何度も言うようだが

 ニルファを加えたこの旅は、ヴォードにとっては何とも疲れるものだった。

それは単純に肉体の疲労というだけではなく、ニルファからの誘惑らしきものの多さによるものだった。


「……ニルファ」

「はい、なんでしょうかあ?」

「何度も言うようだが、俺は不誠実な事をするつもりはないんだ」

「と、申しますと?」

「身体を押し付けるのを、やめてほしい」

「ううう……この痴女ォ……」


 獣のような唸り声をあげるレイアは、それでも焚火の前で律義にスープの準備をしていた。ヴォードとて干し肉を焙っているのだから、サボっているわけでもない。

 そう、料理をしているヴォードの背中に身体を押し付けるように貼りついた……というか押し付けているニルファに、ヴォードは耐えるかのようにそんな言葉を絞り出す。

 ヴォードとて、枯れているわけではない。色々と恵まれたニルファにそういう事をされれば、少なからず意識はしてしまう。

 それでもヴォードが何もしないのは、ひとえにその鋼の意思があってこそだ。


「はあ。では伺いますが、私への好き嫌いは抜きにして……こういうのはお嫌いですかあ?」

「ん……」


 その質問に、ヴォードは思わず答えに詰まる。実際、嫌いではないから困るのだ。だからこそ不誠実だとヴォードは思っているのだから。


「いや、そういう問題じゃないだろう」

「そういう問題ですよう? 私がレイアさんに勝つには、こういう方向性から距離を詰めるべきかなあ……って思いますし」

「それはどうかと思うぞ。自分を大切にしろ」

「してますよう? だからこそ、自分の武器の使いどころも知ってます」

「というか、君は神官戦士だろう?」

「ええ、戦士ですから欲しいものは勝ち取りますよ?」

「そういうものだったか……?」


 助けを求めるようにレイアに視線を向けると、レイアは頷く。


「……残念ですが、火神の教えは本当にそんな感じです」

「そうなのか……」

「だから負けないでくださいねヴォード様!」

「負けちゃいましょうよう、ヴォードさん」

「……しっかり断ったつもりなんだがな」


 溜息をつくヴォードにニルファは「ええー?」と言いながらヴォードに更にくっつく。


「火が点かないなら点くまでやれ、と申しますし」

「諦めてくれ」

「負けを認めない限りは死んでも負けではないとも」

「嫌だな、その火神の教え……」


 ニルファは依頼主でもあるし、何よりニルファ自身が戦闘の役に物凄くたっている現状、ヴォード達にも計り知れない利益を……主にカードの節約という方向でもたらしてくれている。

 その弱みがあるが故にヴォードはニルファを強固に突き放すことも出来ず……何より、ヴォード自身を好いてくれているらしいニルファを嫌いになる事も難しかった。

 むしろ、この旅の中で少しずつ絆されているのも感じてきていた。

 それでもヴォードがニルファの誘惑を拒絶するのは、その鋼の意思と……ニルファという女性を、好きになりきれないという、そんな不思議な感情がヴォードの中に同時に存在していたからで。

 そんなヴォードを、ニルファが時折不思議そうな、あるいは不満そうな……そんな目で見ていた事にまでは、流石に気付いてはいなかった。

 ともかく、そうして3人の関係はあまり動かないままに進んでいく。

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