26.死んだ動物
おれは病室に逆戻り……というほどではないけど、少なくとも医者に傷口を縫ってもらうことになった。
太い糸が皮膚に食い込んでいるのを見ると、怪我したその瞬間より痛々しいし、気持ち悪かった。
腕が動かなくなるような事は避けられたみたいだったけど、痛みはしばらく引かないんだろう。
「俺に権限があれば狩猟免許を取り消すのに」
ケイドさんは苦々しくそう言った。
一度はオーケーしたのに、後からひっくり返したいんだ。……でも、心配以外の理由がないから、できないんだろうな。
できないから、あえて直に言ってるんだな、と思った。
お互いに言ってしまって、行動に移した後だからたちが悪い。
気まずい半分、おれのほうもここで引き下がると格好がつかない半分だ。
どうしたものかな。と思うのだけど、命がかかっていると言えばそうだ。
格好がつくとかつかないとか、軽く考え過ぎだろうか。
おれは考えた。ただの楽しみでやっているんだったら確かに割に合わない。
でも、中途半端で辞めたとして、後悔しないか?
引けない感じがする。
ケイドさんだけではなく、組織全体が何か慌てているような感じがした。
おれたちは一人一人呼び出されて、出くわしたモンスターについて説明する羽目になった。
それも別々の人に同じことを繰り返し聞かれた。だから、同じ説明を3回はする羽目になった。
まるで事件の容疑者だな、と思った。
……そういえば、小屋に火をつけたのは放火じゃないか。あっちはなあなあで済ますつもりか?
どうも、不良扱いされるのはかたい気がするけど。
「すまない。やっぱり俺にはわからないんだ。大人げがないかもしれないが」
壁に寄り掛かったケイドさんは、床に視線を落としながらおれに言った。
「ウデナガモグラと戦ってみてどうだった……?
よく考えてくれ。病院送りになるのを繰り返すのも、死んだ動物を繰り返し見るのも、面白い物なのか。
仮にの話だけど……大事な友達を失ったりするのは、お前だ。
どんなに他の人間がカバーしようとも、起こった事を最終的に受け止めるのはお前しかいないんだ。とどのつまりはな。
勘違いさせてたら悪いけど、俺はああいう事を楽しいと思ってやってない。辞めどころが今一つないだけだ。
好んで始めた、っていうのと、楽しいか、っていうのは違うんだよ」
うまく返答できない。そうだよなあ、と思うのが実際のところだ。
ケイドさんは頭をかいた。
「まだ10代の少年にこんなこと言うのは良くないよなあ。
それに説得力もない。死んだ動物で飯食ってる上、お前の生活が成り立っているのもそれのおかげだから。」
「おれは強くなるし、死なないよ、たぶん。
というか、その時はその時だろ」
視線を向けなおしたケイドさんは悲しそうだった。
「そういう事じゃない。ただ、雲行きが良くない気がするんだ。だから俺もちょっと気が変わってしまった」
憂鬱そうなケイドさんと真逆で、テンションが高いのがカトーだった。
あれっきり、何となく話も弾むし、クラブの結束も強くなった気がする。
流石に怪我の糸を抜くまではお休みにしようという話になったし、今後大型の動物を狩るのはやめようという話にはなった。
でも、全員再開するという意見は同じだった。
そうなった理由は、楽しいとか、危ないかどうかというよりは経済的な理由のほうが大きかったと思う。
カトーはドローンの修理や改良に結構お金がいるそうだし、トムとヒアリの家はそんなに裕福じゃないからだ。
コツコツバイトするより、狩りのほうがかかる時間と稼げるお金の比が良い。
そういうところに関しては、おれだけが関係ないような気がする。
それにしてもカトーはおれのことが本当に気に入ってるらしい。
ぜひ、家に遊びに来てくれという事になった。
自分でも順序が変だなと思う。
まあ、幼馴染ではないし、みんな訳アリっぽいから、気軽に家に行きたいって言えない所があってそうなってしまったんだけど。
何故かちょっとおれは迷ったけど、結局、いいよ、と答えた。
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