てヴォードは思わず首を傾げてしまう。


「……レイア。何故このノーデン仕様の剣には本人の顔らしきものが刻まれているんだ?」

「うわ、キモッ……」


 本来であれば宝石などをあしらうのであろう柄の装飾がノーデンの顔を掘った石である事に気付いたレイアが思わずそんな声をあげ、ヴォードも同意見ではあったが口には出さずに剣から視線を外す。

 正直誰が買うのか理解できないが、ホコリを被っているところを見ると誰も買っていないのかもしれない。


「誰も作る前に止めなかったんですかね……」

「分からんが……それだけ尊敬されてるという証拠……なのか?」

「無理にフォローしなくていいんですよ、ヴォード様」


 ちなみにノーデン仕様の杖は柄頭をノーデンの顔にしているせいで人面杖のような様相になっていて、剣よりもひどい感じである。


「……ちなみに今までコレ、売れました?」

「年に1本くらいかねえ」

「どうして作っちゃったんですか」

「分かんねえんだよ……」

「え、何それ怖い……」


 何か呪われてるんじゃないのかと店からレイアはヴォードを連れて離れ、別の店の軒先へとたどり着き……そこにもノーデングッズがある事に気付いてしまう。


「うひゃあ、なにこれ……ノーデンなりきり仮面? なんの拷問ですか」

「意外と売れるんだぜ、それ」

「誰が買うんですか」

「そりゃ……色々だな」


 恐らくはノーデンの顔を模したのだろう仮面にレイアが嫌そうな顔をして、その店の店主が並んだ品から何かを取り出してくる。


「ま、そんなものを並べてるのにも理由があってだな」

「はあ」

「お嬢ちゃんみたいに引き寄せられてくる奴に別のモノを売るんだよ。どうだい兄ちゃん、恋人にアクセサリーとかよ」

「ん……」


 店主に言われ、ヴォードは店主の手の中のアクセサリーに目を向ける。青の石を使ったブレスレットで、控えめにいっても趣味が良いものであるように思えた。


「こういうのは良く分からないんだが……良いものなのか?」

「良いか悪いかで言えば、普通だわな。だがサンデル山脈で採れる石を使ってるから思い出の品としては充分だぜ」

「やめましょうよヴォード様。カモられますよ」

「カモるんだったら、もっと高ぇもん売りつけるって。今なら銀貨1枚だ。お得だぞ」

「高額だな」

「高くねえよ。結構いい服着てるくせにケチだな兄ちゃん」


 ヴォードが着ているのはカードで出た『丈夫な服』だが、店主から見ると結構良い服……に分類されるらしい。その辺りはヴォードにはまだよく分からないものではある。

 まあ、カードは神から借り受けた力ではあるのだから、ある意味では当然ではあるのかもしれない……と、ヴォードはそんな事を思う。


「だが、そうだな。買おう」

「え、ちょ! ヴォード様!?」

「毎度!」


 懐から銀貨を取り出したヴォードに驚くレイアとは逆に、店主は満面の笑顔でブレスレットを差し出してくる。


「ところでどうだい。そのブレスレットとよく合う……」

「要りません! 行きますよ!」

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