正直、俺は良い同行者ではなかった

「おお、此処が……」

「えーと、此処はニィザの街ですね。西方に雄大なサンデル山脈を望む、観光の街です」

「そうなのか。だとするとモンスター騒ぎで困ってるんじゃないか?」

「さあ……それはなんとも。結局「強いモンスター」も出てきませんでしたしね」


 肩をすくめるレイアにヴォードはちょっと意外に思ってしまう。

 なんでも知っている風のレイアだが知らない事もあるんだな……と、そんな風に思ったのだ。

 無論、レイアがこの街の近況について知らないのは当然に過ぎる。だからこそ、ヴォードはすぐにレイアの反応は当然のものだと気付く。


「ま、それはともかく」


 しかしヴォードが何かを言う前に、レイアはニルファへと笑顔を向ける。


「どうですか、ニルファさん。満足されました?」

「んー……」

「区切りとしては丁度いいですし、この辺りで契約を再考してみるのも良いかと思いますけど」


 ニルファはニコニコと笑うレイアと、ヴォードを見比べて……やがて、ヴォードに笑顔を向ける。


「……そうですね。見るべきものは見れたように思いますし、この辺りで終了としても良いかもしれませんね」


 そう言うと、ニルファは小さな袋を取り出し……その中に手を突っ込んでゴソゴソとやり始めたかと思うと、その中から明らかに袋の体積より大きな袋を取り出す。


「なっ……」

「ふーん、魔法袋ですか」

「あら、もっと驚かれるかと思ったのですが」

「荷物が少なかったですから、その辺は予想してましたとも」

「……すまんレイア。魔法袋って何だ?」


 2人で分かった風に話されても、ヴォードが分からない。仕方なしにそう聞くと、レイアは「たくさん入る袋です」と身もふたもない説明を返してくる。


「いや、えーと……」

「正確には空間魔法を使った、見た目より多くのものを仕舞える袋ですね。どの程度のものかは、かけられた魔法のレベルによるってところでしょうか。次元収納って呼ぶこともありますね」

「へー……凄いんだな」

「言っておきますけど、ヴォード様の能力はもっと高度なものなんですからね?」

「……そうなのか」

「そうなんです」

「あのー……」


 放っておかれて困ったように微笑むニルファに、ヴォードは慌てて「あ、すまない!」と謝ってしまう。


「だが、多すぎるように思うが……」

「そんなことありませんよ。私も楽しかったですし……またお会いした時によろしくという意味も兼ねています」

「貰っときましょうよ。お金に罪はないです」


 レイアがニルファからサッと袋を受け取り、早くも中を確かめている。


「あ、凄いですよヴォード様。中身、全部金貨っぽいです」

「レイア……そういうのは後で……」

「ふふふ、構いませんよ」


 クスクスと笑うニルファに、ヴォードは難しい表情を浮かべ……やがて、頭を下げる。


「あら、どうされましたヴォードさん?」

「……正直、俺は良い同行者ではなかったと思う。それを謝りたい」

「あらあら。そんな事を言われましても」

「君の好意を無にしたし、少し疑ってもいた。だが、今日此処に至るまで君は頼りになる同行者で、俺は頼りない同行者だった」


 ヴォードの謝罪を聞いていたニルファは、ただ微笑み……「気にすることはありませんよ」と答える。


「最弱にして最悪の【カードホルダー】。その認識を変えるには充分な旅であったと確信しています。まあ、まだ何かあるんじゃないかって気もしましたが」

「それは……」

「まあ、それは良いです」


 ヴォードの言葉を遮り、ニルファは実を翻す。


「それでは、さようならヴォードさん。次に会う時まで、お元気で」

「ああ、君も……元気で」


 ヴォードとレイアはニルファの姿が消えていくまで見送り……そうして、自分達も身を翻す。別れの後も人生は続くし、具体的には今日の宿も決めなければいけない。

 レイアが「少し良い宿泊りましょう!」と言うのに対しヴォードはちょっと渋い顔をして……だからこそ、気付かない。

 ヴォード達とは反対方向に消えたはずのニルファが、屋根の上からヴォード達を見下ろしていたことに。

 クスクスと……先程までとは全く種類の違う笑みで見下ろすニルファは、ヴォードをどことなくねっとりとした視線で見つめている。


「……見せてくれないなら、仕方ないですよねえ。うふふ……どうしようかしら。どうすれば、貴方は私に見せてくれますかねえ?」


 邪悪。たとえるのであれば、そんな言葉が似あう……そんな、笑みだった。

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