20.悪ガキ
妙な話だけど、俺たちにはそこそこ悪ガキの自覚があったように思う。
なぜかはわからない。
魚釣りの魚は基本食べるだけだけど、地上の動物を狩ってさばく事に抵抗がある?
売れば金になるのが、意地汚い感じがする?
仕事でやってる人ならいくらでもいる。
ふわっとした理由しかないのが、後ろめたさの理由かもしれない。
もっとも、おれ自身には、そのうち旅に出てやろうとか、デスゲーターが憎いとか、そういう理由はあるけど。
それだと不十分なのかなあ。
悪ガキなりに準備だけは慎重にした方がいい、というのが俺たちの結論だった。
学校の長期休みを使えば、準備のスケジュールが十分にとれるはずだ。
そんなわけで、時間を見つけては部室や、レストランの席で、会議を重ねた。
自然とカトーがリーダーになった。カトーには良く言えばカリスマ性があるのかな。
意外だったのはトムだ。初回でやってくるなり大量のノートと本をテーブルに乗せてこういった。
「オレは人間よりモンスターについて考えている方が好きなんだ。直接見たくはないけどな。」
「なんだよ、見にこいよ」「やだよ」
まあ、後方支援担当ってことになった。
関係したニュースなんかあるとすぐ記録しているんだとか。変わってる。
カトーが条件を言い出した。
「単独でいる生き物で倒せそうなやつか、群れを作っていても草食動物を狙う。
それもドローンかシュンの足のどちらかで追いきれそうなやつだな」
「鳥はやめておこう。飛べる奴は一人もいない」
トムのその言葉を聞いて、ヒアリは嫌な顔をした。
「カトー、ひどい」
「ヒアリの不幸な過去の事じゃない」
カトーが慌ててカバーした。
ヒアリはいちいち突っかかってきそうだ。あまり地雷を踏んでると進まなさそうだった。
これ、プルームとかが一人いたら解決……しないか。ヒアリがメンタルを病んじゃいそうだ。
資料をめくり続けていたトムが顔を上げる。
「完璧な条件はないかもしれねえ。どれかをあきらめることになりそうだ。
単独でいるモンスターは、昔から単独でどうにかなってきたからそうなってるんだよ。
アルマムースが強豪なのは、防御力超高いのに群れも作ってるからだ。欲張りはやめたほうがいい。
シュン、お前はどう思う?何をターゲットにしたい?」
確かに、前衛になるだろう、おれも意見を出さないといけない。
「うーん……、穴ぐらに巣を作ってるやつをおびき出すのはどうかな。
でかすぎない、イタチみたいなやつが良いと思う。カトーのドローンって結構音がするから、多分気づかれるけど。
でも、そういう動物って多分すぐ引っ越したりしないだろ。だから、ワナを張る余地があると思う」
「なるほど。じゃあ、これなんてどうだろう」
差し出されているページに書かれているのは、どう見てもイタチには見えない、変な生き物だ。
何というか……。
腕の長い、もじゃもじゃしたセミの幼虫みたいな、ナマケモノみたいなやつの写真が載っている。
「えー?これのどこがイタチなんだよ?」
思わず言ってしまったけど、トムにはかなり自信があるみたいだった。
「まあ、任せてくれよ。
このウデナガモグラ、毛皮の質もいいし、甲羅も装飾品になる。農地も荒らすから倒せるとそこそこ評価されるってわけだ」
ウデナガモグラ、って言われたらそういう見た目はしてる。
けど、なんかしっくりこないな。
「こいつは皮膚が固いんじゃないのか?」
「見かけほどじゃない。どうせ毛皮の分厚い動物もしぶといんだから。
太い矢かなんか用意すれば抜けるはずだ。毒か、麻酔を用意するんだ」
と、説明をしていたトムがだんだん不機嫌そうになってきた。
「オレ、めんどくさくなってきたわ。お前らこれ読み合わせろ」
そうか。別に、説明は好きじゃあないのか……。
そもそも、トムが実践したわけじゃないのも引っかかるんだよな。
「それと、カトーとシュンはライセンス必須でしょ。取って間に合うかな?」
ヒアリが頬杖をついて言った。
機嫌が直っている。地雷はたくさんあるのに、踏まれたあとのリカバー早いな。
おれはうーん、とうなった。
「そうなんだよな。っていうか、保護者に黙るわけにはいかないっしょ?カトーはどうするの?」
カトーに注意を向けると、
「え?楽勝だよ。大丈夫大丈夫」
なんて、軽~く返してきた。
こっちはケイドさんに言うんだから、なかなか気が重いんだけどなぁ。
ケイドさんはいつも相当に忙しいけど、時々家で過ごせる時間が長い日があるみたいだった。
そんな日はよく映画を見ている。それも、地球から持ち込まれたやつが多い。
さらに言うと、B級っぽいのが好きらしい。
なぜだか、その日はSF映画を見ていて、画面の中では地球人の軍隊がカマキリみたいなエイリアンと戦っていた。
……変なチョイス。
「どうかしたか?シュン」
先に声をかけられて、うっかり口に出してしまったかと思った。
「あのさ、おれ、狩猟のライセンス取りたい」
勢いに任せて言った。
「そうか……がんばれよ」
向き直ったケイドさんは、否定しなかった。
意外すぎる。こっちは口に唾たまるくらい緊張してたのに。
ただ、おれもちょっとせこいところがあって、専業にする、とか、旅に出る、とは言わなかった。
でも、これはそういう小手先が効いた感じじゃない。
「なんだよ、危ないとか心配とか言わないの?」
ケイドさんは肩をすくめた。
「言ってほしかったのはそっちか?」
「えー。言った事ひっくり返すなよ。
おれは本気だよ。でも、意外」
どこかうかない顔をしているのは、疲れているのか、何か複雑な事になっているのかな……という感じはするけど。
ケイドさんは、あくまで真面目な調子で答えた。
「そうかな。俺にはそこは止められんな。
何せ、俺自身のこの仕事、好き好んで始めたからな」
「へえ、なんでなの」
「そのうち話そう」
「ミステリアスじゃん」
「大したことじゃあないさ」
にしても、最近普段よりテンションが低い気がする。
ここまでで、軽口の一つくらい挟みそうなのになぁ、という感じがした。
やっぱ、ここ最近仕事きついのかな。それだけだといいんだけど。
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