ドロー
傷はもう、癒えている。
ゆっくりと立ち上がるヴォードに合わせるようにして、レイアも立ち上がり……自分よりも小さな、けれど目を離せないくらいに美しい少女に、ヴォードは問いかける。
「それで……君は、その……一体? 正直、何がなんだか……」
「そうですね。ザックリ言うと、ヴォード様は【カードホルダー】としてのランクアップの条件を満たされました」
「それって……もしかして、追加スキルの事か!?」
追加スキル。各ジョブが条件を満たすと得る事の出来るスキルの事を思い出し、驚きの声をあげる。
「【カードホルダー】に……そんなものがあったのか……?」
「歴代の【カードホルダー】は条件を満たす前に死んでしまわれましたようですしね。実際のところを申しますと、現界した【オペレーター】は、私が史上初ではないでしょうか?」
「なんてこった……でも、俺がいつ条件を満たしたっていうんだ?」
「そうですね……色々ありますが……」
条件1:非戦闘系の経験を一定以上積むこと
条件2:戦闘系の経験を一定以上積むこと
条件3:絶望を知り、それでも悪の道に落ちないこと
条件4:以上の条件を満たした上で、繋がりを求める心を所持していること
「おおよそ、こんな感じですね」
「……ひどいな」
「私もそう思います」
特に悪の道に落ちない、というのは難しい。
マトモに生きられないからと仕方なく悪の道に落ちる者だっている。
【カードホルダー】であれば、そうなる確率がどれほど高い事か。
「けれど、それも仕方のないことではあるんです」
「……どういう意味だ?」
困ったように笑うレイアに、ヴォードはそう問いかける。
ジョブとは、神が人に与えしものとされている。つまり【カードホルダー】に対する仕打ちは神によるものということだと思うのだが……何故それが「仕方ない」のか。
「【カードホルダー】に与えられし力は、非常に大きいものです。故に、善き魂を選び……それでも尚、試練によって厳選される必要がありました」
「一体……何なんだ? 俺に、どんな力が与えられたっていうんだ」
新しいスキルを得たのであれば、それが頭に浮かぶはず。しかし、ヴォードの頭に新しいスキルは浮かんでいない。
「……【コネクト】」
レイアが何かのスキルを使うと同時に、ヴォードの中に何かが流れ込んでくる。
それは新しいスキルの力と使い方であり……驚愕の表情を浮かべるヴォードからレイアはスルリと離れて一礼する。
「さあ、ヴォード様。貴方の物語を始めましょう? 此処に、始まりの咆哮を!」
「ああ……いくぞ、【ドロー】!」
それは世界に存在する魔力を、不可思議な力を持つ「カード」として物質化する【カードホルダー】固有のスキル。
世界の根源にもつながるそのスキルで生まれる「カード」の能力は、完全にランダム。強力なものから弱いものまで、完全に運次第。それだけではなく使用可能回数は1日1回、手に入るカードは5枚のみ。そして……ヴォードの目の前に5枚のカードが顕現する。
白いカードが4枚。そして、銀色のカードが1枚。
感じる魔力は銀が一番強く、白が一番弱いようだった。
「これが……俺のカード……」
だが、ヴォードにとってはそれはあまりにも感動的な光景だった。
カードには名前と精巧な絵、そして何かの説明文が書かれているようで……ヴォードは、それを1枚ずつ見ていく。
・【白】ファイアボルト……1+X本の火の矢を放つ。Xの数は籠めた魔力に比例する。
・【白】ぷちラッキー……1時間の間、ちょっとだけ運が上昇。
・【白】ヒール……怪我や傷が回復する。
・【白】トレジャーハンマー……その近辺で使用できる貨幣が少し手に入る。
・【銀】サモンゴーレム……1時間の間、アイアンゴーレムを召喚し使役可能。
「これは……凄いんじゃないのか……!?」
「レア度から言うとあまり……なんですけどねー」
「そうなのか? でも、運が上昇するとかヒールとか……」
「それは最低レアですし。もっと上には金カードとか虹カードとかありますもの。出てくる確率は相応に低いですけど」
「へえ……」
そうは言うが、ヴォードにとっては十分すぎる程に凄いものに思えた。何しろ、今までは憧れても絶対に使えなかったような力がカードの中に詰まっているのだ。まるで夢を詰め込んだかのようなカードを見て目を輝かせると、ヴォードは「【収納】!」と唱える。
そうすると、5枚のカードはヴォードの中に消えていく。
勿論なくなったわけではなく、いつでも取り出せるようになったわけだが、ヴォードには早速使ってみたいカードがあった。
そしてそれは、頭の中で浮かべるだけでヴォードの手の中に現れていた。
「【トレジャーハンマー!】」
叫ぶと同時に、カードが輝き……空中から、チャリンチャリンという音を立てて数枚の銀貨や銅貨が落ちてくる。
「おお……こんなに!」
「結構小銭な気がしますけど……」
「何言ってるんだ! これだけあればベッドのある宿にだって泊まれるぞ!」
「おいたわしや……きっとすぐに稼げるようになりますからね」
喜んで硬貨を拾うヴォードを見て涙をそっと拭いながら、レイアは呟いて。
次の瞬間、ピクリと何かに反応する。
「ヴォード様」
「ん?」
「囲まれています。戦闘準備を」
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