第7話 幼なじみギャルは一緒に寝たい



 あの後、俺はおばさんに家でとりあえず保護すると言って、凛を家に上げた。

 今、凛が風呂に入っているのだが、「覗いてもいいよ?」と言われ、リビングで正座しながら性欲と葛藤中である。

 見たら負けだ見たら負けだ‥‥‥。


「はぁ、成り行きで今日は泊めることになってしまったが‥‥‥どうしよう、すごく覗きたい」


 するとリビングの扉が開かれ、そこにはバスタオル一枚で身を包んだ凛が立っていた。


「ちょーっ!? お前なんちゅう格好で来やがったぁーっ!?」


「ケンちゃん、興奮してる。かわいいっ」


 そう言って濡れた髪を手ぐしで解しながらイタズラな笑みを浮かべる目の前の凛は、正に天使そのものだった。

 白い肌にスラリと伸びた脚。胸は程々に大きく、色っぽい唇。

 やばい‥‥‥立ち上る湯気のせいか凛がこんなにエロかったっけ‥‥‥。


「い、いいから早く着替えてこい!」


「むぅ、わかったよー」


 頬をぷくっと膨らませて拗ねたように風呂場へ戻って行った。

 全く、心臓に悪い‥‥‥。

 てかあいつ、恋人になった途端に恥ずかしがらなくなったな‥‥‥。

 なんだかしてやられた感じがして、悔しい気持ちに襲われる俺であった。


 俺も風呂に入ろうと思い、着替えて湯船に浸かった。

 さっきまで凛が入っていた、と思うとなんだか邪な気持ちになってくる。


「昔は結構一緒に風呂はいってたんだがなぁ‥‥‥成長って怖い」


 そう独り言のように呟くと、突然、風呂の扉が開けられ、そこには一糸まとわぬ凛がいた。


「ケンちゃん! 久しぶりに一緒にはいろ!」


「おまーっ!! さっき着替えただろ! なんで全裸なんだよ!?」


 俺がそう突っ込むと、凛はぶすーっと口を尖らせ、


「一緒に入りたいからに決まってるじゃん」


「いやでもなお前‥‥‥いくら俺ら付き合ってるからって、まだ一時間だぞ? 進展しすぎじゃない?」


「関係ないもん、とりゃっ」


 そう言うと凛は湯船に飛び込み、ザパーンと音を立ててお湯が湯船から溢れた。

 楕円形の湯船で俺が壁に腰をつけて座った体勢であるから、俺の目の前にちょこんと腰掛ける形で二人とも湯船に浸かっていた。

 そのせいで、俺のムスコが凛の背中に当たりそうになる。

 やばい‥‥‥非常にこれはまずい‥‥‥。

 早くここから脱出しなくては!


「お、俺そろそろあがるから」


 俺がそう言って湯船から上がろうとすると、腕をガシッと掴まれた。

 華奢な身体からは想像もつかない力でしっかりと握られ、俺は湯船に戻される形になった。


「だーめ、まだ入ったばかりじゃん」


「いや、その、逆上せやすいんで僕‥‥‥」


「嘘つき! そりゃそりゃ」


「!? バカお前やめっ!」


 凛が身体をモジモジさせて俺に寄ってくる。

 俺のMAXハイパワーになった息子が遂に、凛の背中に当たってしまった。

 そして俺は、我慢の限界の壁を壊した。


「ん? このモゾモゾしてるの何?」


「‥‥‥」


「け、ケンちゃん?」


「凛‥‥‥」


「は、はい‥‥‥」


「今日、一緒に寝るぞ」


 そう言って俺は目の前で「ええっ!?」と顔を真っ赤にして照れてる凛を抱きかかえて湯船から立ち上がった。






 ◇






 拝啓、お母様、お父様。

 春も終わりを告げ、ジメジメとした季節を迎えますが、いかがお過ごしでしょうか。

 こちらは元気にやっております。

 さて、早速本題に入らせて頂きます。

 俺は今、生まれてからの付き合いである幼なじみの姫野凛と、ベッドで寝ています。

 一体、何が起きたのか!? と思われているかも知れません。

 この度、俺の我慢が限界を突破致しました事を、ここにご報告させていただきます。

 どうか、そちらもお元気で。


「‥‥‥け、ケンちゃん。急にモアイ像みたいな顔してどうしたの?」


「あぁ。今テレパシーで親父たちと意思疎通をしていた」


「何話してるの!? まずいよね!?」


「冗談だ」


 そう言うと俺たちは抱き合ってけらけらと笑っている。

 幸せとは、何なのだろう? と問われたら今真っ先に答えられる自信がある。

 大好きな人と、時間を共にし、愛し合う。

 こんな簡単なことなのである。

 俺は今までの自分の行動を悔いなければいけない。

 小さい頃から『リア充』という人種に後ろから中指を立てていたこと。

 クラスのカップルが手を繋いで教室に入ってきた時、真っ先に茶化していたこと。

 誰もいない空き教室で行為に及んでいるカップルに、「校長先生! いいとこに来ましたね!」 と影から叫んでいたこと。

 あの時のカップルの顔は今でも忘れられないがな。


 だが、俺は今恋人が出来た。


 きっと、これからたくさんの人間に茶化されたりするであろう。

 けど、それは全て俺が行ってきたツケが回ってきたということだ。

 けど今の俺は、誰に茶化されようとも、凛を守るだけの覚悟と筋肉がある。

 だから俺は、


「凛」


 俺が左手で凛を抱き寄せながら言うと、


「んっ、なーに?」


「その、遅くなったけどよ」


「うん」


「これからもよろしくな」


 凛は乱れた髪をサラリと流して、昔と変わらない無邪気なくしゃっとした笑顔で、


「もちろん!」


 と言った。

 すると、凛はが何かを思い出したように


「あ、てかさケンちゃん」


「ん? なんだ」


「さっき風呂場でさ、欲情してたでしょ」


「ブフォッ!!」


 凛の発言に思わず吹き出してしまった。

 何を言い出すんだこいつは‥‥‥いや、してたんですけどね‥‥‥。


「まぁ、その、あれだ」


「なーに、はっきり言って」


「俺も男だってことだ」


「えっ、それってどういう‥‥キャッ」


 俺は体勢を変え、凛を押し倒す形になった。

 この夜にもきっと、終わりは来るだろう。

 ならせめて、その終わりまで愛し合うのが、彼氏となった今の俺に出来る事なのだ。



 そして、長い夜は更けていくのだった。

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