サモンゴーレム

 言われて、ヴォードはハッとしたように周囲を見回して……気付く。

 自分達の周囲を囲んでいる、モンスター達の姿に。


「……アサシンウルフ……!? 戻ってきたのか!」


 真夜中の暗殺者。闇を友とし駆けるモノ。この近辺で夜に出るモンスターの中でも特に会いたくない部類に入る黒狼型モンスターの群れが、そこに居た。


「どうやら、仲間を連れてきたようですね……しつこい連中です」

「だが、なんで襲ってこないんだ……?」

「カードを警戒しているものと思われます。それは魔力の塊のようなものですから」


 言ってみれば、今のヴォードは相当量の魔力を放つ「得体のしれない強者」に見えているという事だ。実際はどうであれ、それはアサシンウルフによる奇襲を躊躇わせる程度の効果はあったのだ。


「逃がしては……くれないよな」

「戦うしかありませんよ、ヴォード様。その為の力はもう、その手の中におありでしょう」

「……!」


 残りカードは4枚。ファイアボルトは……それ1枚だけではこの状況の突破は無理だろう。

 ヒールでもダメだ。無理矢理突破して回復しても、逃げ切れまい。

 ぷちラッキーは問題外。多少の幸運でどうにか出来る状況ではない。

 となると……残るは、1枚しかない。

 そのカードをヴォードが頭に浮かべると、瞬時にその銀色のカードがヴォードの手の中に出現する。


「来い……【サモンゴーレム】!」


 カードが光となって消える。その光は瞬時に意味ある形……巨大なアイアンゴーレムへと変じて、ヴォードとレイアをその手で拾い上げ肩へと乗せた。


「お、おお……」

「凄いですね、デカいですねヴォード様!」

 

 輝く目を持つアイアンゴーレムに睨まれて、アサシンウルフ達はたじろぐように後ろへと下がる。

 だが、リーダーらしき個体の一鳴きで一斉に襲い掛かり……次の瞬間には、真正面にいたアサシンウルフ2匹がまとめてアイアンゴーレムに蹴り飛ばされていた。


「ギャン!」

「ギャウン!」


 悲鳴をあげながら地面に叩きつけられたアサシンウルフ2匹はそれだけで絶命し……アイアンゴーレムに襲い掛かった他のアサシンウルフは、まともにダメージを与える事すらできずに混乱し始める。

 当然だ。如何に凶悪モンスターの名を欲しいままにするアサシンウルフといえど、鉄の塊のアイアンゴーレムに簡単にその牙が通るはずもない。

 そしてアイアンゴーレムにしがみ付いていたヴォード達は、そのアイアンゴーレムの雄姿にテンションがこれ以上ない程に上がっていく。


「よし、よし! 強いぞゴーレム! やっちまえー!」

「いけいけー、です!」

「GOOOOOOOOO!」


 叫ぶ声は了解の意味だったのか。蹴る、踏むと大暴れのアイアンゴーレムは何とか逃げて行った3匹ほどを残してアサシンウルフを全滅させ……もう襲い掛かってくるモノが居ない事を確認して、その巨大な拳を打ち合わせる。


「ハハハ、やった! 凄い、凄いな!」

「はい! まー、あと50分くらいで消えるんですけどね!」

「……そういうことを言うなよ」

「てへっ」


 ちょっとテンションが下がってしまったヴォードだったが、気を取り直してゴーレムを見つめる。


「とりあえず、このままゴーレムに護衛して貰って街まで戻るか」

「えっ。てっきり、時間ギリギリまでゴーレムで蹂躙を楽しむのだとばかり」

「それだとゴーレム居なくなった時点で俺達が死ぬだろ……」


 そう言って、ふとヴォードは思いついたようにレイアを見る。


「……もしかして、レイアって強かったりするのか?」

「やれと仰るならやりますが……本格的な戦闘系ジョブと比べてしまうと……ですね」

「そっか。ゴーレム、アサシンウルフの死骸を拾ってくれ! そのまま持って帰りたいんだ!」

「GOOO」


 恐らく頷いたのだろう。ゴーレムは足元のアサシンウルフを掘り返したり、転がっている死骸を手の上に乗せていく。


「……あ、そのぺったんこのはいいや。たぶん売れないし……埋めといてくれ」

「GOO」


 ゴーレムが足で穴を掘り、ぺったんこウルフを入れて埋めていく。そうして地面を踏み固め……ゴーレムは、街に向かって歩き出す。

 ここから街まではそれなりの距離があるが、ゴーレムの足であれば然程はかからないだろう。


 ゴーレムの上で揺られながら、ヴォードはポツリと呟く。


「……これ1回でゴーレムとはお別れか。ちょっと寂しいものがあるな」

「レア度のもっと高いカードなら、半恒久的な契約を出来るものもありますよ」

「そうなのか!?」

「ええ。まあ、手に入れるのはそれなりに難しいですけど」

「そっか……それでも、なんだかいいな。そういうの」

「そんなにゴーレムが気に入ったんですか?」

「それもそうだけどさ……」


 ゴーレムの上で揺られながら、ヴォードは笑う。


「こいつも、俺の仲間みたいに思えてきちゃってさ。もっと一緒に戦いたいな……って、そう思ったんだよ」

「GOOOO」


 何と言ったかは分からない。しかし、恐らくは肯定的な反応を返したのだろうゴーレムとヴォードを見比べて、レイアは微笑む。


「……そうですね。ヴォード様であればきっと、それが叶う日も来るでしょう」

「だといいよな」

「ええ。でもまあ、それまでにヴォード様も少しは戦えるようになりませんと。今のままだと、ゴーレム頼りですからねー」


 ちょっとからかうようなレイアに、ヴォードは「うっ」と呻く。

 まさにその通りで反論の余地はない。ないが……。


「ちゃんと戦えるようになるのか? 俺……」

「なりますよ。私の保証付きです」

「そうか。なら……」

「なら……なんでしょう?」


 チラリと見たヴォードの横顔は、夢見る少年のようだとレイアは思う。

 それほどまでに、目には輝きが戻ってきたのだ。


「なら、俺は……冒険者として、世界に名が轟くような人間になりたいな」

「ええ、なれますよ」


 レイアは、そう確約する。確かな根拠など、そこにはない。前例もあるはずがない。

 それでも、レイアはそう言った。


「貴方が望むなら、何にでも。私の」

「保証付き、か?」

「ええ、保証します。安心しましたか?」

「ああ、安心したよ。なあ、ゴーレム?」

「GOOOOOO!」

「ちょっと、なんでゴーレムと相棒感出してるんですか。そこはもっと私に依存してください!」

「いや、それは……どうなんだろう」


 そんな会話をしながら、ヴォード達は拠点としているスダードの街へと向かっていった。

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