ちょっと……かなり不愉快です

「うおお、と、止まれ! 何者だ!」


 そんな声が街門を守る衛兵から投げかけられ、ヴォードはアイアンゴーレムを停止させる。まあ、当然だ。そう気づいたヴォードはアイアンゴーレムにアサシンウルフを地面に置かせると、その手を借りてレイアと共にアイアンゴーレムの肩から降りる。


「すみません。便利だったもので、つい」

「はあ? お前……ヴォードか? 【カードホルダー】の? 便利ってお前」


 衛兵はアサシンウルフ達の死骸とヴォード、そしてレイアを見比べ……やがて納得いったように手を叩く。


「ああ、そうか! 【召喚士】に雇われたんだな? しかし、お前如きがよくそんなレアジョブとお近づきになれたな」

「あー、いや……」


 自分の能力だと説明したいが、再現しろと言われても出来はしない。どう説明したものかと悩むヴォードを庇うように、レイアがずいっと前に出る。


「そんな事、どうでもいいじゃないですか。それで、中に入っていいんですか?」

「へ? あ、ああ。だがゴーレムは困る。引っ込めてくれ」


 レイアに気圧されたように衛兵は言うが、これは仕方のない事だ。

【召喚士】は衛兵の言う通りにレアなジョブで、どの程度の存在を召喚できるかは本人次第だが、熟練の【召喚士】は確かにゴーレムを召喚したりするらしい。領主や国に雇われたりもする彼等は、街中で気軽に会えるような存在ではない。


「……だ、そうですよヴォード様?」

「え? 俺?」

「他に何方が?」

「えー……っと。ゴーレム、戻ってくれるか?」

「GOO」


 ヴォードの声に応えるようにアイアンゴーレムは吼え、光の粒になって消えていく。勿論、ヴォードの手にカードが戻るような事はない。基本的にカードは使い捨てなのだ。

 そうして消えてしまったアイアンゴーレムの居た場所をヴォードが名残惜しそうに見ていると、「ええ……?」という衛兵の信じられないような声が聞こえてくる。


「ゴーレムがヴォードの言う事を聞いた? え? 一体どういうことなんだ?」

「色々と事情があるんですよ」


 説明を諦めたヴォードがそう答えると、衛兵はレイアに視線を向ける。


「……まあ、【召喚士】が認めたなら、そういうこともあるのか?」

「別に私は【召喚士】じゃないですけどね」

「はあ!?」

「さ、行きましょうヴォード様。私も頑張ってコレ、運びますから」


 そこに残されたのは、5体のアサシンウルフの死骸。もうアイアンゴーレムは居ないから、自力で運ばなければいけないわけだが……ヴォードはレイアの綺麗な衣装とアサシンウルフの死骸を見比べ、衛兵へと視線を向ける。


「……申し訳ないんですが、荷車とかあったら借りられませんか?」

「あ、ああ。保証金はとるが、構わない」


 色々聞きたそうにしている衛兵に金を渡すと、ヴォードは手伝うと言うレイアに礼だけ言ってアサシンウルフを荷車に積み込んでいく。

「がんばれがんばれヴォード様!」

「……やめてくれ。凄い恥ずかしい」

「でも黙って立ってるのもどうかなっていいますか」

「黙って立っててくれればいいから」

「えー……」


 残念そうなレイアをそのままにアサシンウルフを積み終わると、ヴォードは衛兵に一礼し、荷車を引き始める。

 よいしょ、と声をあげながら重そうに荷車を引くその姿は、衛兵には今まで通りのヴォードにしか見えなかったが……自分をじっと見ていたレイアに気付き、衛兵はドキリとする。

 凄まじいまでの美少女なレイアではあるが、衛兵に向けている表情はあまり感情の感じられない笑顔であり……衛兵は、思わず一歩引いてしまう。

 そんな衛兵に、レイアは「えーとですね」と声をかける。


「まあ、そうなる事情も経緯も分かるので仕方ないとは思うんですが」


 唇に人差し指をあてるその姿は、どことなく蠱惑的で……しかし、冷たい雰囲気を纏うその姿に衛兵はゴクリと喉を鳴らす。


「ヴォード様がナメられるのは、ちょっと……かなり不愉快です」

「あ、ああ……」

「それじゃ、私も失礼しますね!」


 パッと笑顔の質を切り替え、レイアは立ち止まり振り返っていたヴォードの元へ走っていくと、荷車を後ろから押し始める。


「レ、レイア! そんな事しなくても大丈夫だぞ?」

「重そうな顔してなーに言ってるんですか! さ、行きますよ! 何処行くつもりか知りませんけど!」

「冒険者ギルドだ!」


 そんな会話をしながら遠ざかっていくヴォード達を衛兵は見送り、いつのまにかかいていた汗を手で拭き取る。


「……今日のアイツに何があったってんだ……?」


 答えは出ない。出るはずもない。それでも、衛兵は自問せざるを得なかった。

 ……もしヴォードから今日の経緯を全て聞いたとしても、彼は簡単に受け入れることなど出来なかっただろう。

 それが【カードホルダー】というジョブに長年の間与えられてきた評価であり……簡単に覆すことなど出来るはずもない常識だったからだ。

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